「ミスター・ベイツvsポストオフィス」:アラン・ベイツ氏が語る英国最大の冤罪事件

「ミスター・ベイツvsポストオフィス」

英国のTVドラマがただのエンターテイメントに留まらず、社会問題に光を当て、政府の動きをも促す力を持つことが証明されました。その最たる例が、2024年元日にITVで放送された『ミスター・ベイツvsポストオフィス』です。富士通の英国子会社が開発した会計システム『ホライゾン』が引き起こした史上最大規模の冤罪事件を描いたドラマが、ミステリーチャンネルで放送され、日本でも大きな話題を呼びました。そのドラマの中心人物でもある、無実の郵便局長たちのリーダー的存在だったアラン・ベイツ氏のインタビューをお届けします。

ドラマの概要

「ミスター・ベイツvsポストオフィス」

『ミスター・ベイツvsポストオフィス』は、2000年代に起きた英国史上最大規模の冤罪スキャンダルを描いた作品です。ITシステムの欠陥により、700人以上の無実の郵便局長が窃盗や詐欺の罪に問われ、多くが家族や財産、名声を失いました。中には投獄されたり、自殺に追い込まれたりする悲劇もありました。

英国社会への影響

このドラマは、1,000万人以上の視聴者を獲得し、ITVの歴史の中で過去10年以上で最大のパフォーマンスを記録した新作ドラマであり、また、同局の人気ドラマ『ダウントン・アビー』を超える高視聴率番組に。さらに、放送をきっかけに事件が再注目され、世論や政府に影響を与え、問題解決への行動を促しました。

キャストとスタッフ

「ミスター・ベイツvsポストオフィス」

中心人物アラン・ベイツを演じるのは、トビー・ジョーンズです。彼は『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』や『名探偵ポワロ オリエント急行の殺人』で知られる名優です。監督はジェームズ・ストロング、脚本はグウィネス・ヒューズが担当し、彼らの手により、この重要な物語が生き生きと描かれました。

ドラマの意義

このドラマは、エンターテイメントの枠を超え、社会に対する深い洞察と影響力を持つことを示しました。視聴者だけでなく、政府や世論にも大きな影響を与えることができるのです。

アラン・ベイツ interview

──あなたの物語がドラマ化されるきっかけは?

集団訴訟により、ポストオフィスが会計システムの「ホライゾン」の欠陥についてウソをつき、隠蔽していた事実が明るみになり、冤罪だったいう判決を勝ち取ったことにより、世間の注目を浴びることになりました。それから、いろんなプロダクションのいろんな方から私に連絡が来るようになったんですが、その中でリトル・ジェムのナターシャ(・ボンディ)からドラマシリーズとドキュメンタリーの話があり、今回のドラマが実現しました。

──それにしても、ずいぶん長い間、見過ごされていた事件でしたね。

まったくです。この事件において最大の問題は、ポストオフィスがすべてにおいて完全否定を決め込み、異議を唱える者に対して訴追という手段で脅しをかけて封じたことです。私たちは何年にもわたり、さまざまな手段を講じて欠陥を訴えてきましたが、ポストオフィスは、システムでの管理は順調で、システムが間違うわけがなく、何も問題ないの一点張りでした。国会議員たちにもたくさんの手紙を送り、あらゆる証拠もそろえていましたが、それでも大変でした。ポストオフィス側を法廷に引きずり出し、これ以上、事実を隠蔽したり、勝手な話ができない状況になってやっと真実が知られるところとなりました。
──しかし、そこに至るまで、長い時間がかかりました。どうして戦い続けられたんですか?

