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アガサ・クリスティー最新ドラマ『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』監督・脚本・演出を手がけたヒュー・ローリーが制作秘話を語る
いよいよ12月25日(日)にアガサ・クリスティー最新ドラマ『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』が、ミステリー専門チャンネル「AXNミステリー」にて独占放送!
本作の監督・脚本・出演の三役を務めたのは、エミー賞ほか数々の賞を総なめにした伝説の人気海外ドラマ『Dr.House』のヒュー・ローリー。生粋のクリスティーファンである彼が、本作を手がけた経緯やドラマの制作について「AXNミステリー」に語ってくた秘話をご紹介します。
──アガサ・クリスティーの小説『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』をドラマ化したいと思った理由は?
ちょっとした運だったんだ。アガサ・クリスティーのひ孫のジェームズ・プリチャードに会う機会があって、会話の中でたまたま、クリスティー作品の中でも『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』を愛読していることを伝えたら、「まさに映像化を企画中なんだ」と。それで「僕みたいな年配の紳士に適した役はないだろうけど、脚本には挑戦してみたい」と伝えたんだ。彼は内心「マズい。どうやって言い逃れしよう?」と思っただろうね。顔がほんのり青ざめてたよ。結局、僕に任せられない理由が思いつかず、仕方なく認めてくれた。脚本を書き始めてみると、再びストーリーに引き込まれていったよ。
ちなみに本作のストーリーには、クリスティー作品の中でも最高にスリリングな新事実が用意されていると思う。僕は“どんでん返し”に気づく瞬間のことを考えるだけで、いまだにゾクゾクするよ。その瞬間の衝撃を映像で捉えられていれば本望だ。
──昔からアガサ・クリスティーのファンでしたか?
昔からずっとアガサ・クリスティーのファンだよ。彼女は大なり小なり犯罪小説の原型を築いた人で、その原型は今でも健在だからね。殺人ミステリーの可能性やあり方、本質、鉄則を定義したのはアガサ・クリスティーだから、犯罪小説家は誰もが彼女に借りがあると言える。ミステリーは鉄則に従ってこそ、読者を満足させられる。クリスティーはごまかさない。僕はそんな彼女の部分に今も昔も惹かれてるんだ。
ミス・マープルもエルキュール・ポワロも素晴らしいキャラクターで、ふたりには大いに楽しめるコメディ要素が備わってると思うが、僕の中のナンバーワンは常にフランキー・ダーウェント(『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』の主役のひとり)だった。
──原作のトーンやタッチという点で、これだけは譲れない、ドラマに反映させたいと思ったものは?
やはりロマンスだね。原作ではプロットが明快で、華麗に展開していく。それこそ、アガサ・クリスティーならではの才能で、彼女の頭の中の何かが彼女に戦慄と見事な謎の数々を生み出す力を与えた結果だ。読者は謎の真相に気づいた瞬間、著しい満足感を味わえる。
彼女が仕掛けたトリック、あるいは読者が自分にかけていたトリックに気づいた時にね。とは言え、僕はやはりボビイとフランキーのロマンスが中心に来て全体を支えるべきだと考えている。ふたりのロマンスこそ、なんとしても辿りたかったストーリーだ。
──登場人物たちの何に心をつかまれましたか?
どの登場人物にも夢中だったが、フランキー・ダーウェントは格別だった。彼女は僕が初めてときめいた人だ。彼女にゾッコンだったよ。フランキーはとにかく楽しい人で活発で、冒険心に満ちていて、面白くて怖いもの知らずだ。その上、心が広いから、言うなれば理想の相手だった。特権階級の出身だから高慢であってもおかしくないのに、それを微塵も感じさせなかった。
フランキーは出会った人たち全員に同じゲームをしている仲間のように接した。“何があっても仲間だ”という振る舞いは、驚くほど寛容だ。僕はフランキーからそういう人柄を感じ取って、完全に惚れ込んだ。このドラマの脚本を執筆中に、当時のときめきが再燃したよ。僕は彼女とボビイ・ジョーンズの仲を応援する。ふたりには恋に落ちてほしいね。ボビイはとにかく素晴らしいキャラクターだ。ふたりの関係は楽しくて機知に富んでるよ。
──ドラマ版の脚色を手がける以外に監督も務めていますが、自分で監督したいと思ったきっかけは?
