『Dennis Morris:Music + Life』。音楽を撮り、時代を切り取る。デニス・モリス回顧展

『Dennis Morris:Music + Life』

ロンドン在住のフリーランスライター、近藤麻美さんによるロンドンを中心に英国にまつわるカルチャー全般を現地から発信する連載「近藤麻美のカルチュラル・ウォーク in London」の第8回目を公開! 今回は2025年9月28日までロンドンのソーホーにあるザ・フォトグラファーズ・ギャラリーで開催されている『Dennis Morris:Music + Life』をご紹介します。



現在ロンドンのThe Photographer’s Galleryで開催されている『Dennis Morris:Music + Life』 に足を運んだ。

 

『Dennis Morris:Music + Life』

 

本展は、英国人写真家 デニス・モリスの英国初回顧展である。彼はボブ・マーリーやセックス・ピストルズの写真で知られる一方、初期にはロンドンの黒人英国人コミュニティを記録した重要な作品を残しており、本展ではその両側面を初めて融合させて紹介する。モリスはウィンドラッシュ世代として1960年代に渡英し、思春期からロンドンをベースにドキュメンタリー写真を撮影。戦後の英国写真史に独自の位置を占める。その後、ボブ・マーリーとの親密な関係や、セックス・ピストルズの公式カメラマンとしての活動を通じて音楽界で大きな役割を果たし、アートディレクターとしてもミュージシャンのイメージ形成やマーケティングに貢献した。さらにレゲエやダブの先駆者からオアシス、パティ・スミスまで幅広いアーティストを撮影してきた。

 

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初期の作品は、1970年代のロンドンのブラックカルチャーをとらえた『Growing Up Black』、シーク教徒のコミュニティに焦点を当てた『Southall – A Home from Home』、そして首都の生活を描いた『This Happy Breed』といったプロジェクトへと繋がった。

 

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母親を説得してリビングルームの壁に白いシートを張り、教会からスポットライトをひとつ借りて、自宅にスタジオを設置。自分が暮らすコミュニティの、率直で愛情あふれるポートレートを撮影した。

 

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1971年。11歳のモリス少年は、カメラを手にハックニーを歩き回り、何か写真を撮るものを探していた。パレスチナ解放機構(PLO)の集会を見つけた彼は立ち止まり、写真を撮り、すぐにフリート・ストリートのフォトエージェンシーにプリントを持ち込んだ。信じられないことに、その中の1枚がデイリー・ミラー紙の表紙を飾り、少年は16ポンドという高額を手にした。

 

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モリスは1960年代初頭、幼少期にジャマイカから英国に移住。モリスの物語は、戦後の英国と帝国の終焉、そしてウィンドラッシュ世代の経験と深く結びついている。彼は、差別や貧困に直面しながらも、ハックニーのコミュニティで成長した。思春期にセント・マークス教会のカメラクラブで写真と出会い、クラブの暗室で写真がプリントされるのを初めて体験した時、モリスは自分の天職が目の前に広がるのを目の当たりにした。「魔法のようだった。すぐに夢中になり、それ以来、文字通りすべての瞬間を写真に費やした」とモリスは言う。「写真に夢中になりすぎて、寝る時もカメラを持っていたので、みんなから『マッド・デニス』と呼ばれていた」。学校のカウンセラーから「黒人写真家なんてものは存在しない」と言われたが、彼は諦めなかった。自宅をカーテンで仕切った一室を簡易スタジオにして、ポートレートを撮り始めた。彼はポートフォリオを雑誌社に持ち込んだが、母親は電話を買う余裕がなかったので、近所の公衆電話の番号を教え、昼夜を問わず、開いた窓のそばに座って電話が鳴るのを待った。そして、電話が鳴ると外へ飛び出し、電話を取り、「デニス・モリスのスタジオです」と答えた。

 

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14歳の時、ボブ・マーリーを見るために学校をサボり、以後彼のカメラマンになった。

モリスのキャリアは、1973年にボブ・マーリーとの出会いから始まった。学校をサボってスピークイージー・クラブでマーリーを待ち続け、写真を撮らせてもらえないかと尋ねた。「ボブは私のコックニー訛りに笑いながら、『おう、来なよ』と言ってくれた。彼は英国で黒人の子供として生きるのはどんな感じかと尋ね、僕はジャマイカについて尋ねた」。モリスはマーリーのツアーに帯同することになった。