郵便局の仕事をする前に、システムに関する仕事をしてたんです。ずっと小さな規模のシステムでしたが、とても早い段階でシステムのバグではないかと見抜くくらいの経験はありました。ただシステムがおかしいと言ったところで、彼らには関係ありません。私はシステムに不具合があるとわかっていましたが、問題はそれをどうやって証明するかでした。というのも、ポストオフィス側が証拠となるような書類を公開するわけがないというのは明らかでしたし、今はもう知られるところとなりましたが、彼らは多くの書類をシュレッダーにかけ、事実を隠蔽していたわけですから。

しかし、自分が正しい──しかも技術的に正しい──と確信があるので戦い続けられるんです。「ホライゾン」というネットワーク・システムにアクセスできる第三者機関は存在せず、リモート・アクセスもできないという彼らの発言は、バカげているとしか言いようがありませんでした。どんなネットワーク・システムでもアクセスできる手段があれば、どこかでリモート・アクセスを許す可能性があるからです。システムにバグがあったことを別にしてもおかしな話です。今、わかっているだけでも数万件の修正をしていたと言われているわけですから。

私にしてみれば「ホライゾン」に関して最大の問題は、私やスタッフが郵便局の端末から入力した全データを確認するためのアクセス権をユーザーである私に与えていなかったことです。これは大きな懸念材料でした。もし問題があった場合、私たちがシステムに入力したポストオフィスとの取引内容を確認するために、そのレベルのアクセス権が必要だったからです。しかし彼らはシステムが割り出した損失分を一方的に私の責任したかったのでしょうね。金額の不一致が生じた時、私が追跡するためにアクセスできる報告データの範囲に制限をかけたのです。すべてが不自然でした。特に彼らの態度ですね。彼らは私に問題を指摘してほしくなさそうだったんです。いくらシステムに問題があると言っても頑なに否定して、「そんなことを言うのはあなただけだ」あるいは「これまで何の問題も報告されてない」と言うだけ。だが、事態は想像以上に悪かった。コンピューター・システムの問題かもしれないと誰もが認めていて、誰もがわかっていたが、自分たちのシステムは完璧だと信じているポストオフィス側の人間は、異論を唱える者を窮地に追い込んでいった。さらに悪いことにポストオフィスの唯一の株主である政府は、私たちが法廷に訴えるまで、この問題にほとんど関心がありませんでした。

──郵便局長になる前はどんなことをされていたんですか?

パートナーのスザンヌ・サーコムと私は、自分たちの生活に十分満足していましたが、ある日、感じたんです。何か変化がほしいと。そこで安定した収入を得る仕事は何だろうと考えました。もちろん郵便局以外にもいろいろ興味がありました。パブやレストランはどうかとか。その中で郵便局はかなり安全な選択に思えたんです。営業時間は決まっていて、確実に収入がありますからね。本当に無知でした。そして1998年の5月に郵便局を始めました。

──ポストオフィスが頑なにあなたを攻撃してきたのは、なぜだと思いますか?どんな思惑があったのでしょう?

私が無知で傲慢で、それに加えて無能だから攻撃されるんでしょうね。彼らは莫大な報酬を受け取って悪質な行為をし、郵便局を支配する権限も持っています。一方、政府は、ポストオフィスはあくまでも政府から独立した機関であるというスタンスに慣れきって我関せずでした。私が廃業に追い込まれる前、ポストオフィスの上役が会いにきたのを覚えています。何年も私はシステムの不具合について手紙を書き続け、助力を求めていました。その上役は、その件について私を見て、こう言ったんです。「我々には君の手紙なんかに返事を書いてる暇はない。やらなきゃならない重要な仕事があるんだ」と。横柄な職員の典型でしたね。彼らは理由も言わずに、3か月の猶予期間を与え、私との契約を終了しました。そして私たちの店を差し押さえた。彼らにはそれができるし、もし個人的に彼らを訴えたところでどうなるか、誰もがわかっていました。何もできるわけがありません。

それに正直言って、彼らは基本的にITネットワークについて無知だったと思います。何ひとつ正しい質問もできない人たちに何ができるでしょう。私はポストオフィスが必要な能力と資格を持った人材を配備していなかったと思います。これも問題のひとつでしたね。元々はコンピューター企業ICLが開発したシステムで、彼らが「ホライゾン」の設置とメンテナンスの契約を結んでいました。それが富士通に買収されます。それだけでなく、ポストオフィス側にシステムを管理できるレベルのITの専門家がいなかったため、富士通がポストオフィスのITアドバイザーの役割を担っているようにも見えました。

──脚本にはどのように関わりましたか?

