ブリュードッグが約70億円で米ティルレイに売却──38店閉鎖・484人解雇、20万人投資家も返金ゼロ

BrewDog

英国を代表するクラフトビールブランド、ブリュードッグ(BrewDog)が3月2日(月)、米国の飲料・大麻企業ティルレイ・ブランズ(Tilray Brands)に£3,300万(約70億円)で売却されました。英国内38店舗が即時閉鎖となり、484人が解雇される一方、733人の雇用は維持されることが発表されました。




5年連続赤字と破綻危機──売却に至った経緯

BrewDog

ブリュードッグは2025年、売上3億5,700万ポンド(約760億円)に対し3,700万ポンド(約80億円)の赤字を計上し、5年連続の営業赤字(累計1億4,800万ポンド、約315億円)に陥りました。2025年7月には10店舗を閉鎖、大規模リストラを実施しましたが、純有利子負債2億3,900万ポンド(約510億円)の重圧を脱却できませんでした。

2026年2月14日(土)、経営陣は管財人アリックスパートナーズ(AlixPartners)を招き「構造的売却プロセス」を開始。創業者ジェームズ・ワット(2024年退任)による急拡大路線が裏目に出た形で、「ブリュードッグ全体を維持する入札は一切なかった」と管財人は明かしています。2月下旬に全店舗を一時閉鎖し、3月2日にティルレイとの合意が成立しました。



ティルレイが取得した資産──醸造所・ブランド・11店舗

ティルレイはニューヨークに本社を置く、大麻・医薬品・クラフトビールを主力とするナスダック上場企業です。今回の取引により、ブリュードッグのグローバルブランドおよび知的財産権、アバディーンシャー州エロンの醸造所、ラナークシャー州マザーウェルの物流センター「ホップ・ハブ」、そして英国・アイルランドに展開する11のブルーパブを取得しました。

存続する11店舗は、エロン、バーミンガム、ダブリン、マンチェスター、エディンバラ、ロンドンのパディントン・セブン・ダイアルズ・タワーヒル・ウォータールーなどの主要拠点です。米国およびオーストラリアの資産については別途交渉が進められており、今後30日以内に合意に達する見通しです。

営業継続となる11店舗

地域 店舗名・所在地
スコットランド エロン(醸造所併設)
エディンバラ
イングランド バーミンガム
イングランド マンチェスター
アイルランド ダブリン
ロンドン パディントン
セブン・ダイアルズ
タワーヒル
ウォータールー
※他2店舗(詳細非公表)

※ティルレイ取得の直営11店+フランチャイズ18店=合計29店舗が存続



閉鎖38店舗の全リストと雇用への影響

取引に含まれなかった英国内38店舗はすべて即時閉鎖となり、484人が解雇されました。733人の雇用はTUPEプロセスを経てティルレイ・ブランズ UK Ltdに移籍します。英国内外のフランチャイズ18店舗は閉鎖対象に含まれず、独立して営業を継続します。

地域 店舗名・所在地
イングランド・ウェールズ バジングストーク
バース
ボーンマス
ブリストル – ボールドウィン・ストリート
ブリストル – ハーバーサイド
ケンブリッジ
カーディフ
カーライル
チェルトナム
エクセター
ロンドン – ソーホー
ロンドン – カムデン・ロード
ロンドン – チャンセリー・レーン
ロンドン – クラーケンウェル
ロンドン – イーリング
ロンドン – ハマースミス
ロンドン – シーシング・レーン
ロンドン – タワーブリッジ
ロンドン – ワンズワース
リヴァプール
マンチェスター – ドッグハウス・マンチェスター
マンチェスター – マンチェスター・アウトポスト
ミルトン・キーンズ
ニューカッスル
ノリッジ
ノッティンガム
プリマス
レディング
サウサンプトン
スコットランド アバディーン – キャッスルゲート
アバディーン – ユニオン・スクエア
エディンバラ – カウゲート
グラスゴー – マーチャント・シティ
グラスゴー – アーガイル・ストリート
インヴェルーリー
パース
セント・アンドリュース
スターリング



20万人の投資家が返金ゼロ──エクイティ・フォー・パンクスの結末

BrewDog

ブリュードッグは2009年から「エクイティ・フォー・パンクス(Equity for Punks)」と題したクラウドファンディングを複数回実施し、醸造所拡大やバー開設の資金として累計総額7,500万ポンド(約160億円)を20万人超の個人投資家から調達しました。出資者には店舗割引や限定ビールなどの特典が与えられ、ファンコミュニティを巻き込んだ成長の原動力となりました。

しかし今回の売却により、これらの株式は無価値となり、出資者への返金は一切ないことが管財人によって明言されました。1人あたり平均500ポンド(約10万円)超を投じたファンも多く、英国クラフトビール文化を支えた熱心な支持者たちにとって、厳しい結末となっています。



