NIGO回顧展『NIGO: From Japan with Love』:過去を集め、未来を創るデザイナーが築いたファッションとカルチャーの軌跡

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ロンドン在住のフリーランスライター、近藤麻美さんが、英国カルチャーを現地から紹介する連載「近藤麻美のカルチュラル・ウォーク in London」の第20回を公開! 今回は、デザインミュージアムで開催中の、日本人デザイナーNIGOの世界初となる大規模回顧展『NIGO: From Japan with Love』をご紹介します。

現在、ロンドンのデザイン・ミュージアムで開催中の、『NIGO: From Japan with Love』へ行ってきました。ストリートウェアとラグジュアリー・ファッションの世界を融合させた先駆的なデザイナーの一人として知られる、日本人デザイナー兼クリエイティブ・ディレクター、NIGOの初となる回顧展です。

 

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中心にあるテーマは、HUMAN MADEが掲げる「The Future is in the Past(未来は過去にある)」という哲学です。過去のアーカイブやカルチャーを掘り下げ、そこから新たな価値を生み出すというNIGO独自の創作姿勢を象徴しています。本展では、音楽、ファッション、アートなど、彼が影響を受けてきたさまざまな文化がどのように現在のクリエイションへとつながっているのかを紹介。1980年代から現在までのレコード、玩具、雑誌、ミュージックビデオ、ファッションアイテムなど約700点が展示され、そのうち約600点はNIGO本人の貴重な個人アーカイブから選ばれています。

エントランスを入ってすぐ目に飛び込んでくるのは、日本で10代を過ごした頃のNIGOの寝室を再現したインスタレーション。当時の彼が影響を受けたレコードや雑誌、ポスター、ファッションアイテムなどが並び、クリエイティブの原点を垣間見ることができます。彼が多感な時期を過ごしたのは1980年代、当時の東京は、ヒップホップからパンク、スケートボードに至るまで、それぞれ独自のスタイルやサウンドを持つ多様な文化が入り混じる「文化のるつぼ」でした。

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本展では収集家としてのNIGOの足跡をたどります。展示の構成には、NIGOが愛用するスイスの家具ブランド、USM社のモジュラー家具「USMハラー」が採用されています。

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音楽とファッションへの愛で結ばれたNIGOと大学の同級生・高橋盾は、雑誌『宝島』でコラムの連載を始めました。当初は「A-Z」というタイトルでしたが、やがて藤原ヒロシと高木完が同誌で以前手がけていたコラムへのオマージュとして、「LAST ORGY 2」へと改題されました。前身のコラムと同様に、パンクやヒップホップの要素を織り交ぜながら、カルト的な人気を誇るファッションアイテムやDJ機材、ポップカルチャーなどを紹介する内容でした。やがて二人は、DJとしての活動と並行して「LAST ORGY 2」名義の服を制作し、コラム内でそのプロモーションを行うようになりました。
1993年には、このコラムを通じて「NOWHERE」のオープンを発表しました。

1993年4月1日、NIGOと高橋盾は「NOWHERE(ノーウェア)」をオープンしました。店内はメッシュのフェンスで仕切られ、片側では高橋のファッションブランド「UNDERCOVER(アンダーカバー)」を、もう片側ではNIGOが愛用するアメリカのスポーツウェアブランドのセレクト品を販売していました。 その店名はザ・ビートルズの楽曲『Nowhere Man』に由来していますが、同時に「NOW HERE」という言葉遊びも込められています。

 

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NIGOが「NOWHERE」をオープンした1993年、同年に彼は自身のファッションブランド「A Bathing Ape」(通称:BAPE)を立ち上げました。限定生産や斬新なパッケージ、そして刺激的なコラボレーションが熱狂的なブームと収集欲を煽り、需要は瞬く間に供給を上回るようになりました。
BAPEは高級エリアである青山への進出を通じてラグジュアリーブランドとしての地位を確立し、アメリカのヒップホップ・アーティストによる支持もあって世界的な舞台へと躍り出ました。著名なファンの中にはファレル・ウィリアムスもおり、彼は2003年にNIGOと共にファッションブランド「Billionaire Boys Club」を設立しています。

 

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1993年、NIGOは東京のクリエイティブ・コミュニティを通じて、グラフィックデザイナーのSk8thing(スケートシング)こと中村晋一郎と出会いました。デザインや音楽、映画など共通の趣味を通じて意気投合したふたりは、やがて「A Bathing Ape(BAPE)」の世界観を形作っていきます。ある夜、映画『猿の惑星』シリーズからインスピレーションを受けながら制作を進め、ブランドの原点となるロゴを考案。当初は「A Bathing Ape in Lukewarm Water(ぬるま湯に浸かる猿)」という名称で、バスタブに浸かる女性と猿を描いたデザインでした。この名前は、贅沢な環境に甘んじる若者を皮肉った日本のことわざに由来し、後に「A Bathing Ape」へと短縮され、現在のBAPEへとつながっていきます。

