大英博物館がサムライ展を2026年2月開催、武士の実像と神話を解き明かす画期的な展覧会

Samurai armour. Purchase made possible by the JTI Japanese Acquisition Fund. © The Trustees of the British Museum

大英博物館(British Museum)は2025年11月10日(日)、特別展「Samurai」を2026年2月3日(火)から5月4日(月)まで開催すると発表しました。鎧をまとった戦士、壮絶な決闘、厳格な名誉の掟というサムライの通念に挑み、中世から現代まで1000年にわたる武士階級の進化と神話形成を検証する画期的な展覧会で、約280点の作品とデジタルメディアを通じて実像と虚像の両面を明らかにします。




武士階級の多様な役割と女性の存在

Woman's firefighting jacket and hood. John C. Weber Collection. Photo © John Bigelow Taylor

Woman’s firefighting jacket and hood. John C. Weber Collection. Photo © John Bigelow Taylor

武士(むしゃ・ぶし)は1100年代から長期にわたる戦闘を経て政治的優位を確立しましたが、1615年から始まった長い平和の時代には戦場を離れ、政府役人や学者、芸術の庇護者として活躍しました。特筆すべきは、武士階級の世帯構成では女性が半数を占めていた事実であり、本展では江戸城内で消防活動に従事した女性が着用した朱色の消防用羽織と頭巾を展示します。この羽織には錨と波の水にまつわる意匠が施され、木造都市だった江戸で「江戸の華」と呼ばれるほど頻発した火災からの守護を象徴しています。



新規収蔵の甲冑と初公開作品

 

Portrait of Itō Mancio, Domenico Tintoretto, 1585. Property of the Fondazione Trivulzio, Milan.

Portrait of Itō Mancio, Domenico Tintoretto, 1585. Property of the Fondazione Trivulzio, Milan.

大英博物館が新たに収蔵した精巧な武士の甲冑一式が初展示されます。菖蒲の葉を模した黄金の軍旗と威厳ある兜は、着用者を識別可能にすると同時に恐怖を与える設計となっています。また、ミラノのフォンダツィオーネ・トリヴルツィオ所蔵のドメニコ・ティントレットによる伊東マンショの肖像画も展示され、1582年にバチカンへの使節団を率いた13歳の武士の姿を描いた希少な作品として注目されそうです。この訪欧は日本初の欧州外交使節であり、1545年にポルトガル商人と宣教師を通じてキリスト教が到来した後の西洋との重要な接触を示しています。



文化交流と西洋による理想化

 

Portrait of Henry of Bourbon, Count of Bardi. Museum of Oriental Art, Venice – Direzione Regionale Musei Vento, by permission of the Italian Ministry of Culture. 

Portrait of Henry of Bourbon, Count of Bardi. Museum of Oriental Art, Venice – Direzione Regionale Musei Vento, by permission of the Italian Ministry of Culture. 

ヴェネツィア東洋美術館から貸与されるヘンリー・オブ・ブルボン(バルディ伯爵)の肖像画は、1889年に日本を訪れた伯爵が自身を日本の戦士として描かせた作品です。この依頼は、武士の世界が急速に消失しつつあった時代における19世紀西洋のサムライ理想化を象徴しています。本展は武具や甲冑を超え、絵画、木版画、書籍、衣類、陶磁器、写真、映画、テレビ、マンガ、ビデオゲーム、現代アートの実例を含み、日本人アーティスト野口哲哉による新作も公開されます。



現代文化への継続的影響

Still from the videogame Nioh 3, 2026. Koei Tecmo

Still from the videogame Nioh 3, 2026. Koei Tecmo

展覧会は日本の甲冑に着想を得たルイ・ヴィトンの衣装から、2025年の『アサシン クリード シャドウズ』と2026年の『仁王3』といった人気ビデオゲームまで、サムライの持続的影響を検証。後者のゲームタイトルは展覧会開幕のわずか3日後に発売予定であり、サムライが現代においても世界中の創造性を刺激し続けている現状を強調しています。19世紀後半には武士の世襲身分が廃止され、愛国心と自己犠牲を促す武士道の神話が広められた結果、サムライは今日認識されるグローバルなイメージへと進化しました。



キュレーターと館長の見解

 

Helmet with butterfly crest. National Museum of Japanese History

Helmet with butterfly crest. National Museum of Japanese History

朝日新聞キュレーター(日本コレクション)のロジーナ・バックランド博士は「サムライは何世紀にもわたって日本の歴史を支配してきましたが、彼らの生活の実態は一般的な理解とはしばしば大きく異なっていました。本展は現代まで続く神話を検証する初の展覧会であり、武士の複数の役割と自己表現、他者による描写の方法を通じて日本の豊かな文化史を紹介していきます。光に敏感な日本美術の性質上、大英博物館コレクションの美しい作品や英国で初展示となる多数の貸与作品を鑑賞できる貴重な機会ろなるでしょう」と述べました。

ニコラス・カリナンOBE館長は「サムライは世界中の人々の想像力を長く捉えてきましたが、彼らについて我々が知っていると思うことの多くは神話と伝説によって形成されています。本展は中世日本の戦場から今日の文化的アイコンまで、これらの卓越した男女の真の生活を探求し、彼らの物語が1000年にわたってどのように継続的に再解釈されてきたかを見る機会を提供します」とコメントしました。



開催概要とチケット情報

Bamboo folding fan, Watanabe Kazan © The Trustees of the British Museum

Bamboo folding fan, Watanabe Kazan © The Trustees of the British Museum

展覧会は2026年2月3日(火)から5月4日(月)まで大英博物館セインズベリー展示ギャラリー(The Sainsbury Exhibitions Gallery)で開催されます。開館時間は土曜から木曜が10時から17時、金曜は10時から20時30分で、閉館15分前が最終入場となります。アーリーバードチケットは17ポンドから購入可能で、16歳未満は有料大人同伴で無料、金曜日には学生向けに2枚1組チケット、団体割引や各種優待料金も用意されます。



歴史の記述と国家アイデンティティの形成

 

Jinbaori (surcoat) © The Trustees of the British Museum

Jinbaori (surcoat) © The Trustees of the British Museum

本展はサムライの神話と記憶、継承と再創造の物語を提示し、歴史がいかに書かれ書き直されるか、国家的アイデンティティが文化、物語、グローバルな交流を通じてどのように形成されるかをタイムリーに探求します。大英博物館の日本コレクションは欧州最大規模であり、古代先史時代から現代まで約26,000点の美術工芸品、古代遺物、歴史資料を含みます。展覧会に合わせてロジーナ・バックランドとオレグ・ベネシュ共著の図録が2026年2月に大英博物館プレスから出版され、博物館限定ペーパーバック版は30ポンド、ハードカバー版は45ポンドで販売されます。なお、2026年7月25日から10月18日には東京都美術館で大英博物館日本美術コレクションの里帰り展「大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱〜海を越えた江戸絵画」が開催され、サムライ展とは異なる切り口で同館の日本美術4万点から厳選された江戸時代の絵画と浮世絵が公開される予定です。

Cover Photo: Samurai armour. Purchase made possible by the JTI Japanese Acquisition Fund. © The Trustees of the British Museum

 

Link

https://www.britishmuseum.org/press-release/announcing-samurai-exhibition

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