ITVのリサーチ・チームと脚本のグウィネス(・ヒューズ)と多くの時間を過ごしました。何度も、数時間にわたり会いましたね。これはドラマにするには、ものすごく複雑で、とにかく話が多岐にわたります。しかも起きた事実そのものを描くドキュメンタリーではなく、人々を引き込むドラマです。ですから、ある程度、まとめなくてはなりませんでした。物語を進めるために何年か省略して飛ばしたりね。それはまあ、そうなりますよね。

ドラマでは、人々の失ったものや苦しみをすべて網羅できないですから。ものすごい数の人々とその家族が、この事件に巻き込まれました。私が知ってほしいのは、いまだに多くのケースで、現実の戦いは終わっていないということです。今も苦しみは続いている。そして日々、思いがけない事実が明らかになっています。まだ解決までには遠い道のりが残っているんです。

──この事件はどのような結末を迎えれば、解決となりますか?

最初に集団訴訟を起こした555人が受け取るべき経済的な補償がすべてかなったら、まずはひと段落というところでしょうか。補償に関しては今も現在進行中で、理論上は、来年の8月に終了とされています。とうてい彼らが味わった苦しみを償いきれるものではないでしょうし、賠償金を得たからといって苦境に耐え続けたあの日々を取り戻すことはできません。しかし、この先も続く苦労を支える一助にはなるかもしれません。

もうひとつ、私が運動を続けている理由があります。それは被害者家族が受けた精神的苦痛のケアです。現段階ではまだ政府は状況を認めていません。被害者家族はメンタルケアの専門家の診断とサポートが必要です。それは経済的にだけではなく、他の方法でも。私はこの件について大臣たちに訴え、役所の方々から手紙は受け取っていますが、内容はご想像のとおりです。というわけで、私は今、この事件の責任の所在をはっきりさせるために追求し続けると同時に、この精神的ケアの問題にも力を注いでいます。

──このドラマに期待することは何ですか?

まずポストオフィスが行ってきたことの真相を暴くことですね。それを常に目指して私たちは活動してきました。被害者たちの有罪判決の取り消しと補償がそれに続きますが、運動を始めてからずっと真相を暴くために頑張ってきました。

そして続いて有罪判決の取り消しを求めることです。ご存じかと思いますが、700人近くの郵便局長が無実の罪で有罪判決を受けています。しかしそのうち上訴され、判決が取り消されたのはたった90人程度です。実際、北アイルランドとスコットランドを含めたら、700人どころではなく、1000人近くまで数が増えます。政府は最近まで北アイルランドとスコットランドの数を含めるのを忘れていたんです。私たちは彼らにも訴え出てもらいたい。今なら訴える環境も整っているので、彼らは裁判所によって再調査してもらい、法的なサポートを受けることができます。再調査で彼らが失うものは何もありませんし、うまくいけば経済的な補償を受けられます。ドラマにより、この事件の真相が注目されてほしいですね。そして被害に遭った人たちが再び前に進めるようになることを願っています。

もうひとつ、重要な目的があります。それは被害者グループの全員にとって最優先事項と言えるでしょう。それはすべての責任者に対し、責任を追求すること。今まで責任を逃れてきた人たちに、自分たちがしたことの責任をしっかりとってもらいたい。

私たちは、現在、多くのケースで私人訴追iができないか可能性を探っています。もし、それが可能ならば政府の法定調査を待たずに、裁判を進められます。責任の所在を明らかにするなら早いほどいい。ポーラ・ヴェネルズはポストオフィスを退職する時にそれまでの貢献を讃えられ大英帝国勲章3等勲爵士(OBE、コマンダー)の称号を得ていました。私もこの正義の戦いに貢献したとして、去年のクリスマスに大英帝国勲章4等勲爵士(OBE、オフィサー)をいただけるという話がありましたが、辞退しました。残念なことに、ヴェネルズの功績がまだ認められている時点で、私が目指す正義はまだ不十分だからです。彼女がCEOだった期間に、あれだけの被害を出したにもかかわらず、勲章を授与されたんです。彼女のような人々が勲章を保持していることを許す制度自体に疑問を感じます。

※本インタビューは、英国での放送前(2023年)に行われたインタビューで、現在の状況と異なる部分があります。/s>
©ITV Studios Limited 2023

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字幕版 : 8月15日(木)20時より、ミステリーチャンネルにて放送
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