ルーシー・リー展が東京都庭園美術館で7月4日開幕──国内10年ぶりの回顧展

ルーシー・リー展―東西をつなぐ優美のうつわ―

イギリスを代表する陶芸家ルーシー・リーの国内約10年ぶりの回顧展「ルーシー・リー展―東西をつなぐ優美のうつわ―」が、7月4日(土)から9月13日(日)まで東京都庭園美術館(港区白金台)で開催されます。ウィーンからロンドンへと渡ったリーの生涯を4章で構成し、交流作家の作品とともに約90年に及ぶ制作の軌跡を辿ります。




東西が交差した生涯と、陶芸家としての歩み

ルーシー・リー《青釉鉢》1980年頃 井内コレクション(国立工芸館寄託)撮影:品野 塁

ルーシー・リー《青釉鉢》1980年頃 井内コレクション(国立工芸館寄託)撮影:品野 塁

ルーシー・リーは1902年、オーストリアのウィーンに生まれました。ウィーン工芸美術学校でミヒャエル・ポヴォルニーに陶芸を学び、20世紀初頭のウィーンを席巻していた「ウィーン工房」の精神、生活全般を総合芸術として捉え、上質な手仕事と機能的なデザインを結びつける姿勢を吸収しながら制作の基盤を築きました。

1938年、ナチスの迫害を逃れるためロンドンへと移住。当初は生計を立てるため陶製ボタンの制作に携わりますが、この経験が後の繊細な技法の礎となります。工房を訪れた若い陶芸家ハンス・コパーとの出会いは、リーの作品世界を大きく広げる転機となりました。ろくろから生み出される優雅なフォルム、象嵌や掻き落とし技法による独創的な文様、そして釉薬が生む豊かな色彩は、今日もなお多くの人々を魅了し続けています。



展示の4章構成──ウィーン、ロンドン、東洋、そして円熟期へ

本展は4章で構成されており、リーが生きた時代と出会いを軸に作品を紐解きます。制作初期から円熟期まで、彼女が出会った場所・人・ものを手がかりに、その造形の源泉へと迫ります。

第1章:ウィーンに生まれて

 

ルーシー・リー《鉢》1926年頃 個人蔵 撮影:野村知也

ルーシー・リー《鉢》1926年頃 個人蔵 撮影:野村知也

リーが制作を始めた20世紀初頭のウィーンでは、生活全般を「総合芸術」として捉えた「ウィーン工房」の作家たちが活躍していました。建築・家具・衣服から日用品まで、上質な手仕事と機能的なデザインを結びつける精神は、若きリーの制作観に深く根ざしています。

 

上野リチ・リックス(装飾)/ヨーゼフ・ホフマン(形)《リキュールグラス》1929年[1917年(形)/1929年(装飾)]京都国立近代美術館蔵

上野リチ・リックス(装飾)/ヨーゼフ・ホフマン(形)《リキュールグラス》1929年[1917年(形)/1929年(装飾)]京都国立近代美術館蔵

本章では、ウィーン工房の創設者のひとりであるヨーゼフ・ホフマンら同時代の作家の作品と、そうした時代の空気を吸収しながら制作されたリーの初期作品を紹介します。

第2章:ロンドンでの出会い

 

ルーシー・リー《ボタン》(一部)1940-50年代 公益財団法人岡田文化財団パラミタミュージアム蔵

ルーシー・リー《ボタン》(一部)1940-50年代 公益財団法人岡田文化財団パラミタミュージアム蔵

ルーシー・リー《コーヒー・セット》1960年頃 国立工芸館蔵 撮影:エス・アンド・ティフォト

ルーシー・リー《コーヒー・セット》1960年頃 国立工芸館蔵 撮影:エス・アンド・ティフォト

1938年、ナチスの迫害を逃れてロンドンへ渡ったリーは、イギリス陶芸界の中心的存在であったバーナード・リーチと出会います。戦時中に生計を立てるため陶製ボタンの制作に携わるなか、工房を訪れた青年ハンス・コパーとの出会いが彼女の陶芸制作を大きく後押ししました。

 

ハンス・コパー《キクラデス・フォーム》1972年 国立工芸館蔵 撮影:アローアートワークス

ハンス・コパー《キクラデス・フォーム》1972年 国立工芸館蔵 撮影:アローアートワークス

本章では、リーのロンドン時代の作品に加え、リーチとコパーの作品を合わせて展示します。

第3章:東洋との出会い

 

ルーシー・リー《白釉鎬文花瓶》1976年頃 国立工芸館蔵 撮影:品野 塁

ルーシー・リー《白釉鎬文花瓶》1976年頃 国立工芸館蔵 撮影:品野 塁

リーが渡英した当時、バーナード・リーチを中心とするスタジオ・ポタリーの陶芸家たちは、日本・中国・朝鮮などの東洋陶磁を参照しながら表現の可能性を探っていました。1952年にイギリスで開催されたダーティントン国際工芸家会議には日本から柳宗悦と濱田庄司が招聘され、リーも彼らと交友を深めます。本章ではリーチや濱田らの作品とともに、リーと東洋陶磁との関わりを紹介します。

第4章:自らのスタイルへ──陶芸家ルーシー・リー

 

ルーシー・リー《白釉ピンク線文鉢》1984年頃 井内コレクション(国立工芸館寄託)撮影:野村知也

ルーシー・リー《白釉ピンク線文鉢》1984年頃 井内コレクション(国立工芸館寄託)撮影:野村知也

ルーシー・リー《練り込み花器》1980年頃 井内コレクション(国立工芸館寄託)撮影:品野 塁

ルーシー・リー《練り込み花器》1980年頃 井内コレクション(国立工芸館寄託)撮影:品野 塁

1970年代以降、リーの作風は独自の様式として確立されました。小さな高台が特徴の優雅なフォルム、マンガン釉や掻き落とし技法による文様、そして釉薬・形態・装飾が一体となって生み出す洗練された印象、現在私たちが「ルーシー・リーらしさ」として知るスタイルはこの時期のものです。