 

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BAPEの初期プロダクトは、限られた予算の中でNIGO自身が手作業で制作するDIYスタイルから始まりました。既存のTシャツやスウェットに「エイプヘッド」のグラフィックを大胆にプリントするシンプルなデザインは、ブランドのアイデンティティを決定づける重要な要素となりました。NIGO自ら週に約50枚をプリントする小規模な生産体制は、結果的に商品の希少性を高め、ブランド独自の価値を生み出しました。1993年のデビューコレクションは、Tシャツとシェルジャケットのみという非常に限定された展開で、各アイテムはわずか5着ずつ生産されました。これは資金面だけでなく、「誰もが同じ服を着る」という状況を避けたいというNIGOの美学によるものでした。意図的に作られた希少性と独自のグラフィック表現は、BAPEを東京のストリートカルチャーで注目される存在へと押し上げ、その後のカーゴパンツ、ニットウェア、パファージャケット、バーシティジャケットなど、多彩なアイテム展開へとつながっていきました。

 

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1996年に「1st Camo(ファースト・カモ)」が誕生。 このプリントは、米海兵隊の「ダックハンター」柄をアレンジしたもので、雲のような形状の迷彩と歪ませたエイプヘッド(猿の顔)を組み合わせたデザインが特徴です。この柄はスニーカー、トイレットペーパー、ステーショナリーから、ミッドセンチュリー家具、さらにはヴィンテージカーに至るまで、あらゆるアイテムを彩るようになりました。 BAPEのカモフラージュ柄を世界的な人気へと押し上げるきっかけをつくったのが、ヒップホップ界のレジェンド、The Notorious B.I.G.(ビギー・スモールズ)でした。1996年、ビギーは写真家ショーン・モーテンセンが所有していたBAPEのカモフラージュジャケットに目を留め、そのデザイナーに強い興味を抱きます。そこでモーテンセンは友人であるNIGOを紹介。ビギーのために特注のXXLサイズのアイテムが製作されましたが、1997年に彼が急逝したため、その服が本人の手に渡ることはありませんでした。このエピソードは、BAPEが日本発のブランドから世界的なストリートブランドへと飛躍する転機のひとつとして、今も語り継がれています。

 

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2000年、A Bathing Apeはアンディ・ウォーホルをテーマにした一連の製品の第一弾を発売しました。 ウォーホルの有名な「キャンベル・スープ缶」の絵画をモチーフにしたこの限定Tシャツには、ウォーホルが先駆的に用いた技法であるシルクスクリーン印刷が施され、パッケージにはスープ缶を模したスチール缶が採用されていました。

 

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The Nigo Effect(Nigo効果):ファッション、音楽、アートを横断する彼独自の文化的ネットワークに焦点を当てています。ヒップホップ、ディズニー、ペプシ、任天堂とのコラボレーション、ファレル・ウィリアムスとの長年の協業、さらにLouis Vuitton、Nike、KENZOとのプロジェクトなど、NIGOが築いた世界観を象徴する作品が並びます。

 

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2003年、NIGOとファレル・ウィリアムスはファッションブランド「Billionaire Boys Club」を立ち上げ、ファレルの楽曲「フローティン」のミュージック・ビデオでそのデザインを初披露しました。 翌年には、スニーカーラインである「ICECREAM」が加わりました。

 

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NIGOは、「A Bathing Ape(BAPE)」を単なるアパレルブランドにとどめず、アートギャラリーやカフェ、ヘアサロン、飲食店、さらには音楽やプロレスまでを含む総合的なライフスタイルブランドへと発展させました。デザインの根底には常に音楽があり、アーティストのスタイリングやレコードレーベルの設立、音楽プロデューサーとしての活動を通じて、ファッションと音楽を融合させた独自のカルチャーを世界へ発信し続けています。

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2002年、NIGOは全日本プロレスとタッグを組み、プロレス興行を展開しました。選手たちはNIGOが手がけた音楽に乗って、BAPEの迷彩柄が施されたリングへと入場し、BAPEのTシャツを身にまとって試合に臨みました。2010年には、NIGO自身のプロレス・キャラクターである「APEGON(アペゴン)」が誕生しました。

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「Curry Up」は、NIGOが学生時代に働いていた、小規模ながらも人気を博したインド料理店「GHEE」での経験から着想を得て誕生しました。 NIGOが目指したのは、食を通じて人々が集う、温かく居心地の良い空間を再現することでした。

