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ポップアートのパイオニア、ウェイン・ティーボー展で、忘れ去られたアメリカンドリームを垣間見る
ロンドン在住のフリーランスライター、近藤麻美さんが、英国カルチャーを現地から紹介する連載「近藤麻美のカルチュラル・ウォーク in London」の第14回を公開! 今回は、コートールド・ギャラリー(The Courtauld)で開催中の「Wayne Thiebaud. American Still Life」展を紹介します。
ロンドン、コートールド・ギャラリー(The Courtauld)で開催中の Wayne Thiebaud展へ滑り込みで行ってきました。

コートールド・ギャラリーは、テムズ川を望むサマセット・ハウス(Somerset House)内にある比較的小さなギャラリー。

ウェイン・ティーボー(Wayne Thiebaud、1920年11月15日~2021年12月25日)は、パイやケーキ、アイスクリームやホットドッグなどから、デリ・カウンターやピンボール・マシーンなどの物体をカラフルに描いた作品で知られるアメリカの画家。厚塗りによる質感、はっきりした輪郭、影に補色を使うなど、独特の色使いが特徴です。

PENNY MACHINES 1961 Oil on canvas
ティーボーが「真正面からの直接性」と呼ぶ、ありふれた商業品を小さなモニュメントとして堂々と提示しています。

筆のランダムな方向性がリアル。

COLD CEREAL 1961 Oil on canvas
「FREE」の文字は、当時シリアルのプロモーションの定番となっていた無料配布を想起させます。シリアルボウルにかかる、影の使い方が秀逸。

FIVE HOT DOGS 1961 Oil on canvas
現代アメリカの食文化の象徴、ホットドッグ。余計なディテールを一切排除し、主題の本質を伝える彼の才能は、ティーボーが高く評価していた広告とイラストレーションの分野でのキャリアに根ざしていました。

THREE CONES 1964 Oil on canvas board
ティーボーはこう述べています。「私にとってアイスクリームコーンは、ある種の喜び、ある種の儚さを象徴しています……かつて持っていたあの明るい精神、あの色彩、光、活気は、すぐに失われてしまうでしょう」。

CAGED PIE 1962 Oil on canvas、PIE ROWS 1961 Oil on canvas
カウンターのガラスケースに、最後のチェリーパイの切れ端が残されています。ティーボーは、絵を描きながら若い頃の記憶の断片を思い起こしていたと語っています。「レストランで働いていた頃、パイが何列も並んでいたり、一切れだけ残ったパイを見たのを覚えています。断片的な状況にある、こうした小さな風景は、私にとって常に詩的なものでした」。円と三角形の列というシンプルな形は、ポール・セザンヌの「真の絵画は基本的な形から構築されるべきである」という主張を彼に想起させました。ティーボーのパイの絵画は、1962年にニューヨークのアラン・ストーン・ギャラリーで開催されたデビュー展で、特に注目を集めました。

絵具の厚塗りにより、今にもこぼれそうなクリームを表現。

CAKES 1963 Oil on canvas
ティーボーは、この名高い絵画で、彼のお気に入りのモチーフのひとつである、アメリカ中のパン屋や食堂でよく見かける、鮮やかで派手なケーキを壮大なスケールで表現しています。この作品は、静物画というジャンル自体と、彼が描くありふれた題材の両方に、記念碑的な地位を与えています。

大胆な筆使いが立体感を与える。

THREE MACHINES 1963 Oil on canvas
画家のバーネット・ニューマンは、ティーボーのガムボールマシンを「シュール」な消費主義の凝縮体と評しました。美しい色彩で視覚的な欲望を刺激し、「汚れた銅貨と引き換えにご褒美がもらえるという甘い約束」を抱かせたのです。しかし、ティーボーはガムボールマシンからリリースレバーを省いているため、魅力的なお菓子は永遠に手の届かないところにあります。

PIE COUNTER 1963 Oil on canvas
この作品は、組立ラインと大量生産の感覚をより強く伝えていますが、ティーボーは、一見均一に見えるものの中にある違いに気づき、より注意深く観察するための誘いだと捉えていました。「類似点と相違点の緊密さを戯れに表現したもの」でした。

DELICATESSEN COUNTER 1962 Oil on canvas
ティーボーは、異なる質感を強調することで「絵の具と題材の関係を可能な限り近づけたときに何が起こるのか」を探求したかったと説明しています。また、彼は値札の数字のカリグラフィーを完璧に仕上げることにも細心の注意を払いました。

CANDY COUNTER 1969 Oil on canvas
ティーボーは、画期的な10年の終わりにこの作品を制作した時点で、近代アメリカ静物画の画家として確固たる名声を築いていました。批評家たちは彼の作品を、日常の美しさを表現したもの、ノスタルジックなアメリカ文化の探求、あるいは過剰な消費主義への批判など、様々な解釈で捉えていました。

鮮やかな光と影のコントラスト。

Works on paper
ティーボーは、絵画の下絵としてデッサンを使うことはありませんでしたが、似たような構図を異なる媒体で探求することを好みました。彼は、黒インクで劇的に照らされたスライスされたケーキの重量感と構造で、対象の本質を抽出しようとしました。

Making Delights
銅版画からは、エッチングによる線画から、地塗りした樹脂を加えて色調と質感を与えるアクアチントまで、彼が版画制作に用いた様々な技法が見て取れます。


伝統的な静物画というジャンルを、真にアメリカ的な視点で再解釈した作品たち。「ありふれた物」という共通の言語を持ちながらも、ティーボーの真摯な主題への献身、そして絵画そのものへの献身は、大量生産や機械で作られた広告イメージを皮肉を込めて賛美するポップアートとは対照的であると言えます。
ウェイン・ティーボーは、エドゥアール・マネ、ポール・セザンヌ、そして彼らの先駆者である18世紀のジャン・シメオン・シャルダンらに深く影響を受けました。

エドゥアール・マネ『フォリー・ベルジェールのバー』

ポール・セザンヌ『鉢植えの花と果物』
そしてまた、これらの作品も、このコートールド・ギャラリー(常設展)に展示されています(常設展も素晴らしい作品が揃ってます)。

ショップには、ティーボーに関連して、美味しそうな置物のケーキやカップケーキのソックスなどが売られていました。

ティーボーとは関係ないのですが、これはこれで可愛い。

ポストカードを4種類購入しました。
ウェイン・ティーボーの英国初となるエキシビションは、これまでアメリカ美術の文脈で語られることの多かった彼の作品を、ヨーロッパの観客に本格的に紹介する重要な機会となりました。
■近藤麻美
99年に渡英。英国のニュース、海外ドラマ、イギリス生活、食、教育、音楽、映画、演劇、歴史、ファッション、アートなど、英国にまつわる文化の多岐に渡る記事を執筆している。
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