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トム・ウォーカー『ホワット・ア・タイム・トゥー・ビー・アライヴ』interview
ブリット・アワード受賞&デビュー・アルバムでいきなり全英1位獲得! サマーソニック出演も決定しているマンチェスター出身のトム・ウォーカーにインタヴュー!!
──ここ2年ほどの間にあなたの人生に起きた変化を、どんな風に受け止めていますか?
今のところはいい感じだよ。というのも、僕は一夜にして成功を収めたわけじゃなくて、長い時間をかけてここまで来たからね。一生懸命努力して、地道な積み重ねがあって、変化のスピードとしては、十分に対処できるものだった。もちろん、過去1年間は少々クレイジーになったわけだけど、あくまでいい意味でクレイジーだったしね(笑)。信じられないような素晴らしい体験を、たくさんさせてもらえた。自分が作る音楽を通して。思いもよらなかったことだし、本当に最高だよ。
──グラスゴー出身ながら、マンチェスターで育ったあなたは、自分をマンチェスターっ子と捉えていますか? それともやっぱりスコティッシュなんでしょうか?
どっちも同等に自分の中にあると思う。生まれはスコットランドだけど、ごく幼い頃にマンチェスターの郊外に引っ越したんだよね。それで、家族は全員スコティッシュで、友達はみんなイングリッシュなんだ。だから、両方のアイデンティティを持っているんじゃないかな。
──ロンドンの音楽学校でソングライティングを専攻するまで、まともに歌ったことはなかったそうですね。自分に歌という表現手段があることを知った時、どんな感慨を抱きましたか?
そりゃうれしかったよ。そもそもなぜ歌い始めたかっていうと、当時の僕はたくさん曲を書いていたんだ。で、デモをレコーディングしなくちゃいけなかったんだけど、シンガーの知り合いがいなくて、自分で歌うしかなかったのさ。だから音楽学校に通っていた3年間に、シンガーとして表現を磨いた。本当に、どこからともなく突如こういう展開になったって感じなんだ。
──それまではまったく歌うことは考えていなかったんですか?
ああ。というのも僕の姉は、シンガーとして素晴らしい才能に恵まれていて、幼い頃から歌っていて、そんな彼女を見て「僕は違うな」と意識していたところもある。とにかく、僕はギタリストなんだとずっと思い込んでいたんだ。ギターに専念するべきだと。今思うと、ものすごくヘンな話なんだけどね(笑)。
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──バンドのギタリストからソロのシンガー・ソングライターへの移行はスムーズでしたか?
そうだね。僕が聴く音楽のタイプも変化して、子供の頃は、アークティック・モンキーズとかフー・ファイターズとかMUSEとか、やっぱりバンドにばかり夢中になっていたんだけど、ちょうどパオロ・ヌティーニやエド・シーランやパッセンジャーとか、ソロ・アーティストが活躍するようになった時代だったしね。
──シンガーとして、ソングライターとして、お手本にしたのはどんなアーティストですか?
あまりにも大勢いるから選ぶのが難しいけど、音楽にハマった頃まで遡って考えると、主な影響源と言えるのは、大ファンだったAC/DC、アークティック・モンキーズ、あとはパオロだね。
──最終的に成功を手にするまでにかなり苦労があったそうですが、その間あなたを支えたものは?
やっぱり音楽への愛情に尽きるよ。とにかく幼い頃から音楽が好きで仕方なくて、音楽を作って、プレイするのが楽しくて仕方なくて。だから、今はこうしてミュージシャンを生業にしているわけだけど、いわゆる“仕事”だとは捉えていない部分がたくさんあるんだ。例えばライヴ・パフォーマンスをやって、人々に自分の歌を聴かせるってことは、本当に素晴らしい体験だよ。楽しくてやっているわけだから。
──状況が好転しているとあなたに実感させた出来事はありましたか?