「翌朝、母には学校に行くかのように見せかけて、彼のホテルへ行き、バンの後ろ座席に乗り込んだ。僕はカメラを構えた。冒険が始まったんだ」。マーリーとの親密な交流は彼の死まで続き、モリスは静かで内省的な姿を含む多くの貴重な写真を残した。マーリーはモリスにとって父のような存在であり、自信と帰属意識を与えた人物だった。モリスは彼を「預言者であり、詩人であり、使者」と表現し、その言葉と導きは人生の転機に大きな影響を与えた。

 

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ボブ・マーリーの成功でレゲエが世界的に広がった1970年代、デニス・モリスはその発展の中心で活動した。ジャマイカ滞在中にマーリーやリー・“スクラッチ”・ペリーらと交流を深め、1978年にはリチャード・ブランソンの招きでヴァージン・レコード傘下フロント・ラインのスカウトに同行。グラディエーターズやマイティ・ダイアモンズなどの写真を手がけ、モリスはアルバムカバーやプロモーション用の写真を撮影しただけでなく、即席のスタイリストとして、撮影用の衣装、帽子、メガネ、小道具などを自ら買い付け、アーティストのイメージ戦略にも貢献した。ロンドンではスティール・パルス、グレゴリー・アイザックス、アスワドなどを撮影し、クリス・ブラックウェルに認められてアイランド・レコードのアートディレクターに就任。さらに、リントン・クウェシ・ジョンソンやザ・スリッツを同レーベルに紹介するなど、レゲエとポストパンク双方のシーンに影響を与えた。

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モリスの撮った写真が、NME、メロディーメーカー、タイムアウト誌の表紙を飾る。

 

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デニス・モリスは、セックス・ピストルズの最初の公式写真を手がけ、その後も彼らの名声と混乱に満ちた軌跡を記録した。アルバム『勝手にしやがれ』のリリースや、マルコム・マクラーレンの仕かけた「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」発売プロモーション、テムズ川での“ジュビリー”船上イベント、スカンジナビア・ツアー、シークレット・ツアー「S.P.O.T.S.」など歴史的瞬間を撮影。

モリスの写真は、マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッドによるスタイリングとともに、ピストルズのパブリックイメージを確立し、彼を英国で最も独創的な音楽写真家のひとりへと押し上げた。同じロンドンの下町で育った彼は、ピストルズの怒りや無秩序さを身近に理解できる立場にあり、失業や社会不安に揺れる1970年代の「パンクの精神」を、社会への反抗と友情の象徴として記録した。

 

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セックス・ピストルズのフロントマンでありレゲエ・マニアでもあったジョン・ライドンは、モリスがマーリーを撮影していることを知り、ツアー内外で、ピストルズの写真を撮ることをオファーした。後に、モリスはパブリック・イメージ・リミテッドのグラフィックデザインを監修し、悪名高いアルバム『メタル・ボックス』のパッケージも手がけた。

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私のお気に入りはアレサ&ドナ。

レゲエ、ダブ、パンク、そして後のブリットポップに至るまで、モリスの写真は常に音楽と社会の変革の只中にあった。そのレンズは、スターのステージ上の姿だけでなく、彼らの人間的な表情をもとらえ、単なる記録を超えて「時代の証言」として響いている。

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展示は写真以外にも、モリスの撮ったミュージシャンのスライド映像やレコードジャケットなども。

 

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ギフトショップにはフォトブックの他にも、ポストカードやバッグ。Tシャツやキャップなどが並ぶ。

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今回の展示には、未発表作品やヴィンテージプリントも数多く含まれており、アーティストの姿とともに、モリス自身が歩んだ人生の軌跡を感じさせる。『Music + Life』は、音楽と社会を結びつけた写真家のキャリアを総覧し、私たちに「写真が語る人生の豊かさ」を再認識させる展覧会である。

■近藤麻美
99年に渡英。英国のニュース、海外ドラマ、イギリス生活、食、教育、音楽、映画、演劇、歴史、ファッション、アートなど、英国にまつわる文化の多岐に渡る記事を執筆している。
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ご連絡は、mamikondohartley@gmail.comまで。
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note:https://note.com/mamikondo_london

 

Link

https://thephotographersgallery.org.uk/

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