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トラヴィス『10ソングス』インタヴュー 前編
2020年で結成30年を迎えたグラスゴーのバンド、トラヴィス。約4年ぶりとなる9thアルバム『10ソングス』について、ヴォーカルのフラン・ヒーリーにインタヴューを行いました。その前編をお届けします。
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10月9日にリリースされた『10ソングス』に収められた10曲は1曲1曲を慈しむように作られた、豊かなメロディがあふれ出す傑作に。このコロナ禍で乾いた心をきっと潤してくれるはずです。
――今回のアルバムは、新型コロナウイルスが介入してくる前に完成していたんですよね。
ギリギリ、ね。すべてがバナナになる(狂ってしまう)その前の日に作業が終わったんだ。ぼくらのレコーディングが終わった日が境目だった。そこで何もかもが変わって、ぼくは翌日にロサンゼルスに飛行機で戻ったんだ。ミックスはリモートでやって、マスタリングもリモートでやって、ビデオの撮影などはパンデミック状態になってから(電話が入る)あ、ちょっと待ってね。娘から電話だ。
――どうぞ(笑)
あ、そうだった。食器洗浄機の修理の人が来るんだった。
――え?(笑)
大騒ぎだよ。ちょっと待ってね(と言いながら玄関に応対に出るところまで実況中継。ドアを開けて「やあ、ありがとう。オーマイゴッド」「持てます」「うん大丈夫」「じゃ、これ。ありがとうございます。さよならー」とかやっている。そしてゴソゴソ音だけになり、やがてまたビデオが繋がる)ごめんね。
――大丈夫ですよ。
見せてあげるね、洗濯物だった。山ほど洗濯物を出してたんで。
──続けて大丈夫ですか?
大丈夫だよ。洗濯屋さんから9時から10時の間に届けるって言われてたのを忘れてたんだ。
――あ、そうだったんですね(笑) では続けますが、レコーディングの完成はリモートで、ということでしたが曲は当然、こうなるずっと前に書いてあったはずで、ですがテーマ的に今、また違う意味を持ち始めているように思いませんか。
たぶん、こういうことだと思うんだ。ソングライターというのは……まず、音楽を作る人は大勢いるよね、でも、その中のソングライターというのは特殊な人間の集団で、必ずしも商業性はないし、そもそも目指すものは……どこかで誰かが現れてソングライティングというものに商業性を持たせたわけだけれども、ソングライティングそのものは何千年も前から存在していて、それをやる人間はどこか繊細で、何かを感知して、別次元と通じているというか(笑)。完全にイカレてると思われると困るんだけど……。
――いえいえ(笑)
ソングライターって、遡れば古代エジプトの時代なら未来を予見できる人たちで、メッセージやイメージを受け取って曲にして王に伝えるということをしていたんだよ。ジョニ・ミッチェルはソングライターのことを炭鉱夫のカナリアって呼んでた。知ってる? この表現。
――ええ、炭鉱にカナリアを先に入れて危険かどうかをってことですよね。
そう、つまり我々は煙探知機なんだ。現代風に言えば。そして曲(songs。以降、基本的に曲=songs)はとても重要。「ウェービング・アット・ザ・ウィンドウ」っていう曲は、書いたのは2年前で録音したのは12月。2月に作業を終えて帰って来て、その後3月に入ってパンデミックが始まった。そして3月15日頃からロックダウンになったんだけど、5月、6月と進んでいく中で、窓際に立つ人々の姿があちらこちらで見られるようになり、ウィリアム王子夫妻が主宰したパンデミック下の写真というプロジェクトでも、窓辺に立つ人の写真がとても多かった。ありとあらゆる人が、例えばお爺さんお婆さんを窓越しに訪ねるとか、みんなが窓辺にいるという、あれは本当に不思議な光景だったんだ。なぜ“ウェービング・アット・ザ・ウィンドウ”が現実になってしまったんだろう、と。ほかにも色々と、このアルバムにはいわくが多い。
そしてそれはアルバムにタイトルである『10ソングス』にも繋がっていく。10のsongであって10の断片でもなければ10のtuneでもないし、10のthingでもなく、ぼくが発表するのは10のsongsで、しかも“こうすれば売れるから出すぜ”みたいなんじゃない、本当に重要だと思うから出すんだという意味。曲というのは、目に見えない最も重要なもののひとつだ。だから買わなくたっていい。とにかく聴いてくれ。聴いて学んでくれ。ギターで弾いてみてくれ。ぼくらはたまたまレコードという形にしているけれども、場合によっては……ぼくの好きなソングライターの中には曲は曲であって然るべき、即ち歌われてこそ意味があるという考えもある。聴いて覚えて歌って、そして気持ちが上向きになる。それが一番だいじなんだ。そういう意味で『10ソングス』と名付けたんだよ。
――10人で書いた1曲というより、ひとりで書いた10曲、というあなたのコメントがありましたが、近年、コライティング、コラボレーション流行で、それ自体が悪いわけじゃないけど、あまりにも大勢で寄ってたかって作る曲がチャートの上の方にいる傾向があり、それに対する異論、ということでしょうか。