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NIGOは1990年代後半、自身のレコードレーベル「Ape Sounds」を立ち上げました。初期のリリース作品には、アンビエント・ミュージシャンのCherie(シェリー)によるアルバムがあり、そのアートワークはKAWSが手掛けました。 2004年には、ヒップホップ・スーパーグループ「Teriyaki Boyz(テリヤキ・ボーイズ)」を結成。映画『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』のために制作した彼らの楽曲は、過去20年間において、日本人アーティストの曲の中で世界的に最もストリーミング再生されたトップ10に入る一曲となっています。 また、NIGOは2015年からポップ・パンク・ガールズ・グループ「BILLIE IDLE(ビリー・アイドル)」のプロデュースも手がけました。

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アメリカのスナックブランド、プランターズのマスコットキャラクターであるミスターピーナッツは、NIGOの作品に繰り返し登場するキャラクターです。これは、彼が長年抱いてきたアメリカのヴィンテージ広告への強い関心に由来しています。 このスウェットシャツは、つり編みで編まれており、低張力でゆっくりとループ状の糸を紡ぐ編み機を用いることで、ふっくらとした弾力のある質感と、柔らかく軽やかな着心地を生み出します。

 

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NIGOのKENZOでのデビュー・コレクションとなった2022年秋冬(AW22)では、Kenzo Takada のアーカイブを深く研究し、そのエッセンスを自身の感性と融合させました。象徴的なポピー柄を用いた美しいテーラリングのスーツには、伝統的なKENZOの美学にNIGOらしいストリート感覚が加えられています。ベイカーボーイ・キャップやドクターマーチンを思わせるシューズ、ニットウェアなどを組み合わせ、英国パンクや自身が培ってきたカルチャーを取り入れた新たなKENZO像を提示しました。

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2021年にKENZOのアーティスティック・ディレクターに就任したNIGOは、初の大規模なレッドカーペットとなる2022年のメットガラで、旧友のラッパー、キッド・カディを起用。1984年のKENZOアーカイブに残るケープ付きタキシードをベースに、カディの提案でエレクトリックブルーのカラーリングとブランドを象徴する花柄の裏地を取り入れた、現代的な一着へと生まれ変わらせました。

 

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2020年、ルイ・ヴィトンのメンズウェア・アーティスティック・ディレクターだった故ヴァージル・アブローは、”精神的師匠”と慕うNIGOとのカプセルコレクション「LV²(LVスクエアード)」を発表。サヴィル・ロウのテーラリングや英国のモッズスタイル、日本のデニムを融合させ、ルイ・ヴィトンの伝統にNIGOならではのストリート感覚を取り入れたコレクションとして話題を集めました。

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世界的な成功を収めた今もなお、NIGOは学び続ける姿勢を忘れません。近年は日本の伝統文化や工芸に関心を寄せ、茶道を学ぶ傍ら陶芸にも取り組んでいます。自ら制作した茶碗を茶会で用いるなど、ものづくりと日本文化への探究を深めながら、新たな創作のインスピレーションを育んでいます。

 

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NIGOの最大の特徴は、ファッション、音楽、アート、収集、そして日本文化など、異なる領域の境界を取り払い、それらをひとつの「文化の言語」として融合させている点にあります。ヒップホップ、アメリカーナ、ミリタリーウェア、アイビー文化、玩具、茶道、陶芸、グラフィックデザインなど、彼が愛してきた要素はすべて、独自の視点で再解釈され、クリエイションへと昇華されています。

原宿の小さなショップから始まったひとりのコレクターの情熱は、やがて世界のファッションシーンに大きな影響を与える存在へと成長しました。本展は、NIGOが30年以上にわたり磨き続けてきた審美眼と、異なる文化を融合させながら新たな価値を生み出してきた創造性を体感できる回顧展です。過去のカルチャーを深く掘り下げ、そこから未来のスタイルを生み出してきたNIGOの軌跡。その歩みを通して、彼がいかにしてファッションだけでなく、音楽やアートを含む幅広いカルチャーに影響を与える存在となったのかを知ることができます。

■近藤麻美
99年に渡英。英国のニュース、海外ドラマ、イギリス生活、食、教育、音楽、映画、演劇、歴史、ファッション、アートなど、英国にまつわる文化の多岐に渡る記事を執筆している。
linktr.ee/mamikondohartley
ご連絡は、mamikondohartley@gmail.comまで。
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Instagram:https://www.instagram.com/mamimoonismine
note:https://note.com/mamikondo_london

 

Link

https://designmuseum.org/

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