ケン・ローチ監督最新作『家族を想うとき』トークイベントをレポート

ケン・ローチ監督最新作『家族を想うとき』の一般試写会で、武田砂鉄さん、町山広美さんが登壇してのトークイベントが行なわれました。

12月13日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開されるケン・ローチ監督最新作『家族を想うとき』。日本でも大ヒットを記録した『わたしは、ダニエル・ブレイク』を最後に映画界からの引退を表明していたケン・ローチ監督。名匠が引退宣言を撤回してまで新作『家族を想うとき』で描きたかったのは、グローバル経済が加速する中で変わっていく人々の働き方と、時代の波に翻弄される「現代の家族の姿」です。トークイベントでは、まさに監督が描こうとしたテーマに対して、ゲストのおふたりが考えを述べました。

 

場内の大きな拍手に迎えられ登壇した武田砂鉄さんと町山広美さん。まず始めに、83歳の名匠ケン・ローチ監督のイメージについて、武田さんは「ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズ。彼が76歳で。ライヴで豚の気球を飛ばして、そこにトランプ大統領のイラストを印字するというパフォーマンスがあって(笑)。彼が怒る理由というのが、この作品を観てわかる」とコメント。町山さんは「70歳、80歳の監督は、スコセッシ監督など然り、今は珍しくない。ダルデンヌ兄弟も同世代で、彼らも『サンドラの週末』という労働問題の映画を撮っていて」と語り、続けて本作について「行動したくなるような終わり方をしていて、行動しよう、という監督の強い意志を感じた」と述べてトークがスタートしました。

 

 

次に本作の感想について、町山さんは「ヤクザ映画を観たような気持ちになった(笑)。相手の組の事務所にひとりでカチコミに行くような感じ。普通に生活しようとしている人が、ヤクザ映画のような目にあってしまうということが問題」とキャッチーな表現で語り、続けて「個人事業主システムは権利を与えているようで、実は奪っている。見事に彼らはどんどん奪われていくんですよね」と搾取される働き方の問題に声をあげました。武田さんは「横田増生さんの『潜入ルポ amazon帝国』を読むと、この物語の構図と似ていて。同じようなシステムなんだなと感じた」と分析。町山さんも「この映画を観ると、(通販で)ポチっていいのかなと感じる。私たちが時間指定することで、労働環境を悪くしているんだなと」と普段の生活の視点から、省みるものがあるとコメント。

 

映画の印象に残ったシーンについて武田さんは「携帯電話の呼び鈴。あれが鳴る時に胸がキュッとなる。皆さんも試写会が終わったら、携帯をチェックして、あいつから連絡がきているから、トークイベントを聞かないで帰った方がいいのでは、連絡した方がいいのではないか、というように。短いスパンで色んなことに迫られる。それがあるので避けられない。介護福祉士の母親もそうですよね。あの呼び出しがなければ、追加の仕事が入ってこないのに…。でも、それで生活が成り立ってしまっている」と電話一本で仕事に縛られてしまうことへの恐ろしさについて振り返り、町山さんも「携帯を持っていることで、重複した活動をできるし、時間を分断できる。家族で楽しくご飯を食べていても、電話一本でそれが壊れてしまう」と語りました。

 

 

映画で描かれる家族の姿について、武田さんは「タイトルは『家族を想うとき』だけど、家族の枠組みを超えて他に頼るところがないから、結局家族に頼るしかない。それは日本社会も一緒で。親がだめなら、おじいちゃん、親戚に頼ったり、とにかく血縁で解決しろ、ということが起きている」と孤立化している現状について分析すると、町山さんも「最小単位の家族で助け合えと。他の連帯の関係を崩していっている。」とセーフティネットの問題についても話しました。

 

本作で描かれている働き方の問題について、町山さんは「監督は長きにわたり、イギリスの労働者の姿を描いてきて、映画のなかの登場人物たちも労働者階級という自覚があるわけで。一方、日本では、自分が労働者だと思っていなくて、消費者だという自覚でいる。だから、日本の方が切迫しているのではないかと思う」と国民の意識の視点から問題を提起。武田さんは「令和で元号が変わったとき、同世代の派遣社員の友達が10日間も休むと生活が大変と言っていた。その苦悩は、新聞やテレビでは伝わってこない。労働の観点で何かあると、自己責任を使って、儲けられないのはお前のせいだと言われてしまうんでしょうね」と自己責任で片付けられてしまう風潮に疑問を呈しました。

 

 

町山さんは「働き方改革は、働かせ方改革。雇う方の都合で良くなっているだけ。それを働き方改革といっているだけ」と鋭い視点で語り、続けて「映画では家族たちが自己責任にはまってしまうけど、『あなたの責任』と提示している問題が間違っているのに、イエスかノーで迫って。その枠組み自体がおかしいのに、イエスと言い続けて次第に落ちていってしまう。ひとりではおかしいと言えないからこそ、連帯して主張する必要がある。」ということを感じ取ったそうです。

 

最後に今、この映画が日本で公開することについて、武田さんは「作品性はもちろん、映画で描かれている理不尽さは、今の日本でも起きてるよなと思いながら観てた。これが、そのまま日本版として、こういう風に生きている人もいるわけで。だからこそ、どういう風に改善していくのか、模索する必要性があると感じた」とコメント。町山さんは「本作と、前作の『わたしは、ダニエル・ブレイク』は兄弟のような作品。両方に通じるのは、気がつくと、身近にいる優しくしたい人に、その権利と自由が奪われているということ。そのことを気づかせてくれる映画。この2本を周りの人に観て欲しい。まだ前作を観ていない人は、本作とあわせてぜひ観て頂きたいし、周りの人に勧めて欲しい」と熱い思いを語り、イベントを締めくくりました。

 

なお、『家族を想うとき』の公開を記念して『わたしは、ダニエル・ブレイク』の特別上映も急遽決定。名古屋のセンチュリーシネマで12月13日(金)から12月19日(木)までの1週間限定で上映されます。

 

 

■Film info
『家族を想うとき』

監督 : ケン・ローチ
出演 : クリス・ヒッチェンズ、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクターほか

2019年 / イギリス・フランス・ベルギー映画 / 英語 / 原題 : Sorry We Missed You
配給 : ロングライド
12月13日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開
Photo : Joss Barratt, Sixteen Films 2019

 

■Link
https://longride.jp/kazoku/

 

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