ロンドンで今話題の暗闇音楽鑑賞会とは?

ロンドンで話題を呼んでいる「Pitchblack Playback」が3月5日に日本でも初めて開催されました。

3月15日(金)に世界同時リリースされるザ・シネマティック・オーケストラの12年ぶりとなるニュー・アルバム『To Believe』の試聴イベントを兼ねて開催された日本初の「Pitchblack Playback」。その「Pitchblack Playback」は映画館のような音響に優れた空間でリスナーの視界を一切さえぎり、極限まで音に集中して聴くという“暗闇音楽鑑賞会”で、ロンドンで2016年から始まりました。これまでにもレディオヘッド『OKコンピューター』やデヴィッド・ボウイ『ブラックスター』、ポーティスヘッド『ダミー』、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン『ラヴレス』などの作品で実施されています。

 

今回はそのグループ名どおり、まさに一編の映画を観ているようなイマジネイティヴで繊細なサウンドスケープを描き出していくザ・シネマティック・オーケストラだけにどんな体験になるのか、始まる前から色々と想像を思い巡らしていました。

 

会場となったのは昨年12月にオープンしたばかりのアップリンク吉祥寺。日本屈指の音響メーカー、田口音響研究所がアップリンク吉祥寺のために開発した究極の平面スピーカーが全スクリーンに導入され、イタリアのパワーソフト社製パワーアンプとの組み合わせで、くもりのないDCPハイレゾ音源の可能性を最大限に引き出している、音響面でも非常に特色のある映画館です。

 

 

まず館内に入ると渡されたのが「Pitchblack Playback」のロゴが入ったアイマスクと『To Believe』のプレスシート。参加者たちは思い思いのシートに座り、プレスシートを眺めながらスタートを待ちます。時間になるとアイマスクを着用するように伝えられ、全員が着用。その様子はもちろん見ることができませんでしたが、きっとちょっと不思議な光景だったはず。

 

 

最初の一音が響いた瞬間に、普段のリスニング環境とはまったく違う音像が広がり体が震えました。いつもCDで聴いている音がHDとしたら、こちらは4Kのような音の解像感。目の前で(と言っても視界はふさがれていますが)演奏しているようなイメージが浮かび上がっていきます。レコーディングされた音のはずなのに、まるでライヴ音源を聴いているようなリアルな臨場感で、曲ごとに様々なイマジネーションが広がっていきました。さらに深層的になったザ・シネマティック・オーケストラの音楽との相性は最高だったと言えます。

 

目を閉じて音楽を聴くことはありますが、物理的に視界をさえぎって音とまっすぐに向き合うという聴き方、さらに音響システムにこだわった映画館という環境で数十人の人たちと一斉に同じ体験をするという機会は初めてでしたが、ロンドンで絶賛されている理由がわかったような気がします。その作品のポテンシャルを最大限に引き出した非日常的な体験はライヴとはまた違いますが、新しい音楽の楽しみ方だからです。

 

そんな新しい音楽体験をもたらす「Pitchblack Playback」。発案し、運営しているBen Gomoriさんに始めたきっかけや作品を選ぶ基準などについて話を聞きました。

 

──Pitchblack Playbackはいつ、どのようにして始まったのでしょうか?

 

試聴会(Playback)のアイデアはDataTransmission.co.uk,でエディターをしていた時に、ロンドンのソーホーで行われたアモン・トビンの『ISAM』の関係者試聴会にニンジャ・チューンから招待された時に思い浮かんだアイデアなんだ。そこではアルバムの試聴と共にヴィジュアルも上映されたんだけど、僕は映像よりも「なんて素晴らしい音なんだ!」と思ったんだ。そして、自分の好きな音楽がこんな風にパワフルで繊細な音を快適な環境で集中して聴けたら最高なんじゃないか?と思った。完全な暗闇にする(Pitchblack)という要素は僕のフォトグラファーの友達ベン・デイヴィスから出てきたものだ。彼に、僕が考えていたアルバム試聴会のアイデアを伝えたら「よくわからない。君は完全な暗闇(pitch-black)の中でやろうとしてるのか?」と言われた。その時、僕の中でピンときて、「そうだね、それはいいアイデアだ」と伝えて、Pitchblack Playbackの名前はすぐに思い浮かんだんだよ。

 

それで、実際にPitchblack Playbackを開始してから3年経って、これは正しかったと感じているし、今回いよいよザ・シネマティック・オーケストラの新作でニンジャ・チューンとの初めてのセッションをできることになった。アイデアがでるきっかけとなった彼らには本当に感謝してるよ!

 

──Pitchblack Playbackを映画館で行なうことの意味は?

