英国政府が定価超のチケット転売を禁止、オアシス騒動を受けて

The crowd in front of the main stage at the Isle of Wight festival

英国政府は2025年11月19日(水)、コンサートや演劇、コメディ、スポーツなどのライヴ・イベントのチケットを購入価格より高い金額で転売することを違法とする新ルールを正式に発表しました。本記事執筆時点の2025年11月20日(木)現在、この計画はまだ下院での審議を控えていますが、成立すれば英国におけるチケット転売ビジネスのモデルを根本から変える規制として注目されています。




英国政府がチケット転売違法化を決めた背景と発表内容

ビジネス担当大臣のピーター・カイル氏が発表した今回の計画は、音楽やスポーツを愛するファンがチケット転売市場で「法外な価格を払わされる状況」を終わらせることを目的に掲げています。英国政府は、チケット転売業者が自動化ボットを使ってオンラインで大量のチケットを買い占め、二次流通プラットフォーム上で大幅な上乗せ価格で再販売してきたことが、多くのファンにとって大きな負担となってきたと指摘しています。

新ルールは、コンサート、演劇、コメディ、スポーツ、その他のライヴ・エンターテインメントなど、英国のファン向けに販売される幅広いイベントチケットに適用されます。転売価格の上限を法律で明確に定義することで、ファンが最初の販売段階でチケットを入手しやすくし、再販市場におけるいわゆる「チケット転売」ビジネスの収益モデルを崩す狙いがあります。

英国政府は今回の措置を、国の再生計画の一環として、より公平な仕組みをつくり、勤勉な市民が尊重される社会を実現するための取り組みだと位置づけています。ライヴ・エンターテインメントが国内観光やナイトタイムエコノミーを支える主要産業であることを踏まえ、チケット転売による過度な値上がりが業界全体の健全な発展を阻害しているとの危機感も背景にあります。



新ルールの柱:チケット転売禁止と価格上限の具体的な中身

今回の発表で示されたチケット転売規制の柱は大きく4点で、いずれも「チケット転売」をビジネスとして成立させにくくするよう設計されています。法律上の定義と執行主体を明確にすることで、これまでグレーゾーン的に行われてきた高額転売を実質的に封じる構造です。

  • チケットを定価より高い価格で転売することを違法とし、「定価+サービス料など避けられない手数料」を上限額として法律に明記する方針。
  • [10][11]
  • 転売プラットフォームが上乗せするサービス料にも上限を設け、名目上は「手数料」としながら実質的に価格上限を迂回する手法を封じる狙い。
  • [11][10]
  • セカンダリーマーケットを運営する企業やSNS上でチケットを扱うプラットフォームには、価格上限の順守を監視し、違反を是正する法的義務が課される。
  • [12][10]
  • 一次販売時に1人あたりの購入枚数が制限されている場合、その上限を超える枚数を転売する行為を禁止し、組織的な買い占めを抑制。
  • [10][11]

さらに、デジタル市場・競争・消費者法(DMCC法2024)に基づき、英国競争市場庁(CMA)は新ルールに違反した企業に対して、グローバル売上高の最大10%という高額の制裁金を科す権限を持つことになります。違反リスクを高めることで、海外に拠点を置く大手転売サイトも含め、実効性のある規制を目指している点が特徴的です。

なお、新ルールは二次流通プラットフォームだけでなく、チケットが再販売されるあらゆるオンラインサービスに適用される予定であり、SNS上の売買投稿なども規制対象になり得るとみられます。ただし、どのようなケースが違法行為に該当するかといった細部は、今後の立法作業やガイドラインで詰められる見通しです。



平均37ポンド値下がり、年間1億1200万ポンドの節約効果を試算

英国政府と競争市場庁の分析によると、チケット転売市場における典型的な上乗せ幅は定価の50%を超えており、中には定価の6倍で転売されたケースも確認されています。こうした高額転売が常態化した結果、英政府は「数百万人規模のファンが不当に高い価格を支払わされている」と問題視してきました。

