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映画『アウェイデイズ』原作者ケヴィン・サンプソン インタヴュー
1979年のマージーサイドを舞台に破滅的な若者たちと、日本ではほとんど紹介されることのなかった英国フットボール発祥の文化<カジュアルズ>を描いた映画『アウェイデイズ』。11年の歳月を経て日本初公開された映画の原作者であるケヴィン・サンプソンがインタヴューに答えてくれました。
圧倒的な暴力とセクシャル、そしてロックンロールに満ちあふれた『アウェイデイズ』の世界は、ザ・ファームの活動にも携わっていたマージーサイド出身の小説家ケヴィン・サンプソンが1998年に上梓した同名小説を基に、ポスト・パンク時代の研ぎ澄まされていたエナジーを記録した真実の物語。
ジョイ・ディヴィジョン、ザ・キュアー、マガジン、エコー&ザ・バニーメン、ウルトラヴォックスらの音楽をバックに、若者たちが自らの拠りどころを探し、絶対的な者へ憧憬を抱き、そして形成された“族”の中で避けることの出来ない運命にもがき苦しむ様をリアルに映像化しています。
──『アウェイデイズ』はあなたが書いた小説が原作で、脚本も担当されました。ご自身の物語が映像化されたことにどういう思いを抱かれましたか?
実は、本を書き始める前から、映画にすることを目論んでいたんです。あの世界、服や音楽、そして暴力のカルト的な世界は、ヴィジュアル化されることでさらに伝わると考えていたからです。
本が出版されたのは1998年のことで、それ以来、私はイギリスの様々な映画会社に興味を持ってもらおうと懸命に売り込みました。その執念で映画化されたときは本当にうれしかったですね。パット・ホールデン監督はとても刺激的で本格的な映画を作ってくれたと思います。
──映画の舞台にもなっているバーケンヘッドであなたは生まれ育ったようですが、当時のバーケンヘッドはどのような街だったのでしょう? また対岸のリヴァプールとの違いはありましたか?
バーケンヘッドはリヴァプールとはマージー川を挟んでいるだけで、同様に海運貿易で栄えました。アクセントも同じです。でも、文化的にはかなり異なっていて、間違いなくリヴァプールの人はダサい郊外の街として見下しています(笑)。
少し遅れていて、都会の人の様に洗練されていないかもしれませんが、OMDをはじめ、リヴァプール出身とされているバンドが対岸のバーケンヘッドを含むウィラル出身だったりすることも珍しくありません。スカリーズ、カジュアルズといったフットボールのファッションという点では、バーケンヘッドはリヴァプールより3ヶ月ほど遅れていましたけどね。
──あなたはどのようにしてカジュアルズというカルチャーに出会ったのでしょうか?
重要なのは、このシーンがリヴァプールやマージーサイド周辺で始まった頃(1977年以降)は誰もカジュアルズとは呼ばなかったということです。当初、ロンドンでそう呼ばれていて、リヴァプールには83年くらいにカジュアルズという呼び方が広まったように思います。
ですから、自分たちがしていたことが外部から、それも後からになって名付けられたということになりますね。わたしの場合は、1976年に父が亡くなってから、リヴァプールのアウェイゲームに行くことが多くなりました。当時13歳でしたが、“彼らの一員”になりたくてしかたがなかったんです。若い子たちの多くが、映画の中のカーティのように片目を大きなフリンジで覆っているような服装をしていることに気づき、彼らと同じ服を着たい、ギャングの一員になりたいと思うようになりました。
トレンメア・ローヴァーズやエヴァートンのファンにもこのような格好をしたギャングがいましたが、その見た目や服装でマージーサイドの出身だとすぐにわかりましたね。経済的に厳しい苦難の時代でしたが、そうしたファッションをまとうことで自分たちの矜持を保っていたんだと思います。
──カジュアルズはフットボールのサポーターですが、どうしてユニフォームを着なかったのでしょうか?
ほかの人たちとはまったく違う格好をすることで自分たちをアピールしていたんですよ。ほとんどのサポーターは色とりどりのユニフォームを着ていましたが、カジュアルズの若者たちは一般的な“woolyback”(ファッション性のない)ファンと一緒にはされたくなかったんです。
──当時、レアなスニーカーはどのようにして手に入れていたのでしょうか?