「成功よりも過ちの痛みが大きい」──創業者ジェームズ・ワットの告白

この衝撃的なニュースを受け、2024年初頭までCEOとしてブランドを牽引してきた共同創業者のジェームズ・ワット氏は、自身のLinkedInにて複雑な胸中を綴ったメッセージを投稿しました。

ワット氏は投稿の中で、職を失ったチームメンバーや、投資が報われなかった「エクイティ・パンクス」への深い謝罪とともに、急拡大を優先した自らの経営判断への後悔を率直に明かしています。

    今週は、言葉では言い表せないほど辛い一週間でした。
    今のこの想いをどう切り出し、何を伝えるべきか、正直に言って言葉が見つかりません。

    月曜日、2007年に私が共同で設立した会社が売却されました。

    職を失うことになった、情熱あふれる懸命なチームメンバーたち。望んでいた結果を手にすることができなかった、素晴らしい「エクイティ・パンクス(投資家)」の仲間たち。そして、人生で最も輝かしい20年間を捧げたプロジェクトが、理想とは異なる結末を迎えてしまったこと。そのすべてに対し、今はただ心が張り裂ける思いです。

    2007年の創業から2024年初頭まで、私はCEOとして心血を注ぎ、全エネルギーをBrewDogに捧げてきました。ガレージから始まった会社を、世界をリードする独立系ビールブランドへと成長させ、何千人もの雇用を生み出し、業界全体の常識を覆してきました。

    BrewDogを始めた時、私はまだ24歳でした。漁船でアルバイトをしながら、父親の家の空き部屋で暮らしていた頃のことです。経営の経験など全くなく、自分が何をしているのかさえ分かっていませんでした。ただ、その場その場で必死に手探りで進むしかなかったのです。

    事業が爆発的に成長するにつれ、目に見える「成功」は間違いなく多くのものを変えていきました。周囲の視線、人々との関わり方、メディアの報じ方。そしておそらく、私たち自身も少しずつ変わってしまったのでしょう。

    「挑戦者(アンダードッグ)」としての戦略が功を奏しすぎた結果、世間から「既存の権威」と見なされるようになった時、その戦略は通用しなくなります。もっと早く、そのことに気づくべきでした。

    今振り返れば、ほかにも違ったやり方があったはずだと悔やまれることが多々あります。拡大を急ぎすぎ、手を広げすぎた時期もありました。支出の管理が甘かったこともあります。何より、度重なる危機に直面した際、自分らしく、誠実な対応ができなかったと感じていることが、今も私の中に重くのしかかっています。

    指揮を執った17年間、絶頂もどん底も、成功も失敗も、大きな賭けも、そして多くの過ちもありました。
    結局のところ、成功の喜びよりも、過ちの痛みの方がはるかに大きいのです。

    一人ひとりの雇用を守りたかった。エクイティ・パンクス全員に報いたかった。ですが、最終的にそれは叶いませんでした。その事実は、一生忘れることはないでしょう。

    この最終章について語るべきことは、まだたくさんあります。いずれ、その物語を話す時が来るはずです。ただ、それは今日ではありません。

    今週去りゆくチームメンバーの皆さん。
    本当にありがとう。皆さんは、間違いなく価値のあるものを共に築き上げてくれました。皆さんを守りきれなかったことを、心から申し訳なく思っています。

    エクイティ・パンクスの皆さん。
    人間ふたりと犬一匹、そして「無謀なアイデア」しかなかった頃から、この事業を信じ抜いてくれたその信念に、深く感謝します。

    素晴らしいメンバーや関係者の皆さんのために、本当に素晴らしいものを創ろうと人生を捧げられたことは、私にとって何よりの誇りであり、特権でした。
    皆さんの信頼に対し、本来あるべき結果でお返しできなかったことを、深くお詫び申し上げます。

    私は今でも、この会社を愛しています。それはこれからも、私という人間を形作る切り離せない一部であり続けるでしょう。
    たとえ次の章が他の誰かによって書かれることになっても、私はこれからは一人のファンとして、陰ながらエールを送り続けます。



ティルレイのもとでブリュードッグは再出発へ

BrewDog

ティルレイはこれまで2023年にアンハイザー・ブッシュ・インベブ傘下のブランドを複数買収、2024年にはモルソン・クアーズから4醸造所を取得するなど、クラフトビール事業を拡大してきました。今回のブリュードッグ取得により、取得資産だけで年間純収益約2億ドル(約300億円)、調整後EBITDA600万〜800万ドルが見込まれ、年間飲料収益は約5億ドル規模に達する試算です。2027会計年度初頭にはキャッシュフロー黒字化を目指しています。

2007年にスコットランドで設立されたブリュードッグは、英国クラフトビール文化を牽引してきたブランドです。今回の売却で経営体制は大きく変わりますが、ブランド名・醸造所・一部直営店は存続し、新たなオーナーのもとで再出発します。

Text by British Culture in Japan編集部

 

Link

https://brewdog.com/

Share
  • facebook
  • X (Twitter)
  • LINE
  • Mail

Sponsered Link

Sponsered Link