映画『ぼくの名前はラワン』エドワード・ラブレース監督インタビュー|ダービーを舞台にろうの難民少年の希望を追った4年間

イラク出身のろう者少年が英国ダービーで手話を習得し成長する姿を追ったドキュメンタリー映画『ぼくの名前はラワン』が、2026年1月9日(木)より新宿武蔵野館ほか全国で順次公開中。エドワード・ラブレース監督が語るのは、一般的なドキュメンタリーの枠を超えた詩的な映像表現と、4年間にわたり被写体の少年ラワンと信頼関係を築くために自ら英国手話(BSL)を学んだ制作の軌跡です。




劇映画のような没入感を目指して

エドワード・ラブレース監督

エドワード・ラブレース監督

──この作品は一般的な観察型のドキュメンタリーというより、劇映画のような没入感や詩的な美しさがあります。ラワン君の視点を映像化するために、撮影監督のベン・フォーズマンとはどのように話し合いましたか?

実は、ラワンとわたしとでこの映画を視覚的に美しい映画にすると約束していました。一般的なドキュメンタリーのイメージではないものにしたいとわたしも思いましたし、ラワンもそう願っていたんです。観客の皆さんに興味深くインスパイアを与えるものにしたいと思ったんです。

ベンとも、没入感を大事にしようと話していまして、ラワンが経験したことや心の中を体験できるような作品にしたいと思い、作りました。なので、ラワンが日々を過ごす場所で撮影し、自然光でその場所を美しく映しだすことにもこだわりました。

ラワンが通った学校は本当に素晴らしい場所で、世界中にあの学校のやっていることを広めて欲しいと思うくらいです。だからこそその場所を光で美しく撮ることにこだわりました。ドキュメンタリーに社会が求めているスタイルよりもラワンの物語にあっているとも思いました。

──難民映画や社会派ドキュメンタリーという枠組みよりも、ひとりの少年の成長を描く普遍的な青春映画としてもこの作品を受け取りました。社会問題と個人の物語のバランスをどのように調整しましたか?

私自身、個人の経験を映画にしたいと思っています。4年間、ラワンの家族と過ごしていたので問題に直面した時ももちろんリアルタイムでカメラに収めていました。でも、ラワンや家族が経験したことを映画で表現していて、観客も彼らに起きたことを映画を通して知っていく。それでバランスを保てたんだと思います。

手話を学び、築いた信頼関係

『ぼくの名前はラワン』

──撮影は4年間に及んだと伺いました。あなたが英国手話(BSL)を学び、ラワン君と直接コミュニケーションを取れるようになる過程は、監督と被写体という関係性をどのように変化させましたか?

手話通訳の人は常にいましたので不自由があったわけではないですが、自分がラワンと一緒に手話を学ぶことで、映画を超えたきずなを結べたように思います。ラワンの両親はずっと手話を学んでいなかったので、わたしが学んだことにとても驚いて、非常に喜んでくれました。わたしも手話を学んだことでラワンがとても面白い子だということにも気づけました。

それまで彼にとってわたしは学校についてくる映画を撮る人だったのが、わたしが手話を学ぶことで、映画のことを忘れて、ふざけ合ったりできるようになったんです。また、それによって、彼が主導権を握ることもできるようになり、撮りたい場所、撮りたくない場所など彼が選択して伝えてくれるようになったのでとても良かったと思います。

本作にはふたりデフの監督が関わっているのですが、それもラワンは嬉しかったようです。そのうちのひとりは先生でありアーティストでもあるので、デフでも世界に飛び出している人がいるということがとても嬉しかったようでした。

『ぼくの名前はラワン』

──多くの映画でロンドンや美しい田園地帯が描かれる中、この映画はあまりスクリーンには登場しない「ダービー」という街を、ラワン君にとっての温かいサンクチュアリとして美しく描いています。あなた自身の目には、ダービーという街はどのように映りましたか?

ダービー自体は典型的なイギリスの街だと思います。ロンドンは特別であそこはひとつの国のように突出しています。本当のイギリスを知りたければロンドンの外に出るべきだと思います。美しい自然が近い場所もあるけれど、住宅密集地のような場所もある。住んでいる人も様々で政治的な思考もいろんな人がいます。自由であり、すべての人が歓迎される場所でもある。自分たちの意見を外に発信したいと思っているような人がたくさん住んでいる場所だと思います。それが典型的なイギリスの街です。なのでドラマチックに美しいというよりは誠実で正直な人が住んでいる街です。

デフの世界を音で表現する

『ぼくの名前はラワン』場面写真01

──「音のない世界」を描く際、完全な無音ではなく、環境音や振動を感じさせるようなサウンドデザインが印象的でした。ラワン君の聴覚体験をどのように音響的に再現しようと試みましたか?

デフの世界=無音というのは誤解なんです。わたしが話したデフコミュニティーでは映画『インターステラー』(2014/クリストファー・ノーラン監督)のサウンドが良いと評判でした。なので今回は、ラワンの聞こえてる状況を表現することに注視しました。彼は人工内耳を付けていますので、その状態でどのように聞こえているのかを表現しています。本作にはサムという人工内耳をつけたスタッフが入っていて、人工内耳に届く周波数なども確認して音を作っています。その結果、デフコミュニティーにも良い評価をいただきました。

──映画の完成後、少し成長したラワン君は、この映画を観てどのような感想を持っていましたか? また、彼は今どのようなことに興味を持っていますか?

法廷に行く場面がありますが、この映画はその際、法廷に提出することになったので、そこでだいたいどんな映画になるかラワンは知っていました。最終編集が終わり、完成した作品を見たラワンの家族は自分たちの話でありながら、自分たちではないかのようだと喜んでくれました。そして、ダービーの人たちが見るということは想定していたようですが、こうやって日本やアメリカなど別の国の方々が見ることになるとは思っておらず、驚きと共に喜んでくれました。自分たちの物語だけでなく、これを見て世界中の人たちは何を感じるのか興味を持っているようです。

公開情報

 

『ぼくの名前はラワン』ポスター

 

監督・脚本
エドワード・ラブレース
出演
ラワン・ハマダミン
作品情報
2022年 / イギリス映画 / クルド語・英語・イギリス手話(BSL) / 原題 : Name Me Lawand
公開日
2026年1月9日(金)より、新宿武蔵野館ほか公開中
配給
スターキャットアルバトロス・フィルム

©Lawand Film Limited MMXXII, Pulse Films, ESC Studios, The British Film Institute

 

Link

https://lawand-film.com/

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