Miso Extra『EARCANDY』インタビュー|日英ハイブリッド・ポップが切り拓く新たな音楽的地平

Miso Extra

2025年10月、大阪・関西万博のUKパビリオンで日本初パフォーマンスを果たしたMiso Extra。香港生まれの英日ハーフである彼女は、日本語と英語を自在に織り交ぜた独自のサウンドで観客を魅了しました。デビュー・アルバム『EARCANDY』について、そして音楽的ルーツ、バイリンガルとしてのアイデンティティ、ロンドンの音楽シーンまで、率直に語ってくれたインタビューからは、ジャンルの境界を超えて多様なリスナーに届く彼女の音楽の本質が見えてきます。




万博のステージで掴んだ確信──緊張から「これは楽しめる」へ<

 

Miso Extra

 

──万博での日本初パフォーマンスはいかがでしたか。観客の反応やステージの雰囲気について教えてください。

初めてだったので、最初はすごく緊張していました。でもオーディエンスの顔を見た瞬間、落ち着くことができたんです。みんなちゃんと盛り上がってくれて、ファンもいて。それだけで「これは楽しめる」と思えました。ウェールズとスコットランドから来たtwstとFourth Daughterのパフォーマンスを見ていて、「大丈夫そうだな」という感覚もありましたね。

2日目はさらにリラックスできました。もう慣れた感覚で、より落ち着いて楽しむことができました。ステージ衣装としてサッカー日本代表のユニフォームを着たのは、日本のファンとの繋がりを作りたかったから。リスペクトを見せたくて、日本にいるなら着た方がいいかなと思いました。

──ご自身のルーツでもある日本でのライブは、特別な意味がありましたか。

初めてのパフォーマンスだから、それだけで特別です。思い出のひとつになりました。万博という歴史的なイベントでの公演だったので、それも特別でしたね。花火だけ見れました。すごかったです。

──普段はふたり体制でステージをやっているそうですが、今回も同じセットアップでしたか。

そうです、私のバンドとして、ふたりでやるのが普段のスタイルなので、同じ設定で出演しました。特別というよりは、日本に来て普段通りやっているという感覚でしたね。



『EARCANDY』に込めた“Naive in Love”──ポップの可能性を詰め込んだデビュー作

──デビュー・アルバム『EARCANDY』はどんなテーマやコンセプトを持って制作しましたか。

テーマは“Naive in Love”──恋に落ちることに対するナイーブさです。これはポップ・ミュージックによくあるテーマですよね。ポップ・アルバムを作りたかったので、ポップ・ミュージックの色々なテーマやトロープ(お約束)を取り入れて、ひとつの世界観にまとめました。

ポップはひとつのジャンルじゃありません。その中にはヒップホップ、R&B、エレクトロニックなど、いろんな種類の音楽や作り方があります。私の好きな部分をそれぞれ取って、ひとつの曲に入れて組み合わせたもの――これが私の頭の中にあるポップです。

──アルバムの中で特に思い入れのある曲はありますか。

全部楽しかったんですけど、「Moshi Moshi」というインタールードトラックは印象的でした。ゴリラズのスタジオに行った時、近くの電車が走っている音を録音して曲に入れたり、お母さんからのボイスメッセージを入れたり。「Love Train」では電車のアナウンスを私がやったりして、楽しかったですね。いろんなアイデアを入れたアルバムになりました。

アルバムを作っている最中は、どういう風にいろんな違うジャンルの曲を繋げるか、その赤い糸を探していました。電車の音を入れたら、まるで旅に出るような感じになって、次の曲への繋がりができる――そういう工夫は後から考えました。でも制作している間は、自然に出てくるものを書いて、そのアイディアをやっていただけです。

──メトロノミーとの共作曲「Good Kisses」について教えてください。

私がレーベルにメトロノミーのファンだと言ったら、「じゃあ一緒にスタジオセッションやってみないか」と聞かれて。曲が作れただけで嬉しかったです。学生時代からのファンと一緒にスタジオで曲を作るなんて、最初は想像もできませんでした。夢のひとつが叶いました。

「Good Kisses」は2、3回目くらいに会った時に書いた曲です。最初は緊張していました。ファンだったので。学校の時から聴いていて、「メトロノミーさんとどう話せばいいんだろう」と思っていました(笑)。でも彼らはとても優しくて、音楽の話をするうちに繋がりができて、今はもう友達みたいな感じです。

──アルバムを作る時に参考にしたり、影響を受けたアーティストはいますか。

子供の頃から宇多田ヒカルさんをずっと聴いていて、家ではアニメのテーマ曲やJ-POPが流れていました。あと、ジャネット・ジャクソンとかデスティニーズ・チャイルドが好きでした。声とビートが好きで。大体いつもドラム――ドラムの音やシンセの音はエレクトロやヒップホップから取っていますけど、テンポとヴォーカルはR&B系ですね。

アルバム制作の時はNewJeansをよく聴いていました。それ以外はKelis、メトロノミー。「Love Train」はTemsとかアフロビート系のドラムを使っています。あとMFドゥームやJ・ディラも好きです。

──MFドゥームやJ・ディラはどういうきっかけで聴くようになったんですか。

友達が聴いていたので、勧められて聴き始めました。でも最初はR&B系が好きでしたね。大学に行ってから、ヒップホップが好きになってきました。プロデューサーとして考えると、MFドゥームやJ・ディラはよく名前が出てくるので。サンプリング・ミュージックをやるなら彼らははずせないですよね。