最初は、みんなアディダスのサンバを履いて、ロイスのジーンズ、フレッドペリー、カグール(フード付きの軽量な防寒防雨用コート)を着ているだけでした。サンバは簡単に手に入りましたね。次に狙ったスニーカーはスタン・スミスで、その後すぐにウィンブルドン、ロッド・レイバー、ナスターゼ……たくさんの「テニスプレーヤー」のスニーカー(私たちはそれを「トレーナー」と呼んでいました)がありました。
思い浮かぶあらゆる国に行き、いつもクールなスポーツウェアやトレーナーを持ち帰っていたんです。フォレスト・ヒルズ、SL 80、トム・オッカー、バーリントン・ゴールド、トリム・トラブ、コルシカ、パレルモなど、それに加えてプーマのヴィラスやナイキのコルテッツなども履いていました。
私はアディダスのシルエット、特にローカットのスエード、トバコやアムステルダムのようなニュートラル・カラーのシューズが好きでしたが、スカイブルーのスウッシュが入った真っ白なナイキのブレーザーも持っていましたね。
リヴァプールの多くのキッズが珍しいスニーカーを血眼になって探しているのを見て、リヴァプールにウェイド・スミスというイギリス初のスニーカー専門店ができるほどでした。ウェイド・スミスがドイツやアメリカでは人気のなかったフォレスト・ヒルズを400足持っていて販売したら、3日で完売するほど、リヴァプールはスニーカー・クレイジーの街だったんです。
──いちばんこだわっていたのはトレーナーですか?
カジュアルズのシーンはファッションや音楽やフットボールだけではないと考えていますもちろん重要ですが、アティチユードもでもあるんです。良いことも悪いことも、仲間と経験し、忠誠心を持ち、見栄を張り、常に笑うのです。
──リヴァプールでは“スカリーズ=Scallys”と呼ばれていたんですね。これは自分たちがそう名乗ったのか、それとも鼻つまみ者として一般市民がそう呼んだのでしょうか? また88年くらいにマッドチェスター・ムーヴメントでScallysという言葉は再び登場します。どちらもスポーティなファッションが共通していますが、関係性はあったのでしょうか?
自分たちの中ではお互いをスカリーズと呼ぶこともありますが、本当に最初は呼び名がなかったんですよね。ロンドンからやって来たわけでも、音楽シーンから発展したわけでもなく、マルコム・マクラーレンのような仕掛人もいなかったし、誰かが儲けようとムーヴメントを操っていたわけでもなかった……あらゆる意味で名前のないアンダーグラウンドな若者のカルト・シーンだったんです。
1979年頃、マンチェスターの若者たちがリヴァプールのような格好をし始めたとき、彼らはペリー・ボーイズという名前を使いました。フレッド・ペリーのTシャツを着ていたからです。ロンドンの音楽メディアはハッピー・マンデーズやザ・ストーン・ローゼズのようなマッドチェスターのバンドを「スカリーズ」と名付けましたが、これはメディアが何年も前から起こっていたことに追いつこうとしていただけだと思いますね。
──映画は言うまでもなく音楽が重要な役割を果たしています。映画の時代である1979年はパンクからポスト・パンクへと移行する時期であり、モッド・リヴァイヴァル、2トーンのムーヴメントがピークを迎えていました。あなたたちカジュアルズはどのような音楽を好んでいたのでしょうか?
長時間の電車の旅や、時にはフットボールの試合に行く飛行機の中で、私たちをいつも団結させてきたのは、音楽です。時には分裂もさせましたが。ほとんどの人がザ・クラッシュやザ・ジャム、UB40、ザ・スペシャルズを好んで聴いていましたが、私たちはもっと好みが多様でしたね。
エコー&ザ・バニーマン、ジョイ・ディヴィジョン、ワイヤー、マガジン、キャバレー・ヴォルテール……レゲエしか聴かない人もいれば、ピンク・フロイド、ジェネシス、ボブ・ディランなどを聴いていた人もいました。個人的にはイギー・ポップ、ルー・リード、デヴィッド・ボウイのベルリン3部作と共にポスト・パンクにハマっていました。ボウイは音楽だけでなく、ファッションにも大きな影響を与えてくれましたね。
──フットボールと関係が深いノーザン・ソウルは好まれていなかったのでしょうか?
ノー! 我々にとってノーザン・ソウルは前時代的なカルチャーで、もっさりしたヘアスタイルと裾が幅広のトラウザーズにブーツというファッションは相容れないものでした。映画でパックが対決するやつらは、まさしくノーザン・ソウルのファンに見えるはずです。
──映画ではエコー&ザ・バニーメンも登場しますし、映画ではキャヴァーンが使われていますね、エルヴィスの部屋にはビッグ・イン・ジャパンのポスターも貼ってあります。当時のエリックス・クラブを中心とするリヴァプールのミュージック・シーンも描かれていますが、カジュアルズたちはそのシーンに関わっていたのでしょうか?