楽しそうだと思ったが、“楽しい”という言葉は的を射ていなかったよ。監督業は苦労が絶えない。これまで一緒に仕事をした監督たちが抱えていたストレスに理解を示さなかったことに、今さらながら罪悪感を覚える。今なら監督たちの気持ちをもっと正確に理解できる。頭が下がるよ。
動かさなければならないパーツが山ほどあって、理由が何であれ、そうしたパーツがひとつでも機能しなくなると厄介なことになる。例えば1935年の自動車のエンジンが突如かからなくなるとか。ちなみにこの問題は実際にあったんだ! このドラマの制作中に、時代ものは次第に作りにくくなっていくだろうなと考えた。車が使いものにならなくなっていくからね。1930年式のベントレーを見つけるのは、なおさら難しくなっていくだろう。実物が残っていないとか、たとえ現存していてもエンジンや車輪がないといった具合だ。
──どんな“(映像の)ルック”を目指しましたか?
ヒッチコック作品のようなルックを目指していたと言ったら、つけ上がっているように聞こえるだろうね。何しろヒッチコックは決して手の届かない頂点にいるから。それでもヒッチコック作品のような趣を心がけていた。
時間がたつにつれて学んだのは、俳優陣にストーリーを語らせるのが最善だということだ。どんなに秀逸な構成で映像を作り上げても、ドラマやそのストーリーが味気なかったり、説得力に欠けていたり、のめり込めなかったりすれば、すべてが台無しになって瞬く間に魅力が失せてしまう。
運よくこのドラマには最高のキャストが集結した。僕が投げかけた難題の大半に命を吹き込むことができる俳優陣だ。彼らの才能に心底興奮して感激したよ。素晴らしいキャストと一緒に仕事ができて、本当にツイてた。彼らはヒュー・ローリーの脚色にも関わらず出演を承諾してくれたからね!
──ウィル・ポールターとルーシー・ボーイントンはボビイ役とフランキー役に何をもたらしてくれますか?
ストーリーの中心には、賢くてユーモアがあり冒険心にあふれる男女の恋愛に発展しそうな関係がある。僕は頭の中で、キャラクターの英雄的な一面をバランスよく表現できる俳優たちを求めていたんだと思う。必ず立ち上がって正しい行動をする、必要であれば危険をも顧みず、悪事や不正を正すことのできるキャラクターたちを。それを、ウィットを交えて楽しく演じ切り、新しいことにさえ挑戦できる俳優は誰か。
英雄的でありながらユーモアもある俳優をふたりも見つけるのは、実に至難の業だ──希有な存在だからね。ウィルとルーシーはまさにその希有な存在で、資質が備わってる。ふたりとも非常に聡明でユーモアに富み、腰が低く、ユーモアたっぷりで反応が早い。ふたりは生まれつき肩の力の抜けた気楽な性格で、ずっと一緒にいたくなる俳優なんだ。ただつるむだけでも、ふたりが同じ画面に収まっているのを見るだけでもいい。ありがたいことにふたりは呼吸がぴったり合っていた──合っていなかったらどうしていたことやら。ウィルとルーシーは最初から意気投合して、お互いに相手を笑わせていたよ。僕のことも笑わせていた。その調子でふたりが視聴者のことも笑わせてくれたらありがたいな。
──中心人物のボビイ・ジョーンズについて掘り下げたかったことは何ですか?
ボビイ・ジョーンズは実直だ。根は良識人で、それがボビイらしくもある──彼は正直な若者だ。少しばかり迷いがあって、自分の居場所を見つけられないでいる青年だ。僕には往年の俳優ジェームズ・スチュワートに漂う良識、大らかさ、正直さに近いものを捉えたいという思いがあって、キャスティング時には現代のジェームズ・スチュワートを見つけようとした。それがウィルだと思えたんだ。彼には話してないけどね。俳優に「もっとジェームズ・スチュワートらしくしろ」とは言いたくないし、言ったところで逆効果だから! 27歳の俳優には「ジェームズ・何だって?」と言われてしまいそうだけどね。とにかく僕はそうした要素をボビイに見いだし、ウィルに見いだした。
良識は非常に演じにくい特性だ。表面的にはつまらなく見える。しかしウィルのように、徹底したやる気と素直さをもって演じれば体現することが可能だ。なにしろウィルは途方もなく良識的で正直な男だからね。
ボビイは単純なキャラクターのように聞こえるが、単純は“簡単”とは違う。このふたつはかけ離れている。それに“単純”を表現するのは時に一番難しいことだ。ウィルなら絶対に僕の意見を支持してくれるはずだ。単純を演じるのは時として一番大変だが、ウィルはやってのけた。彼にはボビイと同じ良識が備わっていて、彼は僕が望んだ通りの実直な男だからだ。
──ウィルとルーシーを支える豪華なアンサンブルキャストについて話していただけますか?
