スティーヴン・フライがアウシュヴィッツで向き合った家族の記憶──映画『旅の終わりのたからもの』が投げかける問い

『旅の終わりのたからもの』

英国俳優のスティーヴン・フライが主演を務める映画『旅の終わりのたからもの』が、2026年1月16日(木)よりkino cinéma新宿ほか全国で公開。1991年のポーランドを舞台に、ホロコーストを生き抜いた父とニューヨーク育ちの娘が約50年ぶりに祖国へ戻り、家族の歴史を辿るロードムービーです。第74回ベルリン国際映画祭ベルリン・スペシャル・ガラ部門やトライベッカ映画祭2024インターナショナル・ナラティブ・コンペティション部門に出品され、国際的な注目を集めています。




『旅の終わりのたからもの』あらすじと作品概要

物語の舞台は民主国家としての土台を築く激動の時代であった1991年のポーランドです。ニューヨークで生まれ育ったルーシーは、ホロコーストを生き抜き約50年ぶりに祖国へ戻る父エデクと共にワルシャワに降り立ち、自身のルーツを探る旅に出ます。ちぐはぐな父娘は、ポーランド各地の歴史的な場所や家族の思い出が残る土地を巡りながら、互いに抱える痛みと向き合い、やがてふたりだけの「たからもの」にたどり着いていきます。

ルーシーが綿密に練った旅行計画を、奔放なエデクが次々に台無しにしていくドタバタの珍道中は、笑いと温かさに満ちています。一方で、電車を避け、生まれ育った街や家を遠ざけ続けるエデクの姿からは、ホロコースト生存者としての過酷な記憶がほのめかされます。旅の終盤、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所を訪れたルーシーは、父の口から初めて恐ろしい体験を聞くことになり、父と娘の関係は大きな転機を迎えます。



スティーヴン・フライとエデクというキャラクター

『旅の終わりのたからもの』

本作で破天荒な父エデクを演じるスティーヴン・フライは、『シャーロック・ホームズ シャドウゲーム』や『ホビット』シリーズなどで知られる英国の国民的俳優です。俳優としてだけでなく、作家、ジャーナリスト、コメディアン、司会者、ナレーター、映画監督としても活躍しており、双極性障害を公表してメンタルヘルスに関する啓発や環境問題、慈善活動に取り組んできたことで、ナイトの称号を授与された人物でもあります。

エデクは、出会った人々を次々に魅了する陽気でチャーミングな人物として描かれる一方で、ホロコースト生存者としての重い過去を抱えています。明るくユーモラスな笑顔の下に激烈な痛みを隠し持つという難しい役柄を、フライは表情や間合いの変化で繊細に表現し、観客に強い印象を残します。



脚本に感じた「私自身のつながり」

『旅の終わりのたからもの』

フライは最初に脚本を読んだ感想を、「ただ魅了されました。非常に感動的で心に響くものでしたし、私自身のつながりも感じました」としみじみと語っています。この言葉には、単なる役者としての共感を超えた、個人的な背景との深い関係性がにじみ出ています。

母方の家族がアウシュヴィッツで命を落としたフライにとって、ホロコーストの記憶は家族史の一部でありながら、長く直接向き合うことを避けてきたテーマでもありました。父娘が過去と対峙する物語に、自身の家族の物語が重なったことで、フライは作品全体に強い親近感を覚えたといえます。



初めて訪れたアウシュヴィッツで向き合った家族の記憶

『旅の終わりのたからもの』

フライは撮影を通じて初めてアウシュヴィッツ周辺を訪れ、「これまで一度も訪れたことはありませんでした。あの場所で自分の家族が命を落としたと知っている人々にとって、その地を訪れ大叔母や大叔父、いとこたちが列車を降り強制収容所に送られる様子を想像することは、非常に強く重い感情を抱くものです」と振り返っています。自らの家族が経験したであろう光景を想像することは、俳優としてではなく、ひとりの人間としての強い負荷を伴う体験だったことがうかがえます。

撮影中には、フライの妹もアウシュヴィッツを訪れました。兄妹はその夜、92歳の母親に電話をかけ、現地で感じたことを共有したといいます。スクリーンの中で、これまで娘に語らなかった記憶を静かに明かしていく父エデクと同じように、フライ自身もまた、長く言葉にできなかった家族の痛みと向き合う時間を過ごしたといえるでしょう。



公開情報、そして観客への問いかけ

『旅の終わりのたからもの』

『旅の終わりのたからもの』は、原作リリー・ブレット著『Too Many Men』に基づいて制作されました。父娘の噛み合わない会話や珍道中を通じて笑いと温かさを描きながら、「過去を忘れずに生きるとはどういうことか」「家族の記憶をどう受け継ぐのか」という問いを観客に投げかけます。ホロコーストを題材にした作品が増える中で、個人的な家族史とロードムービーの形式を組み合わせた本作は、歴史を自分事として考えるきっかけを与えてくれる一本といえそうです。

公開情報

 

『旅の終わりのたからもの』

 

監督
ユリア・フォン・ハインツ
出演
レナ・ダナム、スティーヴン・フライほか
作品情報
2024年 / ドイツ、フランス映画 / 英語、ポーランド語 / 原題 : TREASURE
公開日
2026年1月16日(金)より、kino cinéma 新宿ほか全国公開
配給
キノフィルムズ

©2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, Haïku FILMS

 

Link

https://treasure-movie.jp/

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