「私は最高」を味噌に込めて──“Miso Extra”に隠されたワードプレイ

Miso Extra

──アーティスト名“Miso Extra”にはどんな思いを込めていますか。

英語で読むと“Me, so extra”――つまり「私は最高」という意味になります。ラッパーとして、ワードプレイや言葉遊びは大切にしたかった。それに「味噌」は日本文化を象徴する食べ物でもあるから、日本とのつながりも感じられる名前だと思いました。

名前はすぐに思いついたというより、友達と話していた時に「これいい名前だな」と思って、メモしておいて後で使ったんです。パーフェクトな名前になりましたね。

──日本語と英語をミックスする際、バランスはどう考えていますか。

意識しないといけない時もあるけど、基本的にはメロディが先です。メロディを書いてから、「ここの部分に日本語がちゃんといい感じに入るかな」と考えます。英語にはない言葉は日本語で、日本語にはない言葉は英語で表現する。どちらかの言語でしか伝えられない言葉や感情がたくさんあるから、フィーリングで決めています。響きも大切ですね。日本語がわからない人でも聴きやすいように。

特にオノマトペが面白い。「もりもり」「ごりごり」みたいな。日本語のオノマトペは、イギリスより全然面白いし、発音するのが楽しいから、日本語ができない人でも耳が引っかかりますよね。そういうオノマトペは意識して使っています。

──両方の言語を使えることを、自分の強みだと感じていますか。

強みかどうかはわからないけど、それが私です。自然な感じですね。バイリンガルで両方をミックスして使える人が少なかっただけで、どう使うかにルールはないですよね。最近は世界中がグローバルになってきたから、ミックスやダブルの人が増えてきました。

両方使える人と喋っていると、いつもそんな感じです。わからない時は英語で、わかる時は日本語で。できたら両方そのまま普通に使っています。



ロンドンの日常とシーンの課題──小さなベニューを守りたい

 

Miso Extra

 

──ロンドンの音楽シーンで活動していて感じる魅力や課題はありますか。

ジャンルが多すぎて(笑)。でも、グラスルーツレベルのアーティストが演奏できる小さいライブベニューが少なくなってきているのが心配です。それを守ってほしいと思います。

私は最初ショーケースが多かったですけど、それも大切だと思います。ひとりで人を呼ぶのは大変だから、みんなで仲間といろんなファンを連れてくる方がプレッシャーが少ない。私はエレクトロ系だからひとりで小規模なライブハウスではやっていませんでしたが、友達のバンド系の人はみんなライブハウスから始めて、だんだん上がっていきました。そういう場所はロンドンだけじゃなくて、イギリス全体で大切だと思います。

──ロンドンでお気に入りの場所を教えてください。

ロンドン・フィールズ、ヴィクトリア・パーク。イースト・ロンドンとか、サウスのペッカムあたりに友達がほとんど住んでいるので、よく行きます。みんなノッティングヒルをイメージしていると思うけど、ちょっと違うロンドンを見せたいですね。

新しくできたV&Aイーストストアハウス(旧オリンピックパーク内)もいいですよ。美術館なのに気軽に立ち寄れる雰囲気で、イケアで買い物しているみたいな感覚でした(笑)。あの辺りのカナル沿いはいい場所です。



パリの街で紡いだ内省──次の作品は”Glass Half Full”の視点から

Miso Extra

──次の作品について、どんな方向性を考えていますか。

今作っている曲は、『EARCANDY』とだいぶ違います。内省的で、スペーシーな感じです。

今年の夏、アルバムリリースが終わってキャンペーンが落ち着いてきた時、パリにひとりで行って街を歩き回りながら書いた曲もあります。“Glass Half Full”――コップに水が半分まであると、人によってそれを“半分しかない”と見るか、“半分もある”と見るか。そういう両面性を込めた曲です。街を歩いて音楽を聴いていると、よくそういうところに頭がいきます。自分で考える時間があったから、そういう気持ちを曲にしました。

まだ未完成で、これからどうなるかわからない状態でが、その不確かさも含めて曲にしています。

──東京にいても同じような気持ちになりますか。

東京は慣れているから、そうでもないです。「ただいま」って感じで、ほっとする場所ですね。でもパリはまだ探検している感覚があって、わからないところが色々あります。



日本での再ライブが夢──近日公開のMVと、いつか大きなベニューで

──最後に、日本のファンに向けてメッセージをお願いします。

近いうちに日本でMVを撮る予定です(1月21日リリースの「Right Here」)。楽しみにしていてください。次のアルバムのためかもしれないし、スタンドアローンの曲かもしれません。

日本でもういちどちゃんとライブができること――それが私の夢です。日本のみなさんにこの音楽を受け取ってもらえるだけで嬉しいです。次は大きいベニューでやりたいですね。

Interview & Text by British Culture in Japan編集部

MISO EXTRA
『EARCANDY』

 

Miso Extra earcandy

 

レーベル:
Transgressive / Big Nothing
発売日:
Now on Sale
  • 解説/歌詞/対訳付、日本盤ボーナス・トラック2曲収録

TRACK LIST

1.
Love Train
2.
Pop
3.
Good Kisses feat. Metronomy
4.
Certified
5.
Playboi
6.
Done.
7.
Moshi Moshi (Interlude)
8.
Slow Down
9.
Ghostly
10.
Don’t Care
11.
Candy Crushin’ feat. Tyson
12.
Earcandy
13.
2nd Floor(日本盤ボーナス・トラック)
14.
Constant Surprises(日本盤ボーナス・トラック)

 

Link

https://bignothing.net/misoextra.html

Text by bcij_admin