映画『セックス・ピストルズ 破壊の設計図』アンドレ・レリス監督インタビュー|神話の陰に隠された“真のソングライター”グレン・マトロックの真実

ライブ演奏を行う初期セックス・ピストルズ

映画『セックス・ピストルズ 破壊の設計図』が、2026年10月3日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国でロードショー公開されます。バンドの主要曲を手がけた創設メンバー、グレン・マトロックの回想録をもとに、過激な神話の陰に隠された音楽的真実を追った本作について、共同監督のアンドレ・レリス氏が制作の舞台裏を語ってくれました。

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パンクとの原体験とグレン・マトロックの音楽的貢献

ステージ上でベースを演奏するグレン・マトロックと歌うジョニー・ロットン

──監督ご自身、10代の頃にセックス・ピストルズを聴いて「人生が根底から変わった」と語られています。グレン・マトロックの自伝を映画化したいと思った最大の動機は何だったのでしょうか?

私自身、『ランディ・ローズ』のドキュメンタリー映画も作りましたし、ドキュメンタリーの作り手として自負があります。ある時、ニック・ミードと知り合って、お互いの近況を話していたら、グレン・マトロックの本をもとに映画を作る話が出ていると知りました。私はその本を14歳の時に読んでいたんです。「絶対にやりたい!」と思い、「僕がベストな人選だよ」とニックに伝えました。

セックス・ピストルズに対する情熱はすごく持っています。自分の人生を変えた存在ですし、そのグレン・マトロックと何かをやれるチャンスは二度とないと思いました。作り手として、血が騒ぎましたね。

高校時代はパンク・ロックをたくさん聴きました。セックス・ピストルズとザ・クラッシュの存在は大きかったです。南カリフォルニアでは、ブラック・フラッグ、サークル・ジャークス、リッチ・キッズ・オン・LSDたちを追いかけていました。

パンク・ロックの世界にハマるうえで注意したいのは、世界観や人生観が変わってしまって、それ以外の一般的な世界とは別物になってしまうことです。カルトな世界にハマっていたので、「そんなのは僕しかいないかも」と不安になって、孤独を感じることもありましたね。そういうところから、今は自由になれました。

若き日のグレン・マトロックのポートレート

──シド・ヴィシャスがピストルズの象徴として語られる一方、グレンは主要曲の多くのソングライティングに関わっています。その音楽的貢献に光を当てるうえで、構成や演出では何を意識しましたか?

ピストルズの主要曲と言われる「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」や「アナーキー・イン・ザ・U.K.」などは、ほとんどグレンが書いています。ただ、監督として大切にしたかったのは、グレンが書いた本に忠実であることです。

グレンから見たピストルズとの関わり方を、ちゃんと残すようにしました。スティーヴ・ジョーンズも本を書いていて、TVシリーズにもなっていて有名ですが、そこには書かれていない視点からの物語もありました。

グレンは、ピストルズのサウンドやソングライティングにおいて、とても決定的な役割を担っています。でも、多くの出版物やドキュメンタリーでは、そのことがあまり描かれていません。シドに注目が集まりがちですが、彼は曲を作ったりはしていません。そこが大きな違いです。

共同監督ニック・ミードとの連携とレジェンドたちの証言

地下ライブハウスで熱唱するセックス・ピストルズ

──本作はニック・ミード監督との共同監督・共同プロデュースです。世代や背景の異なるおふたりの視点は、撮影やインタビューにどのような深みをもたらしましたか?

ニックの監督スタイルは自分とは違います。ただ、彼はグレンの個人的な知り合いで、どうすればグレンが快適に製作を進められるか、作品に関われるかを熟知していました。僕自身はグレンと初対面だったので、「グレンってこういう人だよ」と仕事を進めやすいようにリードしてくれた、大切なパートナーでした。

ニックは、製作面というより、バンドマンや音楽マネージャー、音楽業界の人たちの輪に私を招き入れてくれました。ニック自身、セックス・ピストルズの大ファンかというと、そこまでではないけれど、音楽そのものの大ファンです。

今回、ウェイン・クレイマーのインタビューが収録されていますが、それが実現したのもニックが知り合いだったからです。彼がいなければ実現しなかったインタビューは多くあります。誰かがインタビューで証言してくれることは、ドキュメンタリーにおいて大事な部分なので、彼なしでは完成しませんでした。

──デボラ・ハリー、ビリー・アイドル、スティーヴ・ジョーンズ、ポール・クックらへの取材を通じて、共通するパンク精神や、世代を超えて受け継がれるものをどう感じましたか?