新ルールが導入された場合、転売市場で購入されるチケットの平均価格は、手数料を含めて1枚あたり37ポンド程度下がると試算されています。その結果、ファン全体としては年間約1億1200万ポンド(約230億円)の支出削減につながり、一次販売業者から直接購入される枚数も年間90万枚増えると見込まれています。

政府は、こうした効果によって「産業規模のチケット転売ビジネスモデルは終焉を迎える」との期待を示しています。日本から英国公演に遠征するファンにとっても、今後は定価に近い価格でチケットを入手できる機会が増える可能性があり、予算の見通しを立てやすくなる点は注目すべき変化と言えます。



オアシス騒動とダイナミックプライシング、ファンの不満が噴出した経緯

今回のチケット転売違法化には、2024年のオアシス再結成ツアーをめぐる騒動が大きく影響したとされています。発売直後から大手転売サイトで高額出品が相次ぎ、一部のチケットは数千ドル規模の値段で取引されたと報じられ、プロモーター側は数万枚規模のチケットをキャンセルする異例の対応に踏み切りました。

この件を受けて、英国競争市場庁は大手チケット販売会社チケットマスターに対し、価格情報の透明性向上を求める調査を行い、2024年9月に一連の改善措置を取り付けています。具体的には、段階的価格設定を24時間前までに告知することや、オンラインでの待機列においてより明確な価格情報を提示すること、誤解を招くチケット表示をやめることなどが盛り込まれました。

英国政府によると、こうしたダイナミックプライシングやチケット転売を巡るトラブルは、ファンから寄せられる不満の大きな要因となっており、今年に入って実施された意見募集でも多くの批判が集まったといいます。チケット代理店・小売業者協会(STAR)は、価格表示の透明性などを含む業界横断のベストプラクティスづくりに乗り出しており、政府はこの自主的取り組みを歓迎しています。

音楽業界からも今回の規制案は概ね歓迎されており、バスティルのヴォーカルであるダン・スミス氏は、通信事業者O2やファンフェア・アライアンスと共に長年求めてきた価格上限が実現したことを「音楽ファンを守る大きな一歩」と評価しました。エド・シーランのマネージャーで、グランピー・オールド・マネジメント創設者のスチュアート・キャンプ氏も、他国で価格上限が奏功している事例を引き合いに出しながら、「できるだけ早期の実施が重要だ」と訴えています。

また、インディーロックバンドのアルト・ジェイや、ファンフェア・アライアンスのキャンペーンマネージャーであるアダム・ウェッブ氏、音楽マネージャー協会のアナベラ・コールドリック氏らも、新ルールを支持するコメントを発表しつつ、立法と執行を可能な限り迅速に進めるよう政府に求めています。オンライン転売が横行する状況が続く限り、毎日多くのファンが損害を被り続けるとして、時間との戦いであることを強調しているのが印象的です。



日本のファンが押さえたいポイントと今後の見通し

今回の計画はまだ英国議会下院での審議を控えており、実際に新ルールがいつ施行されるかは現時点で明らかにされていません。政府は「議会審議の時間が確保され次第、法案を提出する」としており、音楽業界やファン団体は早期の立法化と厳格な執行を求めています。

一方で、チケット転売を全面的に禁止するアプローチは、ファン同士の譲渡ややむを得ない事情による販売など、一定の柔軟性が必要なケースとの線引きが課題になる可能性もあります。そのため、実務上は公式リセールサービスの活用や、本人確認の徹底などと組み合わせる形で運用されることが想定され、今後の詳細設計が重要になりそうです。

日本のリスナーにとっては、英国のライヴ市場で起きている変化は、将来の国内議論の参考事例にもなり得ます。とくに、ダイナミックプライシングやチケット転売のあり方を巡る議論は、グローバルなアーティストツアーや国際的なスポーツイベントが増える中で、日英双方で共有されるテーマになりつつあると言えるでしょう。

Cover Photo: Jennifer McCord

 

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https://www.gov.uk/government/news/government-bans-ticket-touting-to-protect-fans-from-rip-off-prices

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