まさにそれ。そういうこと。10人が同じ部屋に集まって、ひとつの曲を書くというのは、songを書いていることにならない。ああいうのは曲ではない何か別のもの……ビジネスであり、産業だ。本物の曲は有機的に発生する。ひとりの人間から生まれてくる。最大ふたりだ。ぼくの感覚では、源はとても個人的なもの。10人というのはあり得ないそこまで行ったらビジネスだ。でも、ソングライティングはビジネスではない。ぼくは生まれながらのストーリーテラーで、生まれながらのソングライター。真実を語る人間だ。それこそ炭鉱夫のカナリアで、煙探知機なんだ。自分が何を探知しているのかはわからない。二酸化炭素なのか何なのか、確信はない。でも、今もそうやって曲を書いているソングライターがまだいるのは確かで、言ってしまえば曲にしなくたって構わない。要は感じ取れるかどうか、気づけるかどうか。
だからほら、あのスウェーデンの若い女の子、グレタ・トゥーンベリなんかはぼくに言わせれば炭鉱夫のカナリアだ。そして素晴らしい仕事をしている。考えてもごらんよ、あんな若い子が世界中のメディアの注目の矢面に立って、あの年齢で立ち向かっていく強さを持っているなんて、どこまで彼女がその強さを持続できるかぼくにはわからないけど、今の彼女は正に煙探知機。煙探知機は、実はたくさんある。ソングライターも、ストーリーテラーも、まだ機能している人は世界に大勢いるはずだ。だから混同してほしくないんだよ。ぼくが『10ソングス』で言おうとしているのは、産業的なものと有機的なものを混同するな、ということなんで。別物なんだから。産業は産業、有機は有機。
――とすると、今回の曲を書いている時にあなたが感知していた煙は何だったんでしょうか。愛の歌、ですよね。人生がいかに愛にたどり着くか、愛は人生に何をもたらすか。
うん。まず、人生で最も重要なものは愛だ。ぼくは今46才なんだけど、この星で与えられたぼくの時間において、いちばん大事なのは愛だって心から信じている。で、愛とは何か、というと、例えば親として子供を愛する気持ちは本当に無限で、その愛を受ける子供は愛を栄養にして育ち、今度は与える側になり……でも愛が無ければ死んでしまう。今だって毎日のように……ぼくはアメリカに住んでいるんだけど、みんなwalking dead=ゾンビだよ。クロサワの映画『Ikiru』を知ってる?
――黒澤明監督の『生きる』ですよね。もちろん。
あの主人公がまさに今のアメリカの現状だ。夢遊病者のように、無意識に歩き回っている。この国全体がsleep walker=夢遊病者なのかもしれない。愛がないからだ。仕事を頑張りすぎて子供と過ごす時間がない。街を歩きながら人々の顔を見ると、みんな死んでる。生きていない。目は開いていても、その奥は死んでいる。ひどく不幸で、鬱になって、くだらない薬に頼る。なんとなくマシな気分になれるという薬を売って金儲けをしている連中がいる。みんなただ、その逆を行けばいいだけなのに。「みなさん、では週休3日にしますから、子供を憎むのはやめなさい。いいから、やめなさい。子供を愛しなさい」と、それだけでいい。今、パンデミックだと騒いでいるが、それ以前からすでにパンデミックの渦中に人はいたんだよ。あまりに曖昧で目に見えないものだったから気づかないままボンヤリと巻き込まれてしまっていたけれど、愛が希薄な時代を我々は生きていた。
おかしなもので、現場がもたらしたものはある意味、興味深い。つまり、今回のパンデミックによって人と会うことができなくなったことで少しだが気が付いたというか、目が覚めたというか。一部の人、だけどね。全員が目覚めたわけじゃない。それでも、家族が一緒に過ごしたり、親が子供と過ごす時間が増えたという人は多いし、それが本来あるべき姿なんだから……ぼくらも動物だからね。愛情を求める猿でしかないんだから。愛というのは、それくらい根源的なところで重要なもの。だから愛の歌になった。愛が足りない、愛がもっと必要、愛がもっとほしい、愛をもっと手に入れよう、ということ。
――そのアルバムを形にするにあたって、ロビン・ベイントンを共同プロデューサーに迎えたのはなぜですか。初めてですよね?
あれは偶然だった。まったくの偶然。マネージャーと一緒に色々なエンジニアやテクニシャンを検討して誰と組もうかとなった時に、マネージャーが前に何度か仕事をしたことがあるというロビンを推薦してきたんだ。「会ってみろよ、すごくいいヤツだから」「そう? わかった」みたいな感じでぼくがロンドンに行ってロビンと会って、ハムステッドにあるホーリーブッシュというパブに行って……ハムステッドの丘のてっぺんにあるんだけど、ふたりとも飲まないくせにけっこう飲んじゃってね。
――(笑)
かなりの量のアルコールが消費されて、すごく楽しい夜を過ごしたんだ。まさにウマが合ったという感じで、ぼくの方から「ぜひ一緒にレコードを作ろう」と持ちかけた。それが10月で、12月にスタジオ入り。とても自然で、彼は本当に優秀だったし才能があるし、耳がすごくいいし、お互い仕事の相性は最高だった。スタジオであんなに気持ちよく仕事ができたのは、ナイジェル・ゴドリッジと組んだ時以来だ。フィーリングなんだよね。仕事が早くて、そして才能が豊かな人。手際の良さは必要で、ぼくはスタジオでモタモタするのが好きじゃない。遅いのは良くないね。パッパと仕事してくれないと。いつでも動ける体勢でいないと、曲を捉えることもできないから。それが仕事だからね。曲ってこう……なんだろうな、例えるとしたら……ウナギ?
――ウナギですか?(笑)
そう、ウナギを捕まえるのと同じで、手際よくやらないと逃げられるんだよ。
(後編に続く)
インタヴュー・文/油納将志 通訳/染谷和美
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