エマ・トンプソンとジム・ブロードベントはマーチャム卿夫妻、フランキー・ダーウェントの両親を演じる。ふたりは言うなれば、ウェールズ北部の沿岸に建つ大邸宅に暮らすイカれた貴族だ。原作では小さな役で、このドラマでも引き続き、エマ・トンプソンのスケジュールを長期的に押さえるのが難しいという事情もあって、出番は少ないままだ。それでもエマとジムは快く撮影現場に足を運んでくれて、奇抜な衣装を着けて奇抜な人を一日演じてくれたよ。本当に楽しい一日だった。
同じ日に一家の事務弁護士(ソリスタ)役でパトリック・バーロウも撮影に参加した。パトリックとジムはナショナル・シアター・オブ・ブレント(National Theatre of Brent)で共演していた時期があるんだ。ふたりは80年代初期、エディンバラ・フェスティヴァル・フリンジに出演していた僕にとって、コメディの大英雄だったから、ふたりが再び一緒にいる姿を見ることができて光栄だったよ。
ポール・ホワイトハウスもアングラーズ・アームズ館の主人アスキュー役で出演している。ポール・ホワイトハウスは、いつでもそばにいてほしい人だね。彼がいない方がいいなんて状況はあり得ない。ポールは言わずと知れた釣り師で、アスキュー氏はアングリングの聖地のような宿を経営しているから、ふたりには喜ばしい共通点があった。何かが共鳴し合ってる感じだった。
撮影は2~3日だったが、ポールは才気煥発の極みでチャーミングそのもの。その場にいた全員が彼に夢中になったよ。実のところ度が過ぎて、ちょっと鼻につく感じだったから、やむを得ず彼のよからぬ噂を広めてみた。そうでもしないと、彼はあまりにも魅力的で、ステキすぎるじゃないか。なんて、彼は本当に最高だった。そしてやはり、快く手を貸してくれる寛大な人だった。
──あなたが演じている役は?
僕は医師のジェームズ・ニコルソン博士を演じてる。当時は“アサイラム(療養所)”とも呼ばれていた精神病院の個人経営者で臨床医長だ。精神障害を抱える患者向けの臨床施設だ。当時は医療界でもゾッとするような分野に博士は身を置いている。様々な抗精神病薬が市場に出回るよりずっと前の時代で、電気ショック療法の黎明期。
僕はニコルソン博士が人知れず、何年間も電気ショック療法に手を出していると踏んでる。博士は科学者で、博士なりに人間の苦悩を和らげようとするが、共感力に乏しい人だったと思うから、科学者として大いなる栄光を手にするのが、人々の苦悩を和らげるよりも重要な目標なのかもしれない。
──キャストのほかにも、このドラマにはラゴンダ車というスターがいますね。このヴィンテージカーをメインの車として投入したかった理由は?
僕がこんなことを言ってもラゴンダの持ち主のデーヴィッドには気を悪くしないでほしいんだが、実はラゴンダは第一希望ではなかったんだ。原作ではベントレーだから、最初はベントレーを探し回って、ある1台に決めた。そうしたら同社の親切な男性社員に、その車種は世界に1台しか現存しておらず、それもカナダにあって1,000~1,500万ポンドすると言われた。僕は「また連絡します」と伝えて、考えあぐねた挙げ句、Twitterにメッセージを投稿した。そうしたら「ラゴンダはどう?」というツイートが届いたんだ。
撮影最終日に撮影助手(グリップ)のひとりが「“ラゴンダ”という言葉を聞くのが10年後でもまだ早すぎてウンザリする」と言っているのを耳にした。ラゴンダのような車をあちこちに運び込んで、こちらの思惑通りに走らせるのは骨が折れる作業だったからね。それでもラゴンダはイカす車だから、その甲斐あって務めを果たしてくれていたらうれしいよ。撮影に使うことができて、本当にツイてた。
アガサ・クリスティーは運転中の解放感をこよなく愛したようだ。彼女は車好きだったが、それは僕も同じだ。大のカーマニアではないが、あの時代の車の美しさにはウットリする。工学、発明、デザインが全盛の時代に製造された車は、飛び抜けた美しさをまとっていて、称賛に値する。ラゴンダを実際に運転して、ちょっとしたドライヴを楽しめたのが最高だったよ。オートバイにも乗る機会に恵まれたが、夢のようだった。1935年のラッジだ。惚れ惚れする。そういう意味では間違いなく、クリスティーと車に対する情熱を共有していると言えるね。
僕はあたかも、車が安全で走行に問題がないことを納得が行くまで確認するのが監督の責務であるかのように振る舞ってた。自分で安全確認していない車をみんなに運転させるわけにはいかないと。でも実際は自分で運転したいだけだったんだ。
──ドラマの中でボビイとビードン(ボビイの中古車業のパートナー)は他にどんな車を扱っていますか?
