フェアーグラウンド・アトラクションの再結成と来日公演レポート:34年の時を経て

フェアーグラウンド・アトラクション 来日公演

1990年の突然の解散から34年の時を経て奇跡の再結成&35年ぶりの来日公演を発表した伝説のグループ、フェアーグラウンド・アトラクション。活動再開の地に選んだのは、バンドと特別な縁を持つここ日本。世界中のファンがうらやむジャパンツアーの初日レポートをお届けします。




音楽っていいな、歳を重ねるのも悪くないことだなと心から思える、贈り物のような一夜だった。

人気絶頂にあった1990年、たった1枚のオリジナルアルバム『The First of a Million Kisses』を残して突然解散してしまったフェアーグラウンド・アトラクション。その印象があまりにも鮮やかだったので、昨年12月、34年ぶりのリユニオンが伝えられたときには心底驚いた人も多かったはずだ(筆者もそのひとり)。実際、来日ツアーの皮切りとなった渋谷クラブクアトロは待ち焦がれたファンで超満員。オールスタンディングのフロアには、リアルタイム世代と思しき男女に混じって、若者たちの姿も目立つ。会場には再会の喜びとこれから始まるライヴへの期待があふれていて、誰もが楽しそうだ。このバンドが時代を超えて愛されていることが肌で感じられて、開演前から胸がいっぱいになる。

フェアーグラウンド・アトラクション 来日公演

定刻の19時半を少しだけすぎた頃、オリジナルメンバー4人とサポートのふたりが満面の笑みで登場。特大級の歓声と拍手で迎えられた。「今日は新しい曲と昔の曲、両方持ってきたからね!」。そう言ってエディ・リーダー(ヴォーカル、ギター)が歌いだしたのは新曲「A Hundred Years of Heartache 」。盟友マーク・E.ネヴィン(ギター)の手による、甘酸っぱいバラードだ。マークのアコギが刻むゆったりしたリズムに、エディーの伸びやかな声が重なる。サイモン・エドワーズ(ギタロン)が無駄のないベースラインを奏で、ロイ・ドッズ(ドラムス)がお馴染みのブラシで独特のスウィング感を醸し出す。どこまでもヴォーカルを中心に組立てられたシンプルで奥深いアンサンブル──。思わず「こういう曲を待っていた!」と言いたくなる、素敵なプレゼントでライヴは幕を開けた。

そのまま流れるように、2曲目の「A Smile in a Whisper」。アルバム『The First of a Million Kisses』の冒頭を飾ったナンバーだ。可憐なイントロが響いた瞬間、オーディエンスの歓声が爆発。感極まったエディーが後ろを向いて、そっと涙を拭う。彼女の声は少しハスキーさを増し、いい意味で押し出しも強くなった気がする。でもバンドの核にある歌心──この世界のいいところに目を向け、祝福するチャーミングさはまったく変わらない。両手を広げ、天を仰いで楽しげに歌う姿から、それがはっきり伝わってくる。オーディエンスはサビのフレーズを大合唱。冒頭2曲で、バンドの過去と未来が見事にリンクする。そこに何の違和感もないことが、ファンとしてしみじみ嬉しい。



そこからは初披露の新曲と『The First of a Million Kisses』の収録曲が、ほとんど等分に演奏されていった。素晴らしかったのは、そのどちらもが本当に同じ輝きを放っていたことだ。軽快なリズムに乗せて、壊れゆく世界にユーモラスな祈りを捧げる「What’s Wrong With The World?」。マイクスタンドを握りしめたソウルフルな歌唱が心に残った「Gatecrashing Heaven」。ゆったりとワルツを踊りながら披露した「Last Night (Was A Sweet One)」。どの楽曲も着慣れたシャツのように、しっくり身体に馴染んでいる。鍵盤アコーディオンの旋律でそっと歌に寄り添うグラハム・ヘンダーソンと、勘所を押さえたビブラフォンで楽曲を彩るロジャー・ボジョレー。サポートふたりとの噛み合い方も申し分ない。

フェアーグラウンド・アトラクション 来日公演

「9月にはアルバムを出す予定。あなたたちが世界で一番最初のリスナーね(笑)。実は私たちが解散を決めたのは(1989年の)日本ツアーのときだった。だからもう一度、ここからスタートすることにしたんです」

ライヴ中盤のMCで、エディー親しみを込めて客席にそう話していた。新しい楽曲を生み出し、この6人で演奏するのが楽しくて仕方ないのだろう。だからこそお馴染みの名曲たちも、単なる懐かしさを超えて心に迫ってくる。ライヴ終盤では「Moon on the Rain」「Clare」「Fairground Attraction」と往年の名曲を矢継ぎ早に披露。大ヒット曲「Perfect」では客席にシンガロングの渦を作り出していた。ぎゅうぎゅうに詰まった観客が、楽しそうに身体を揺らして歌う。ライヴ会場であんなに幸せな光景を目にしたのは正直、久しぶりだ。



本編ラストは「BEAUTIFUL HAPPENING」。6月19日、世界に先駆けて日本発売されたばかりのアナログEPのタイトルナンバーだ。“♪Some kind of beautiful happening/何か素敵なことが起こっているのよ”と、エディーはやさしく観客に語りかけてくれた。熟成して滋味にあふれるサウンドと相まって、そのメッセージが心にじんわり染み通っていく。畢生の名曲「Allelujah」を含むアンコール3曲も、酸いも甘いも噛み分けた人生の年輪を感じさせて、心が震えるほどすばらしかった。歳を重ねるのって悪いことばかりじゃない。そう心から感じられたライヴだった。

文 / 大谷隆之 写真 / 土居政則

 

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https://www.sonymusic.co.jp/artist/FairgroundAttraction/

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