すごくパンク・スピリットを感じました。パンクは、それぞれが生涯をかけて大事にしてきたものですしね。

本作でのインタビューを最後に亡くなった方もいらっしゃいます。ウェイン・クレイマー、クレム・バーク、チーター・クロームです。彼らの生前最後のインタビューで、とても貴重なことを語ってくれました。そうしたことから、歴史的なドキュメンタリー映画の監督になれたことが非常に感慨深いです。本作でしか証言していないことも多々あります。

いろいろな理由で入れることのできなかったインタビューもありますが、その人たちも含めて、“パンク・ロック界のゴッドファーザー”たちに接触できたことは非常に嬉しく、誇りにも思っています。

ボートに乗る初期セックス・ピストルズのメンバーたち

未公開の記録と現代におけるパンクの意義

下向きのジョニー・ロットン

──本編には、デンマーク・ストリートの旧リハーサル室に残るジョン・ライドンの落書きや、“失われたピストル”と呼ばれるウォーリー・ナイチンゲールなど、初期の足跡が登場します。取材やアーカイブ収集で特に衝撃を受けたエピソードは何でしたか?

ひとつは、ジョン・ライドンのインタビューが実現しなかったことです。接触は試みたのですが、彼のマネージャーだった人、現在は亡くなっていますが、ニックと私に信じられないようなネガティブなメッセージをぶつけてきて、実現しませんでした。

ジョン・ライドンは、ピストルズの声でもあり、作詞家でもありました。そんな人が変わっちゃったのかなあと思うと、寂しいところもあります。

ジョン・ライドンが参加してくれなかったもうひとつの理由は、解散後に過去の映像が勝手に使用され、彼自身が訴訟を起こしていることです。そうしたメンバー間のいさかいもあり、実現しなかったところがあります。

実はシドの素材もいくつかありました。でも、この作品でシドに触れることにグレンが神経質だったので、多くは使いませんでした。グレン自身が音楽で抱えてきた痛みを見せたくないという思いもあって、彼がどれだけピストルズに貢献してきたのかにフォーカスしました。

グレンが音楽活動を通して関わってきたすべてのバンドや音楽を見せて、「ピストルズだけじゃないんだよ」という部分を伝えたかったんです。

シドが亡くなったことについて、ポール・クックがインタビュー中にとても感情的になり、途中で中断したこともありました。そこも未発表ですが、映像としては残っています。

ジョニー・ロットンとシド・ヴィシャス

──映画では、グレンの脱退とシドの加入を境に、バンドの音楽とスキャンダラスなイメージの関係が変わっていく様子が描かれます。もしグレンが残っていたら、ピストルズはどうなっていたと思いますか?

もしグレンが抜けていなかったら、もっとアルバムが作られていたと思います。そこには偉大な名曲があっただろうし、聴かれることのなかった名曲が歴史上にあったのかもしれないですね。

グレンが抜けた後は、サーカス小屋でワイワイやるようなバンドになってしまいました。シドが入ってカオス感が増し、世の中では「パンク=狂った人間たち」になってしまいました。それはシドによる影響が大きいです。

セックス・ピストルズのスタジオ・アルバムは1枚しかありません。それが重要で、レガシーとして扱われているところもありますね。

ロンドンの100クラブで演奏するセックス・ピストルズ

──映画は1970年代の英国の経済不況や若者の失業、社会の閉塞感にも触れています。ブレグジットや政治的対立などを経験した現代に、当時のパンク精神はどのような意味を持つと考えますか?

悲しいですが、セックス・ピストルズのようなムーブメントは、もう起こらないんじゃないかと思います。確かに政治的に終わっちゃっているなという側面もあるし、どこの国にもひどいと思うことは相変わらずあって、パンクが起こる土壌も揃っています。

でも、今は1970年代にはなかったインターネットやSNSがあって、どこにでもいろいろな音楽があります。昔のようにひとつのカルチャーや音楽が中心になって、ムーブメントが起こる状況ではないですね。

SNSとエンタメが掛け合わさって、それが主体になっているので、ムーブメントが起こる感じではないです。それには失望しています。

最近は政治や体制を批判する音楽をやっている人たちが、どんどん少なくなっています。それは悲しいですし、やっぱりムーブメントは起きないだろうなと思わされます。

映画『セックス・ピストルズ 破壊の設計図』のポスターを手にするアンドレ・レリス監督

アンドレ・レリス監督

公開日と作品情報

映画『セックス・ピストルズ 破壊の設計図』は、2026年10月2日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国で公開されます。劇場によって上映期間や上映時刻が異なるため、鑑賞前に各劇場の案内を確認してください。

映画『セックス・ピストルズ 破壊の設計図』のポスタービジュアル

監督
アンドレ・レリス、ニック・ミード
原作
グレン・マトロック著『I Was a Teenage Sex Pistol』
出演
グレン・マトロック、ジョニー・ロットン、シド・ヴィシャス、スティーヴ・ジョーンズ、ポール・クック、クリス・スペディング、デボラ・ハリー、ビリー・アイドル、ウェイン・クレイマー、ケニー・ジョーンズ、ファット・マイク、トレイシー・ガンズ、リチャード・ストレンジ
作品情報
2025年 / アメリカ映画 / 英語 / 96分 / 原題:I Was A Teenage Sex Pistol
公開日
10月2日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国公開
配給
スターキャットアルバトロス・フィルム

© 2025, I WAS A TEENAGE SEX PISTOL PRODUCTION, LLC ALL RIGHTS RESERVED

Text by British Culture in Japan編集部

 

Link

https://sexpistols-film.com/

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