そうだな、当初の僕は他のアーティストと一緒に曲を書いたり、いわゆるソングライティング・セッションに参加したりしていたんだけど、やっぱりソロでやろうと思い切って一歩踏み出した時なのかな。独りで曲作りをするようになって。それまでも曲を書くのは好きで、ソングライターとしてはやっていけるような気がしていたけど、果たして自分がアーティストなのかどうか、長い間自信が持てなかったから。それにしても、ここ数年間に自分の身に起きたことには、驚きを感じているよ。
──2017年のシングル「リーヴ・ア・ライト・オン」がブレイクスルー・ソングになったわけですが、あれほど多くの人とコネクトできた理由はどこにあると思いますか?
やっぱり、多くの人が共感できるメッセージを含んでいたからなんだろうね。世の中には、例えばアルコール依存やメンタルヘルスの問題を抱えて、苦しんでいる人たちが大勢いる。決して珍しいことじゃないんだよ。なのに、そういうことを題材にした曲を日常的に耳にすることって、あまりないよね。チャートの上位に入っている曲と言えば、相変わらず、クラブに行ってパっと楽しむこととか、高級車を乗り回すこととかを歌っているわけで、なかなかこういうメッセージには出会えない。人々は、こういう言葉を聴きたがっていたんじゃないかな。
──そういう意味で重みがある曲ですし、シングルとしては珍しいタイプですよね。
そうだね。最終的にはレーベルと色々話し合った結果、この曲をリリースしようと決めたんだけど、どちらかというと、僕自身がこの曲を見くびっていたのかもしれない(笑)。確かにいい曲だという自信はあったけど、レーベルの人たちはなんとかして聴き手に届けたいと、一生懸命に取り組んでくれたんだ。しかるべきプロモーションをして。おかげで、世界中の国々に浸透するまでに至って、うれしい話だよね。
──「ジャスト・ユー・アンド・アイ」もUKチャートで3位にもなった人気曲で、アルバムの中で唯一、本当の意味でハッピーな曲です。この曲を書くきっかけとなった出来事は、何かあったのですか?
これは数年前に、フィアンセのために書いた曲でね。4年前だったのかな。きっかけは何だったかっていうと……当時の僕らは遠距離恋愛をしていて、そういう状態が2年くらい続いたんだよね。だからフィアンセに会うために、ロンドンから、彼女が暮らしていたシェフィールドまで150マイル(=約240キロ)車を走らせて、また同じ道を運転して帰るということを繰り返していたんだ。その体験にインスパイアされた曲なんだよ。
──UKと同様に日本では現在「ナウ・ユア・ゴーン feat. ザラ・ラーソン」がシングルカットされて、ラジオでかかっています。この曲が生まれた経緯、そしてザラ・ラーソンとデュエットするに至った経緯を教えてください。
これはスティーヴ・マックとの共作で生まれた曲なんだ。僕らは、誰か一緒に歌ってくれる女性シンガーが必要だという話をしていたんだけど、たまたまスティーヴは同じ頃にザラとも仕事をしていて、彼女に聴かせたら、ものすごく気に入ってくれたらしい。それで、ある日突然「そういえば、あの曲、ザラ・ラーソンが歌いたいって言うから試しにレコーディングしてみたんだけど、聴きたいかい?」ってメールが送られてきたんだ(笑)。だから僕としては全く想定外で、うれしい驚きだった。ザラはシンガーとして素晴らしい才能の持ち主だし、人間としても素敵な女性だからね。
──映画のようなミュージック・ビデオのアイデアはどこから? あなたも関わっているのですか?
これもやっぱりレーベルとブレストをして、アイデアを出したんだよ。何か、これまでMVとは全く違う、意外性のあるものにしたいってことで。結果的には、一番のお気に入りMVになった。キャストにしても、ストーリーにしても、映像作品としてのクオリティにしても、従来のMVとは一線を画しているよね。そういう意味では、すごくエキサイティングだった。
──今年に入ってすでに、ブリット・アワードのブリティッシュ・ブレイクスルー賞受賞、アルバム『ホワット・ア・タイム・トゥー・ビー・アライヴ』が全英チャートで1位獲得と、エキサイティングな事件が続いています。このような形で評価されて、アーティストとしてどんなインパクトがありましたか? 自信につながりましたか?
