アカデミー賞8部門ノミネート映画『ハムネット』│真紅ドレスに込められた衣装の意図をデザイナーが解説

『ハムネット』場面写真04

アカデミー賞8部門ノミネートの映画『ハムネット』(4月10日(金)公開)が、衣装デザイナー・マウゴシャ・トゥルジャンスカによるインタビューテキストと本編映像を2月20日(金)に公開しました。ジェシー・バックリー演じるアグネスを彩る真紅のドレスには、キャラクターの内面と感情の変遷を読み解く緻密な設計が込められています。




第98回アカデミー賞8部門ノミネートの映画『ハムネット』とは

『ハムネット』場面写真01

本作は、2020年に発表されたマギー・オファーレルの同名小説を原作とする実写映画化です。原作小説は英女性小説賞と全米批評家協会賞を受賞し、世界的な評価を獲得しました。

舞台は16世紀のストラトフォード・アポン・エイヴォン近郊をモデルにした架空の村。森を愛し、薬草の知識に優れた妻アグネス・シェイクスピアと、ロンドンで劇作家として活動する夫ウィリアム・シェイクスピア、そして3人の子どもたちの物語です。父親不在のなか子どもたちを守り奮闘するアグネスに、やがて一家に大きな不幸が降りかかります。

『ハムネット』場面写真02

監督・脚本はクロエ・ジャオ(スティーヴン・スピルバーグとサム・メンデスが製作を担当)。出演はジェシー・バックリー、ポール・メスカル、エミリー・ワトソン、ジョー・アルウィンという実力派たちです。第50回トロント国際映画祭で観客賞(最高賞)を受賞し、第83回ゴールデングローブ賞では作品賞(ドラマ部門)と主演女優賞(ドラマ部門)を受賞。さらに第98回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演女優賞などの主要部門を含む計8部門にノミネートされています。



解禁された本編映像─シェイクスピアとアグネスの出会い

このたび公開された本編映像は、若きウィリアム・シェイクスピアがアグネスの心を掴もうと不器用に話しかけるシーンを捉えたものです。「君に鳥用の手袋を」「もうある」──そのやりとりは、ふたりの関係のはじまりを印象的に描いています。

この映像のなかでひときわ目を引くのが、緑豊かな自然のなかに鮮烈に浮かび上がるアグネスの真紅の衣装です。生命力と痛みの記憶を同時に感じさせるこのドレスには、キャラクターの内面を読み解くための緻密な設計が込められています。



真紅ドレスの秘密─衣装デザイナーが語るアグネスの色彩

 

Focus Features' "Hamnet" Los Angeles Premiere

 

マウゴシャ・トゥルジャンスカ

衣装デザインを手がけたのは、Netflixシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』やA24製作の『X エックス』『Pearl パール』などで知られるマウゴシャ・トゥルジャンスカ(Małgorzata Turzyńska)です。今回、第98回アカデミー賞衣装デザイン賞にもノミネートされています。

アグネスの衣装のコンセプトについて、トゥルジャンスカはこのように語っています。「思い浮かんだのは鼓動する心臓、生命力と血で満ちた筋肉でした。彼女は自然と有機的につながり、ベリーのように慎重に扱わなければ毒にもなりうる存在です」。

アグネスが初登場する際のベリーレッドやオレンジ、さび色といった鮮烈な色彩は、物語の進行とともに灰紫やプルーンブラウン(深みのある濃い黒紫色)へと変化し、最後には深く成熟した赤へと移ろっていくといいます。衣装の色の変化そのものが、癒えない傷と成熟の軌跡を可視化する設計です。

ジェシー・バックリーも、この赤いドレスについて印象深いコメントを残しています。「まるで開いた傷口のような色で、時間をかけて縫い上げられ、いくつもの穴が繕われています。誰にも見えないほど小さなものまで」。鷹匠、薬草採集者、治療師として自然と結びつくアグネスの精神性を、衣装が言葉以上に語っています。



素材と構造に宿る16世紀イギリスの精神

アグネスの衣装には視覚的な設計だけでなく、素材へのこだわりも貫かれています。大地との結びつきを表現するため、主に植物繊維の生地が採用されました。リネンは16世紀の歴史的背景とキャラクター性の双方に適合する素材として選ばれ、さらに本物の樹皮から作られた有機的なテキスタイルも取り入れられています。

重ね着の構造は時代考証に基づきながらも、着こなしには現代的な感覚が与えられています。トゥルジャンスカはこう説明します。「整った装いのシェイクスピア家の人々と比べると、彼女は野性的で反抗的、パンクな印象を持っています。外見は変化しますが統一感を保ち、まるでムードリングのように、一着のドレスが自然に彼女に寄り添って変化していくように見せることが重要でした」。

衣装デザインの世界では、衣装がキャラクターの心理状態や変化を観客に伝える重要な演出ツールとなります。本作のように、時代考証と現代的感性を融合させながらキャラクターの内面まで衣装で表現するアプローチは、近年のアート系映画において高く評価される傾向にあります。



4月10日公開に向けて─映画館で体験すべき理由

映画『ハムネット』は4月10日(金)より全国順次ロードショーです。クロエ・ジャオ監督にとって前作『ノマドランド』(第93回アカデミー賞作品賞・監督賞受賞)以来となる長編新作であり、本年度の賞レースにおける最有力作の一本として注目を集めています。

今回公開されたインタビューと本編映像は、衣装が物語にどう機能しているかを事前に知る貴重な手がかりです。真紅のドレスの意味を知ったうえで本編を観れば、アグネスの感情の変化がより深く伝わってくるはずです。イギリスの歴史・文化・文学に興味があるなら、見逃せない一作といえます。

公開情報

 

『ハムネット』ポスター

 

監督
クロエ・ジャオ
脚本
マギー・オファーレル、クロエ・ジャオ
製作
スティーヴン・スピルバーグ、サム・メンデス
出演
ジェシー・バックリー、ポール・メスカル、エミリー・ワトソン、ジョー・アルウィン
作品情報
2025年 / イギリス映画 / 126分 / カラー / 英語 / 5.1ch / ビスタサイズ / 原題:HAMNET / 映倫区分:G
公開日
2026年4月10日(金)より全国公開
配給
パルコ ユニバーサル映画

©2025 FOCUS FEATURES LLC.

Text by British Culture in Japan編集部

 

Link

https://www.cinequinto.com/parco-movie/

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