ルーシー・リー《ピンク象嵌小鉢》1975-79年頃 国立工芸館蔵 撮影:アローアートワークス

ルーシー・リー《ピンク象嵌小鉢》1975-79年頃 国立工芸館蔵 撮影:アローアートワークス

 

ルーシー・リー《ブロンズ釉花器》1980年頃 井内コレクション(国立工芸館寄託)撮影:品野 塁

ルーシー・リー《ブロンズ釉花器》1980年頃 井内コレクション(国立工芸館寄託)撮影:品野 塁

1989年に草月会館での個展をきっかけに日本でも広く知られるようになった彼女の鉢と花器が、本章に集結します。



アール・デコの邸宅空間で鑑賞する、という体験

ルーシー・リー《熔岩釉鉢》1980年頃 井内コレクション(国立工芸館寄託)撮影:品野 塁

ルーシー・リー《熔岩釉鉢》1980年頃 井内コレクション(国立工芸館寄託)撮影:品野 塁

会場となる東京都庭園美術館の本館は、1933年に旧朝香宮邸として竣工したアール・デコ建築です。装飾性の高い邸宅空間は、釉薬と形態・装飾が一体となって洗練された印象を生むリーの作品と独特の対話を生み出します。白金台の緑に包まれた建築の中で、うつわ本来のスケール感や素材感を直に感じることができる点は、大型美術館での展示では得にくい体験といえます。

なお、7月29日(水)・8月5日(水)はフラットデーとして入場者数を通常より制限し、8月7日・14日・21日・28日(金)は夜間特別開館として21時まで開館(入館は20時30分まで)します。障害のある方向けの配慮や、ベビーカーでの入館が可能な時間帯も設けられており、幅広い来館者が鑑賞しやすい環境が整えられています。



講演会・ワークショップ──参加型プログラムも充実

会期中には講演会・ワークショップ・アクセスプログラムが予定されています。いずれも無料・事前申込制です(当日有効の展覧会チケットが必要)。

 

プログラム名 日時 定員 申込開始
講演会「東西をつなぐルーシー・リー」
講師:岩井美恵子(国立工芸館工芸課長・本展監修者)
7月18日(土)14時〜(約60分) 80名 6月18日(木)より
担当学芸員によるミニレクチャー
講師:勝田琴絵(東京都庭園美術館学芸員)
7月31日(金)16時〜
8月8日(土)14時〜(各約30分)
各回80名 6月30日(火)より
ワークショップ「陶製のボタンをつくろう」
講師:岡崎裕子(陶芸家)/小学校高学年以上対象
8月22日(土)11時30分〜/14時30分〜(各約90分) 各回20名程度 7月22日(水)より
アクセスプログラム「さわ会―さわっておしゃべり鑑賞会―」
企画:半田こづえ(明治学院大学非常勤講師)/中学生以上対象/会場:茶室「光華」
7月12日(日)午前の会 10時30分〜12時30分
午後の会 14時30分〜16時30分
各回6名程度 5月12日(火)より

各プログラムの申込は東京都庭園美術館ウェブサイトから受け付けます。応募者多数の場合は抽選となります。



観覧料・アクセス・チケット購入について

本展は日時指定予約制のため、来館前に東京都庭園美術館ウェブサイトからチケットを購入してください。

会場
東京都庭園美術館(東京都港区白金台5-21-9)
目黒駅(JR山手線東口・東急目黒線正面口)より徒歩7分
白金台駅(都営三田線・東京メトロ南北線1番出口)より徒歩6分
会期・開館時間
7月4日(土)~9月13日(日)10時~18時(入館は17時30分まで)
※8月7日・14日・21日・28日(金)は夜間特別開館 21時まで(入館は20時30分まで)
※休館日:毎週月曜日。ただし7月20日(月)は開館、7月21日(火)は休館
観覧料
一般 1,400円 / 大学生 1,120円 / 高校生・65歳以上 700円 / 中学生以下 無料
※20名以上の団体:一般 1,120円 / 大学生 890円 / 高校生・65歳以上 560円
※第3水曜日(シルバーデー)は65歳以上無料
問い合わせ
050-5541-8600
チケット・詳細
https://www.teien-art-museum.ne.jp



英国陶芸の巨匠が問いかける「うつわ」の本質

ルーシー・リー《マンガン釉線文鉢》1970年頃 井内コレクション(国立工芸館寄託)撮影:品野 塁

ルーシー・リー《マンガン釉線文鉢》1970年頃 井内コレクション(国立工芸館寄託)撮影:品野 塁

日本でルーシー・リーが広く知られるようになったのは、1989年の草月会館での個展がきっかけです。2010年・2015年と大規模な展覧会が続き、愛好家のすそ野は着実に広がってきました。本展はその流れを受け、国内最大規模のリー作品が一堂に集まる稀少な機会です。ウィーンの装飾工芸から英国のスタジオ・ポタリー、そして東洋陶磁のエッセンスまで、複数の文化的文脈を身体に染み込ませながら形成されたリーの作品は、「うつわとは何か」という問いを静かに投げかけます。

陶芸に詳しくない方も、アール・デコの邸宅空間という独特のロケーションと、日常的なスケールのうつわが醸し出す親密な展示形式を通じて、作品に自然と引き込まれるでしょう。9月13日(日)の会期末まで、じっくりと時間をかけて訪れる価値のある展覧会です。

Text by British Culture in Japan編集部

 

Link

https://www.teien-art-museum.ne.jp/

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