確かにそういう格好をしてフットボールに行ったり、エリックスのシーンに夢中になっていた人はかなりいました。でも、エリックスやクラブ・ズー、ミシェル・クレアのようなクラブに行っていた人たちの大半は、カウンターカルチャーや元パンクのようなタイプでしたね。
彼らは黒ずくめで、当時の若いフットボール・キッズたちにはあまり人気がありませんでした。私たちの服はもっと明るくて、スニーカーを履いていたので、少しは目立っていたのかもしれませんが。でも、クラブに入ってしまえば、何のいさかいもありませんでしたよ。みんな仲良く、音楽を楽しんでいましたから。
──ウルトラヴォックスの曲が多く使われています。
私がはあのシンセ・ヘヴィな初期のウルトラヴォックスのサウンドが大好きだからです。シンプル・マインズの「アイ・トラヴェル」、クラフトワークの「ネオン・ライツ」、ヒューマン・リーグの「エンパイア・ステイト・ヒューマン」、パブリック・イメージ・リミテッドの「パブリック・イメージ・リミテッド」などの楽曲を使うことも試みたのですが、権利元は“フーリガン”映画に使われることに非常に抵抗を持っていましたので、かなわなかったのです。
ですので、私はポスト・パンクを新しい世代に紹介したかったし、特に初期のウルトラヴォックスを再発見してもらいたかったから、彼らのサウンドが使われているんです。ウルトラヴォックスはミッジ・ユーロが加入した『ヴィエナ』のヒットによってビッグになりましたが、初期のジョン・フォックス時代のウルトラヴォックス!はとてもクールで、この音楽をオーディエンスに届けたかったんです。そこで私は監督とプロデューサーのデヴィッド・ヒューズにウルトラヴォックスをもっと使うようにお願いしたわけで、みごとに映画にはまったと思いますよ。
──エルヴィスは同性のカーティを愛します。当時は世間的にまだLGBTQに理解はなかったはずですし、マッチョなカジュアルズの中では忌み嫌われる存在だったと想像します。実際にカジュアルズにゲイは存在していたのでしょうか?
あの時代、労働者階級の若者がほかの若い男性への愛を周りに認めさせることは不可能だったに違いありません。しかし、ジョー・オートンやマルコム・ローリーの作品や、クレイ兄弟のロニーような実際のケースを見れば、もちろんセクシュアリティは自分自身の問題であり、人はそれぞれ違うことに気づくでしょう。
でも、70年代後半のフットボール・ギャングのマッチョな世界で同性への愛を感じた人は、黙っていただろうと想像します。エルヴィスをこのように書いたのはそのためです。彼の怒りと暴力は、深い抑圧から発している。エルヴィスは芸術や音楽、文化を理解しているカーティに希望を見出しているんです。
エルヴィスはカーティに彼が持っていないものを見ているです。物語のその部分は意図的に未解決であり、かなり悲劇的であります。カーティは勇敢で無謀なエルヴィスになりたい、エルヴィスは実際には幻想でしかないカーティになりたいと互いにないものねだりをしているわけです。
──時代的にはサッチャー首相の新自由主義によって貧富の差が激しくなっていたと思います。カジュアルズはワーキング・クラスのカルチャーだと思いますが、社会への不満からカジュアルズからスキンヘッズになり、ナショナル・フロントに所属するというような流れもあったのでしょうか? 映画でのスティーヴン・グレアムを観ていて、そう思ったのですが、彼もリヴァプール出身ですよね。
ええ、ゴッドン(スティーヴン・グレアムが演じる役名)は年上で、元軍人で、ナショナルフロントにも参加しただろうと思っています。しかし、パックのほとんどはサッチャーの経済政策の犠牲者である若者です。1979年から1980年代半ばの間に生まれた膨大な若者の失業は彼女の責任ですね。
──最後に日本の観客にメッセージをお願いします。
日本のような目の肥えたファンと、クールな文化の中で、自分の作品が新しい世代の映画好きに観てもらえることに何より喜びを感じています。エリックスのシーンで私が好きだったバンドのひとつに、ビッグ・イン・ジャパンというバンドがいました。カーティやエルヴィス、パックも“ビッグ・イン・ジャパン”になれることを願っています。
インタヴュー・文/油納将志
■Film info
『アウェイデイズ』
監督 : パット・ホールデン
脚本 : ケヴィン・サンプソン
原作 : ケヴィン・サンプソン『AWAYDAYS』
出演 : スティーヴン・グレアム、ニッキー・ベル、リアム・ボイル、イアン・プレストン・デイヴィーズ、ホリデイ・グレインジャー、サシャ・パーキンソン、オリヴァー・リー、ショーン・ワード、マイケル・ライアン、リー・バトル、レベッカ・アトキンソン、ダニエレ・マローン、デヴィッド・バーロウ、アンソニー・ボロウズほか
2009年 / イギリス映画 / 英語 / 原題 : AWAYDAYS
配給 : SPACE SHOWER FILMS
10月16日(金)より新宿シネマカリテほかにてロードショー 以降、全国順次公開
©RED UNION FILMS 2008
■Link
https://awaydays-film.com/
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