 

最初に述べたように、それが一番最初にアイデアが浮かんだ場所だったからだ。会場をPitchblack Playbackに合うようにするためには以下の3つの要素がある。

 

・観客を取り囲むように配置されたいいサウンドシステム
・できるだけ暗い環境にすること
・オーディエンスがリラックスして集中できるような客席

 

映画館はこの3つの要素をすべて満たしている。それに、この体験がまるで映画を見に行くような体験にしたいとも思っている。映画館は、注意をそらすようなものがない環境で、長時間そのアートに集中できる環境だ。そして、このPitchblack Playbackではそのアートが映画の代わりにアルバム作品になるんだ。

 

 

──リスナーにどんな経験を与えたいと考えていますか?

 

音楽による瞑想だ。僕はオーディエンスに本当に音楽の世界に浸ってほしいし、リラックスして音に耳を傾けて、癒されたり興奮したりしてほしいんだ。あとは、何百回も聴いた音楽であっても、それまでに気づかなかったディテールを聴いて、感じてほしいとも思う。これは実際にPitchblack Playbackに参加したみんなが感じていることでもあるね。僕はみんなに感情的な反応をして欲しいんだ。

 

──リスナーの実際の反応はどうだったんでしょう?

 

めちゃくちゃ好評だよ! リピーターも多いし、感動した人々からは素晴らしい声をもらったりしてる。僕の一番好きな反応は、シガー・ロスの『( )』での試聴会の時のものだ。「私は『( )』がリリースされた日から、アルバムを何度も聴いてたと思っていたけど、本当に“聴いた”のはPitchblack Playbackの時が初めてだった」というコメントをもらったときは本当にやってきてよかったと思った。

 

──どんなお客さんが来ていますか?

 

実に様々な人たちだ。僕らのメーリングリストには18歳から62歳までの年齢の人たちがいる。例えばケイト・ブッシュの試聴会では学生が聴いている隣では70年代からケイト・ブッシュを聴いていたような人が座っていたね。何人かの人は親子で来てたよ。僕らは幅広いタイプの音楽で試聴会を行うから、それに伴って本当に多様な人々が集まってくる。

 

 

──作品選びの基準は? どんな作品が向いていると考えますか?

 

最初は僕らと一緒にやりたいと言ってくれたレーベルのプレミア試聴会として始まって、そのあとは僕の大好きな名盤、その後に僕の個人的な趣向を超えた音楽、というように広がっていった。試聴会を行うアルバムを行う際に大事なのはそのアルバムを聴くことによってある種の旅に出るような感覚になれるような音楽ってことだ。音自体や美的感覚だけじゃなくて、雰囲気やその明と暗のコントラストだったりする。素晴らしい音楽であったとしても、Pitchblack Playbackには合わないと思うような音楽もたくさんあるよ。

 

──実現に向けて難しかったこと、苦労したことは?

 

ほとんどのレコードレーベルが僕のメールを無視するってことかな(笑)。一番最初に実現したのはベラ・ユニオンとフィクション・レコーズだったよ! あとは会場を見つけるのも大変だったね。映画館は映画ディストリビューターとの取引があって、契約によっては決められた回数だけその映画を上映しないとならない。僕らが試聴会を行いたかったのは平日の夜の時間帯だから、そういう事情もあって実現できる映画館を探すのは難しかった。僕らと一緒にコラボしてくれる映画館は少しずつ見つかっていったって感じだ。

 

──今後の展開と夢は?

 

Pitchblack Playbackを世界中に広めることさ!2020年の終わりまでにはいくつかの都市で定期的に開催できるようにはしたい。最終的にはロンドンに自分の会場を所有したい、僕らのしたいことをなんでもできる完全に自由な空間を。そしてそれを色んな都市で実現したい。僕には色々なサイドプロジェクトの計画や、特別な試聴会などたくさんの計画があるんだ。昨年の夏に行ったYouTube Musicとのコラボのように、僕らが求める素晴らしい音楽体験を実現するための資金を提供してくれるブランドとのコラボっていうのはどんどんやっていきたいね。

 

ザ・シネマティック・オーケストラの12年ぶりとなるニュー・アルバム『To Believe』は3月15日に全世界同時にリリース。アルバムにはモーゼス・サムニー、ルーツ・マヌーヴァらも参加。この新作を携えての来日公演も4月に行われます。

 

■Disc info

 

 

ザ・シネマティック・オーケストラ
『To Believe』
BEATINK
Now on Sale

 

■Live info
THE CINEMATIC ORCHESTRA Live

 

4月18日(木) 大阪・サンケイホールブリーゼ OPEN 18:00 / START 18:30
4月19日(金) 東京・昭和女子大学人見記念講堂 OPEN 18:00 / START 18:30

 

■Link

http://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10050

 

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