英国アーティスト夫妻の二人展が東京で開幕、アニー・モリスとイドリス・カーンが日本初展示

アニー・モリス & イドリス・カーン「A Petal Silently Falls」

2025年10月29日(水)から12月26日(金)まで、イギリスを代表するアーティスト、アニー・モリスとイドリス・カーンによる二人展「A Petal Silently Falls – ひとひらの音」が六本木と天王洲の2会場で同時開催されます。夫婦でもあるふたりが喪失体験を創作に昇華させた作品群を、両者ともに日本で初めて公開する展覧会となります。




開催概要と会場情報

 

Idris Khan, "The shadow of water", 2025. Courtesy the artist, Photographer: Stephen White & Co

Idris Khan, “The shadow of water”, 2025. Courtesy the artist, Photographer: Stephen White & Co

会期は2025年10月29日(水)から12月26日(金)まで、火曜日から土曜日の11時30分から18時までKOTARO NUKAGA六本木(東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル2階)とKOTARO NUKAGA天王洲(東京都品川区東品川1-32-8 TERRADA Art Complex II 1階)の2会場で同時に開催されます。日曜日・月曜日・祝日は休廊となります。

オープニングレセプションは10月29日(水)に両会場で開催され、天王洲会場は16時から18時まで、六本木会場は16時から19時まで実施されます。アニー・モリスとイドリス・カーンの両名が在廊し、17時頃には天王洲会場から六本木会場への移動バスが先着順で用意される予定です。



対照的な作風が奏でる共鳴

 

Courtesy the artist, Photographer: Stephen White & Co

Courtesy the artist, Photographer: Stephen White & Co

1978年にロンドンで生まれたアニー・モリスは、鮮烈な色彩と力強い形態を特徴とする作品を制作します。パリの国立高等美術学校でジュゼッペ・ペノーネに師事した後、ロンドンのスレード美術学校を修了し、タペストリー、絵画、ドローイング、彫刻など多様な表現手法で活動を続けてきました。代表作である「Stack」シリーズは、カラフルで不規則な形の球体を垂直の芯棒に通して積み上げた彫刻作品で、復星芸術センター(上海)やシャトー・ラ・コスト(プロヴァンス)、ヨークシャー彫刻公園(ウェスト・ヨークシャー)などで展示されてきました。

 

Idris Khan, "After the reflection II (a)", 2025. Courtesy the artist, Photographer: Stephen White & Co

Idris Khan, “After the reflection II (a)”, 2025. Courtesy the artist, Photographer: Stephen White & Co

一方、同じく1978年にバーミンガムで生まれたイドリス・カーンは、パキスタン系の父とイギリス人の母を持ち、言葉やイメージの反復を通じて静謐で思索的な作品を生み出します。ダービー大学で写真を学んだ後、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで修士号を取得し、同一のモチーフやテキスト、楽譜を幾度も重ねる「反復」と「多層化」の手法で時間と記憶の堆積を可視化してきました。2008年にドイツ・デュッセルドルフの美術館K20で個展を開催し、2017年には芸術への貢献を認められ大英帝国勲章(OBE)を受勲しています。



喪失から希望へ昇華する創作

 

Annie Morris, "Bronze Stack 8, Ultramarine Blue	2020", 2025. Courtesy the artist, Photographer: Stephen White & Co

Annie Morris, “Bronze Stack 8, Ultramarine Blue 2020”, Courtesy the artist, Photographer: Stephen White & Co

夫婦でもあるふたりは、最初の子どもを流産で失った深い喪失を経験し、その痛みを創作へと変換してきました。モリスの「Stack」シリーズは、卵や赤子の体を想起させる球体を不安定に積み上げることで、失われた存在への哀惜と脆くかけがえのない生命のありようを表現しています。石膏や鋳造のブロンズで作られた球体は、群青、緑色、黄土色などの鮮やかな顔料で成形され、台座の上で倒れてしまいそうなバランスで浮かんでいるように見え、生命の奇跡とその不安定さの両側面を示しています。

カーンは、祈りの唱和を思わせるような同じ単語や語句を繰り返し反復するプロセスによって積み重なった時間や記憶を可視化し、喪失の感情を作品に昇華させています。初期の「every…」シリーズでは、コーランのページやベッヒャー夫妻の写真作品など既存のイメージを重ね合わせ、普遍的な形態と集合的記憶の輪郭をもつ新たな像を生み出してきました。また、《65,000 Photographs》をはじめとする彫刻作品では、数年間にわたり自身の携帯電話で撮影した膨大な画像をプリントして積み重ね、無形のデジタルデータを量塊として物質化しています。



国際的評価を確立するふたりの軌跡

モリスは2022年にフランスのシャトー・ラ・コストで開催された展覧会で、フェミニズム・アーティストの巨匠ルイーズ・ブルジョワの作品《うずくまる蜘蛛》と向き合う形で数々の「Stack」を展示し、多くの鑑賞者の心を惹きつけ高く評価されました。作品は龍美術館(上海)、フォンダシオン ルイ・ヴィトン(パリ)、コロラド大学美術館(ボルダー)などに収蔵されています。

カーンは2016年にアラブ首長国連邦・アブダビのメモリアル・パークで大規模な戦没者記念モニュメントをアブダビ政府からの依頼を受けてデザインし設置しました。2024年にはミルウォーキー美術館(アメリカ)で大規模個展「Idris Khan: Repeat After Me」を開催し、2025年9月にはオバマ財団から依頼を受けた作品制作が発表されるなど、現在に至るまで精力的に活動を続けています。作品は大英博物館、ポンピドゥー・センター(パリ)、ワシントン・ナショナル・ギャラリー(アメリカ)など国際的なミュージアムに収蔵されています。



文化研究者による展覧会ステートメント

本展には、文化研究者で実践女子大学准教授の山本浩貴氏がステートメントを寄せています。山本氏はロンドン芸術大学トランスナショナルアート研究センター博士研究員を歴任し、著作『現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル』(中央公論新社、2019年)で知られる現代美術史の専門家です。KOTARO NUKAGAのウェブサイトで公開されている山本氏のテキストでは、ふたりの作品が持つ芸術的実践の道のりと共鳴について詳細に論じられています。山本氏による本展にむけたテキストはこちらからご覧いただけます

KOTARO NUKAGAは2018年に天王洲のTERRADA Art Complex内に設立され、2021年5月に六本木会場を開設しました。異文化が交差し多様な情報が発信される六本木と、新たな現代アートの中心地として注目される天王洲という2つの拠点を活かし、国内外の先鋭的なアーティストと共に独自性の高いギャラリープログラムを展開しています。



日本初公開となる夫婦アーティストの創作世界

それぞれにグローバルな活躍を見せるモリスとカーンはアーティストデュオでもあり、2018年からイギリスやインドなどで二人展を開催してきました。本展は両者ともに日本での展覧会は初めてとなり、ふたりがそれぞれに歩んだ芸術的実践の道のりと、奥底に秘めた共鳴を体感できる貴重な機会となります。一見対照的な作風を持つふたりですが、要素の反復や色彩への感覚など、互いの要素を徐々に取り入れながら制作を続けてきた経緯があり、会場ではふたりの作品が生み出す共鳴を楽しむことができます。

 

Link

https://kotaronukaga.com/exhibition/annie_morris_idris_khan/

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