アルヴィス・シルバーイーグル、スタンダード・テン、オースチン・エイト、見るからに美しいMG(モーリス・ガレージ)車もあった。オートバイは2台ほど、名車のT型フォードも1台あった。エンジンがかかりにくかったとは言え、100年前の車の朝の立ち上がりが遅くても文句は言えないよね。
ドラマの見せ場に、車を意図的に犠牲にするシーンがあるんだ。交通事故を装う──トロイの木馬作戦みたいな感じだね。このシーンに必要だったのは、精巧にレストアされたスタンダード・テンを見つけて、壁に衝突させることだった。本当に申し訳ない。普通ならエンドクレジットに「……劇中に危害を受けた動物は一切いません」と入れたいところだよね。言っておくが、撮影ではいかなる動物にも危害は及んでいない。ただし、麗しいスタンダード・テンは大破したよ。
僕はレストアする気満々だけどね。壊したままにしておくのは違う気がするから、きちんと元に戻すよ。車を貸してくれたオーナーの男性は、僕たちが最初に衝突計画を伝えた時、こう言っていた。「それはちょっといただけませんね。会社の創始者は僕の祖父なんです。祖父は“ミスター・スタンダード”だったんですよ」
しばらくして彼からメッセージが届き、「この間の話をずっと考えていました。もしかするとあの車にとって、さほど悪くない結末かもしれない。輝かしい栄光に包まれて最期を迎えるのですから。あのような旧車はもう十分に務めを果たしたのだから、逝った方がいいのかもしれない……あの車にふさわしい幕引きかもしれません」と伝えてくれた。でも車は必ず、生き返らせてみせるよ。
──本作はたくさんのロケーションが登場するロードムーヴィーに匹敵しますね。お気に入りのロケーションはありますか?
僕はすべてのロケーションを気に入っているが、スタッフなら毎晩移動せずに済んだという理由で、アドウェル・ハウスが一番いいと言うだろうな。やっと気づいたのだが、毎日のように撮影隊を各地に移動させるのは非常に複雑な作業になるんだ。数ヵ所で2日間撮影を行ったが、アドウェル・ハウスでは10日間撮影した。おかげでスタッフは喜んだよ。ひっきりなしに全てを解体してトラックに積み込む作業をせずに済んだからね。撮影前の設営に2時間、撤収に2時間余分にかかるから。
──今回のドラマ制作の経験に当てはまる言葉をひと言(1単語)で表せますか?
パッと頭に浮かんだ言葉は“楽しい(fun)”だ。“楽しい”だけで済ますなんて野暮だけど。もっとうまい言葉を思いつかないといけないね。でも、楽しいドラマであってほしかったし、作るのが楽しくあってほしかったから。ストーリーのためにもそうである必要があると思った。作るのが楽しければ、見るのも楽しくなる。
僕は小説を読むのが楽しかったし、脚本を書くのが楽しかった。製作の過程でちらほら悪夢に見舞われたが、それでも楽しい。本当に“楽しい”のひと言に尽きるよ。400単語くらいの返答になったが、その中に“楽しい”のひと言が含まれてる。
© Agatha Christie Productions Limited MMXXII
なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?
- 放送日時
- 全3話 字幕版 : 12月25日(日)16時30分~
- リンク
- https://www.mystery.co.jp/programs/evans/
\加入月0円!簡単視聴!/
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