そうだな……うれしいことではあるよね。自分が作った作品がこういう形で評価されるのは、光栄なことだし。僕は、チャート・ポジションや賞が目的でミュージシャン活動をしているわけじゃないんだけど、自分がやっていることは間違っていないんだという確認にはなるのかもしれない。「このまま今歩いている道を進んで大丈夫だ」と、教えてくれるようなところはあるね。
──このアルバムに着手したのは数年前になるそうですが、当時、どんな作品にしたいと考えていましたか?
う~ん、恐らく僕自身、あまり良く分かっていなかったんじゃないかと思う。むしろ、長い時間をかけてコツコツ積み重ねて、だんだん形が見えてきた感じかな。最初から「こうしたい」という確固とした輪郭があって作ったアルバムじゃないんだ。作っている間に、ミュージシャンとして、ソングライターとして僕も成長し、その成長のあとが曲に反映されて、どんどんいい曲が生まれるようになって、これだけの数が最終的にまとまったっていう。
──じゃあ、これまでに書いた曲から選び抜いた、ベスト・アルバムみたいな感じ?
ああ、それは間違いないね。何しろ事実上、僕は27年を費やしてこれらの曲を書いたわけだから(笑)。ここまでに至る全人生の体験が反映されたアルバムだし、現時点での“ベスト・オブ・トム・ウォーカー”だと言って差し支えないよ。
──スティーヴ・マック、ジム・アビス、マイク・スペンサーの3人のプロデューサーを起用して、「クライ・アウト」のブルースから、「ナウ・ユア・ゴーン feat. ザラ・ラーソン」のコンテンポラリーなポップまで、かなり幅広いスタイルを網羅しています。サウンド・プロダクションには、どんな考えでアプローチしましたか?
そもそも僕自身の音楽嗜好が、すごく幅広いんだ。色んなアーティスト、色んなジャンルの音楽を聴いて育ったから、それがアルバムにもそっくり反映されているのさ。こういう風に実験をするのは、ポジティヴなことだと思う。同じようなことを毎日繰り返すのは退屈だからね。あれこれミックスして、違うことを試してみないと。
──また、フレージングやビート処理にヒップホップの影響が強く感じられます。ヒップホップとの関わりを教えてください。
間違いなく影響は受けているよ。子供の頃は、まずエミネムが大好きだった。というのも彼はよく、ギター・ソロを曲に織り込んだりして、ヒップホップとギター・ロックを新しい形で融合していたよね。彼が登場するまでは、そんなにラップは聴かなかったんだけど、エミネムは、ヒップホップを捉える上で新しい視点を与えてくれた気がする。サウンドとして、単純にすごく新鮮だったし。
──これは決して明るいアルバムではなく、大半の曲は、日々人々が直面する試練を題材にしています。ソングライターとして、自然にそういう題材に惹かれるのですか?
必ずしもそういうわけじゃないと、自分では思っているんだけどね。人間として、いつも思い悩んで落ち込んでいるタイプじゃないし(笑)。「ああ、もうダメだ……」っていう感じではないから。僕が思うに、日々色んな体験をするわけだけど、やっぱり強いインパクトを与えるのは、たいていの場合、ものすごくいい出来事か、ものすごく悪い出来事なんだよ。で、ソングライターとしては、自然にそういう体験が題材になる。僕にとって曲作りはセラピーみたいなもので、日々の生活の中で何か苦難に直面した時は、気持ちを吐き出して言葉にすることで、心の中を整理しやすくなる。だから、ものすごくポジティヴなことと、ものすごくネガティヴなことがインスピレーションになるんだよ。
──そんな中でも、「マイ・ウェイ」はあなたの人生のマニフェストのように聴こえますが、どういう状況下で書いた曲なんですか?
