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歴史的な高視聴率ドラマ『ミスター・ベイツvsポストオフィス』|主役トビー・ジョーンズが語る英国史上最大規模の冤罪事件
英国のTVドラマがただのエンターテイメントに留まらず、社会問題に光を当て、政府の動きをも促す力を持つことが証明されました。その最たる例が、2024年元日にITVで放送された『ミスター・ベイツvsポストオフィス』です。富士通の英国子会社が開発した会計システム『ホライゾン』が引き起こした史上最大規模の冤罪事件を描いたドラマが、ミステリーチャンネルで6月2日(日)16時より全4話一挙放送。ドラマの中心人物、アラン・ベイツを演じたトビー・ジョーンズのインタビューをお届けします。
ドラマの概要
『ミスター・ベイツvsポストオフィス』は、2000年代に起きた英国史上最大規模の冤罪スキャンダルを描いた作品です。ITシステムの欠陥により、700人以上の無実の郵便局長が窃盗や詐欺の罪に問われ、多くが家族や財産、名声を失いました。中には投獄されたり、自殺に追い込まれたりする悲劇もありました。
英国社会への影響
このドラマは、1,000万人以上の視聴者を獲得し、ITVの歴史の中で過去10年以上で最大のパフォーマンスを記録した新作ドラマであり、また、同局の人気ドラマ『ダウントン・アビー』を超える高視聴率番組に。さらに、放送をきっかけに事件が再注目され、世論や政府に影響を与え、問題解決への行動を促しました。
キャストとスタッフ
中心人物アラン・ベイツを演じるのは、トビー・ジョーンズです。彼は『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』や『名探偵ポワロ オリエント急行の殺人』で知られる名優です。監督はジェームズ・ストロング、脚本はグウィネス・ヒューズが担当し、彼らの手により、この重要な物語が生き生きと描かれました。
ドラマの意義
このドラマは、エンターテイメントの枠を超え、社会に対する深い洞察と影響力を持つことを示しました。視聴者だけでなく、政府や世論にも大きな影響を与えることができるのです。
トビー・ジョーンズ(アラン・ベイツ役)interview
──この役を演じることになった経緯を教えてください。
今年のはじめに、製作総指揮のパトリック・スペンスから持ちかけられたのがきっかけです。彼とは以前、ドラマ『Marvellous(原題)』(BBC)で一緒に仕事をさせてもらってね。彼はすばらしいプロデューサーなので、話が来た時点ですでに前向きでした。それから彼とジェームズ(・ストロング、監督)、そしてグウィネス(・ヒューズ、脚本)の3人が、ドラマで扱う事件について話してくれたんですが、恥ずかしながら、私はそのような事態があったことなんてほとんど知らなかった。グウィネスは膨大なリサーチを脚本に起こしていました。(話を聞いて)今すぐにドラマにすべき物語だと思い、どうしても演じたいと思いました。最近のテレビ番組は現実そのものを描くことより、ここ数十年に起きたことを描くことに夢中になっているように思えるからです。
──アラン・ベイツ氏本人と会って、どんな話をしましたか?
このドラマの魅力のひとつは、英国各地に暮らすいろんな人物が登場することでしょう。郵便局長と一言にいっても、彼らがいかに多文化的で、多様性に富んでいるかに触れることができるのは、喜びのひとつです。だから私はそういう文脈でもアランを演じたいと思った。そのため、私はアランにこう言いました。「私は実際のアラン・ベイツではなく、グウィネス・ヒューズの目を通して見たアラン・ベイツを演じたいと思っています。モノマネをするつもりはなく、あなたの個性を意識しながら、あなたがどこの出身かもわかるように演じ、このドラマの中であなただと思われるように、あなたになりきります」とね。アランは、私のように都会の人間でもないし、あるいは南部の出身でもない。彼は元々、リヴァプール出身で、長い間ウェールズで暮らしています。だから、彼のルーツや仕事、今までの人生における主な出来事や日々の過ごし方についていろいろ聞きました。何が彼を駆り立てるのかこっそり探ろうとしましたが、彼は非常にごまかすのがうまくて、どうして行動を起こそうと思ったのかについては何のヒントもくれませんでしたね。彼には本物の謙虚さがあり、そういうところが、今の世の中では謎めいた魅力になるのだと思います。
──ベイツ氏は仲間を率いて、この巨大な冤罪事件に立ち向かうリーダー的存在ですが、彼のどのあたりが秀でていると思いますか?
こんなことを言うとバカみたいに思われるかもしれませんが、彼は稀有な人物だと思います。つまり、彼は社会経験を積んだ、一見、どこにでもいそうな男でありながら、実に優れた頭脳の持ち主だということです。私は電話でジェームズ・アーバスノット(地元の郵便局長たちを助けるために重要な役割を果たしたノース・イースト・ハンプシャーの元下院議員)とアランの話をしたことがあります。ジェームズは、アラン・ベイツと話せるのは役得だったとはっきり言っていましたね。アランと話すたびに何かしら学ぶところがあり、時間が無駄になることは絶対にないとわかっていたので、どんな時でもアランと話すのを楽しみにしていたそうです。ぞっとするような不正により、何年にもわたり普通の人々がひどい苦境にあえいできました。そのような危機から得てしてヒーローが生まれるものです。アラン・ベイツはまさにヒーローにふさわしい人物でしょう。
──このドラマに出演を決める前、ポストオフィス・スキャンダルについてどのように認識していましたか? また、この事件の経緯を知った時、どう思いましたか?
