Waterstonesが池波正太郎の『剣客商売』を「The Best Books of 2025: Crime & Thrillers」に選出

累計2,400万部を誇る池波正太郎の時代小説シリーズ『剣客商売』（英題：The Samurai Detectives Volume 1）が、イギリス最大手書店チェーンWaterstonesによる「The Best Books of 2025: Crime & Thrillers」に選出されました。日本の時代小説が海外でミステリとして受け入れられ、横溝正史や江戸川乱歩に続く本格推理ブームの流れに連なる動きとして注目されています。

時代小説がミステリとして新たな評価を獲得

イギリス版『剣客商売』

「The Best Books of 2025: Crime & Thrillers」は、英国の大手書店チェーンWaterstonesが選出する今年の犯罪小説とスリラーのセレクションです。『剣客商売』は海外では時代小説ではなく本格的なミステリとして読まれており、英米で静かなブームとなっている日本の本格推理の流れに連なる新たな潮流として位置づけられています。Waterstonesは昨年、柚木麻子の『BUTTER』を「Waterstones Book of the Year 2024」に選出し国内外で大きな話題を呼びましたが、翻訳小説がこの賞を受賞するのは極めて珍しく、柚木麻子が日本人初の受賞となりました。

ペンギンランダムハウスUKのエドワード・カーク氏は、「江戸時代ならではの風情ある独特の雰囲気と人々の価値観が読者の心をつかむ、これまでにないエキサイティングな時代小説だ。池波正太郎による傑作『剣客商売』は緊迫のサスペンスとアクションが見事に融合し、情感豊かな江戸時代における武士道と正義を見事に描き出している」とコメントしています。

翻訳者・梶田唯氏が原作の魅力を英語圏に伝える

英訳を担当した梶田唯氏は日英・英日翻訳者、イラストレーターとして活動し、京都府南部の里山のある町とニューヨークの郊外で育ちました。同志社大学文学部英文学科を卒業後、ケンブリッジ大学英文学修士課程・博士課程を修了しています。梶田氏は「子どもの頃から時代劇、歴史漫画や小説、特に江戸時代の物語に親しんで育ったので、『剣客商売』のような多くの人に愛される名作の英訳に携わることができ、心から光栄に思います」と述べています。

翻訳にあたっては「テンポの良い会話、簡潔な力強い文体、そして躍動感のある動きと対照をなすような季節を感じる風景描写など、原作の特徴を活かすことを心がけて訳しました」とし、軽快でありながらも重みのある『剣客商売』シリーズの魅力が英語圏の読者にも伝わり、日本の時代小説・歴史小説が海外でさらに注目されることを期待していると語っています。

吉川英治文学賞受賞の名作シリーズ

池波正太郎『剣客商売』シリーズ全19巻（新潮文庫刊）

『剣客商売』シリーズは田沼意次の権勢華やかなりし江戸中期を舞台に、白髪頭の粋な小男・秋山小兵衛が実は凄腕の剣術使いとして活躍する物語です。小兵衛は40歳年下の女房・おはると悠々自適の生活を送っていますが、ひとたび事が起これば小柄な体に秘めた剣の冴えで悪を斬ります。息子の大治郎もまた巌のような体躯と真っ直ぐな心をもつ剣士で、父子が力を合わせて剣に命を賭けて世の不条理を断つ姿が描かれています。

シリーズの魅力は個性的な登場人物たちに加え、食を愛した池波ならではの鮎や鴨鍋など小兵衛が楽しむ季節ごとの料理描写にもあります。本シリーズは吉川英治文学賞を受賞し、累計2,400万部を突破する大人気シリーズとなっています。新潮文庫では本編全16巻に加え『黒白（上・下）』など番外編3巻を含む全19巻を刊行。『剣客商売読本』『庖丁ごよみ』などの関連書も併せて親しまれています。

日本ミステリの海外評価が加速

池波正太郎

今回の選出は、日本の推理小説やミステリが英語圏で新たな文脈で再評価される動きを示しています。Waterstonesでは同じく雨穴の『変な絵』が「Book of the Year」の最終候補にノミネートされるなど、対照的ともいえるミステリが海外で評価されている状況です。『剣客商売』の著者である池波正太郎は1923年に東京・浅草で生まれ、下谷・西町小学校を卒業後に茅場町の株式仲買店に勤め、戦後は東京都の職員となりました。長谷川伸の門下に入り新国劇の脚本・演出を担当し、1960年（昭和35年）に「錯乱」で直木賞を受賞。「鬼平犯科帳」「剣客商売」「仕掛人・藤枝梅安」の3大シリーズをはじめとする膨大な作品群が絶大な人気を博しているなか、1990年に急性白血病で永眠しました。