あの曲が生まれた頃、僕はポスト・マローンの曲をよく聴いていたんだ。アルバム『ストーニー』が出たばかりで、彼がやっているようなことを取り入れてみたかった。エミネムと同じで、ヒップホップとロックのミクスチュアだよね。それが、最終的にああいう形に落ち着いたんだよ。
──アルバム・タイトルは「ブレッシングス」の歌詞の引用ですが、どんな思いを込めたんですか?
これはもう、人生をどう捉えるかっていう解釈によると思うんだけど、人生にはいいことも悪いことも起きるんだってことを、僕なりに言い表している。これらの曲には、その両方の面が描かれているからね。あと、僕にとっては、ジャケットのヴィジュアルとも深い関係があるんだ。
──まさにジャケットについて伺いたかったんですが、どんなコンセプトで誕生したんですか?
クレイグ・アランというアメリカ人のアーティストに依頼して、描いてもらったんだ。7~8週間かかったと言っていたかな。結構有名なアーティストで、最近ようやく本人と対面して、いい人だった。実はトータルで、2000人の人間の絵で形作られた僕のポートレイトなんだ。で、そのうちの200人くらいは、僕の家族や友人、音楽仲間、一緒に仕事をしている人たちで、このアルバムを作り上げるにあたって何らかの貢献をしてくれたり、インスピレーションを与えてくれた人たちなんだよ。
──ということは、特定の人物をリストアップして、その人の写真なんかを渡して、ひとりひとり描いてもらったということ?
ああ、まさにそうだった。写真を渡して、僕の周りの人たちを絵にしてもらったんだよ。感謝を込めて。クールだろう?(笑)
──ちなみに、最近の英国ではエド・シーランを筆頭にジョージ・エズラ、あなた、ルイス・カパーディと、男性シンガー・ソングライターが大活躍しています。しかもみんな飾らないキャラだという共通項がありますが、あなたたちの声が求められている理由が何かあると思いますか?
う~ん、なぜなのか僕にはうまく説明できないけど、今の時代、何かしらちゃんと意味があるもの、実体のあるものを、人々が求めているのかもしれない。最近活躍している男性シンガー・ソングライターたちはみんな、日々の生活の中で直面する、すごくリアルなことを曲の題材にしているよね。ファンタジーの世界の話をしているわけじゃないし、金持ちになりたくて活動しているタイプでもない。とにかくいい曲を書いていると思うんだ。
──8月にはサマーソニックでの初来日も控えています。日本は初めてですか?
うん。初めてだから興奮しているし、同じくらい緊張もしているんだ。果たして日本に僕のファンがいてくれるのか、見当がつかないから(笑)。「誰も観に来てくれなかったらどうしようか」と思ったり(笑)。マジな話、興奮しているよ。ずっと前から日本に行ってみたかったんだ。
──どんなショウを期待できそうですか?
ライヴではフルバンドでプレイするから、ダイナミックでエキサイティングで、アルバムで聴くのとは、印象がかなり違うんじゃないかな。曲のアレンジはあまり大きく変えないようにしているけど、とにかく、よりビッグで大胆でエキサイティングな表現になるはずだよ。
──最後に日本のリスナーへメッセージをお願いします。
う~ん、困ったな。何を言えばいいのか分からない(笑)。日本の人たちが僕の音楽にどう反応するのか、行ってみないと分からないから。でも、とにかく日本に行けるのを楽しみにしているし、新しいオーディエンスの前でプレイするのは、常にエキサイティングなんだ。その昔ベッドルームで綴った曲のおかげで、こうして世界中を旅することができて、日本にまで行ってそれらの曲を歌えるなんて、夢にも思わなかったことだから。ありがたい気持ちで一杯だよ。
■Disc info
トム・ウォーカー
『ホワット・ア・タイム・トゥー・ビー・アライヴ』
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
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http://www.sonymusic.co.jp/artist/TomWalker/
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