日々、流れるニュースの中で、このスキャンダルは私たちの目に入らないように隠れていたように感じますね。時々、“郵便局長”という言葉は耳にしていたのですから、他に説明のしようがありません。恥ずかしいことに、こんなひどい状況になっているとはまったく理解していませんでした。ポストオフィスと聞けば、何をしている組織かは容易に想像できます。それが理由の一部かもしれません。このドラマの中で、郵便局が銀行強盗に襲われるシーンがありましたが、脚本でそのシーンを読んだ時に「なるほど、そういうことか」と思いましたね。この国の地域社会では、私が生まれてからずっとあるような意図的に目立たなくしたような建物の中で多額のお金が取り扱われています。そしてそこは、同じく意図的に目立つことのない普通の人々によって運営されている。彼らは自分たちに注意が向かないように控えめにしているからこそ、心から信頼に値する人々なのです。いかにひどい事件なのかを知り、衝撃を受けています。私たちがドラマを完成させ、国民がこのドラマを見れば、この事件がいかに常識から外れた、復讐して当然の不祥事であるかがわかるでしょう。そして、どうしてもっと報じられないのか不思議に思うはずです。
──ポストオフィスと彼らが自分たちのスタッフ(郵便局長たち)を処罰した動機についてはどう思いますか?
ポストオフィス側は何を守っているのだろう?」と私も何度も考えました。そこには、長年培ってきた企業の体質があると思います。ある種、恐怖政治的な空気で、問題が起きると上の判断に任せるという企業文化です。職員たちは何も決断せず、何の責任も取らない。このドラマはそういう状況を語っています。今の社会の在り方が、誰が責任を取るかという点で、水平型というより、ヒエラルキー(階層)構造になっているように感じます。いまだに理解に苦しむのは、このような問題が起き、それがこれほど多くの人々にひどい結果を招いたのに、その事実を隠し、被害者たちを孤立させるようなまねをしたことです。
──このドラマが目指しているものは?
被害者家族が被った多大な精神的苦痛への慰謝料と今も継続しているメンタルヘルス疾患への治療費の補償を求めて、アランは今でも戦っています。冤罪被害者となった郵便局長は約700人と言われていますが、スコットランドと北アイルランドを含めれば1,000人にも上ります。この問題の解決にどれほど時間がかかっていることか。いまだ解決されていませんからね。補償制度は2024年8月で終了とされているので、何としても今、アクションを起こさなければなりません。私たちは不当な罪を着せられ、おびえている郵便局長たちに働きかけなければならない。彼らに堂々と表に出て、補償を要求してもらいたいんです。このドラマは、自分自身の意見を公にすることを恐れる多くの人々に呼びかける、ある種、号笛のような存在です。同時に由緒ある組織だと世間に認められてるから当然安全だと考えている人々への警告でもあります。実際、被害者が明らかに受け取るべき補償と損害賠償の支払いは遅れ、延期されていますからね。
アランはまだ目標を達成してないと考えているんです。これはドラマの中でも語られますが、そういうところも、彼が非常に謙虚だと思う理由のひとつですね。
そこで、このドラマが何を目指すのか? このドラマの現時点での目的は、迅速にこの問題を議論の場に戻すことです。郵便局長と彼らの家族たちはトラウマを負わされ、恐れを感じていますが、彼らに声を上げ、真実を公にしてもらう必要があります。そして、私たち視聴者も社会の一員として、この問題が一刻も早く解決するために国会議員を通してポストオフィスにプレッシャーをかけていくことが大切だと思います。ここまでの道のりは長かった。でも、また終わったわけではないのです。
──このようなドラマが社会において重要な理由は?
文化的な視点に立ってこのようなドラマは製作されています。人々と地域社会との関係を描いていますからね。社会が分断され孤立していると感じている人が多い中で、このドラマは人々が団結していく物語です。古代ギリシャの最古の劇では、大義のために民衆が団結し立ち上がる。そしてその中から英雄が現れ、(自分たち)より強大で得体の知れない、不変の力に立ち向かいます。最後はもちろん英雄が勝利します。このドラマはある意味、古代劇と同じで、人々を鼓舞する物語です。人々が互いに話し合い、団結し、そして行動へ移していく。私にこの役が来たことをとても誇りに思い、同時に心からよかったと感じています。アラン・ベイツを演じることで彼と関われることほど光栄なことはないからです。彼について話す誰もが、彼と出会えて光栄だったと言います。彼は非凡な男です。
※本インタビューは、英国での放送前(2023年)に行われたインタビューで、現在の状況と異なる部分があります。/s>
©ITV Studios Limited 2023
Link
https://www.mystery.co.jp/programs/mr_bates_vs_the_post_office/
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