マーク・ロンソン『レイト・ナイト・フィーリングス』interview

マイリー・サイラス、カミラ・カベロ、アリシア・キーズ、リッキ・リーといった人気女性シンガーソングライターや、テーム・インパラのケヴィン・パーカーら、豪華アーティストたちが多数参加した4年ぶりの新作を6月21日にリリースしたマーク・ロンソンにインタヴュー!

──まずは、「シャロウ~『アリー/スター誕生』愛のうた」の成功、おめでとうございます。あなたにとって「アップタウン・ファンク」に続くマイルストーンになった気がしますが、どんな風に受け止めていますか?

 

そうだな、こういう風に評価されるってことはもちろんすばらしいよ。でも同時に、諸刃の剣にもなり得るよね。なぜって、ぼくとしては常にグッド・ミュージックを作ることだけに専念していたいわけだし、誰かに“さあ、君にこの賞をあげるとしよう”と言われたからって、急に、ほかの人たちより自分が優れていると思い始めたりしてはいけない。まあぼくの場合、ちょっと不健全なくらいの向上意欲があるんだけどね(笑)。とにかくありったけの時間をスタジオで過ごして、よりいいものを作ることに集中していたい人間で、そういう意味ではハードコア過ぎるところもあるんだろう。でも僕にとってそれが最も大切なことなんだ。例えば、ニュー・アルバムの『レイト・ナイト・フィーリングス』にしたって、「シャロウ~『アリー/スター誕生』~愛のうた」や「アップタウン・ファンク」と同じように成功する保証はどこにもないけど、力の限りぼくが思う最高の形にしてリリースしたい。それにこのアルバムは、非常にパワフルなエモーションに裏打ちされているがゆえに、これまでの作品よりも強い思い入れがあるように感じるんだ。ほかのアルバムはどちらかというと、楽しむことを主眼にしていたからね。

 

──それにしても、今年に入って賞イベントが続いて、「シャロウ~『アリー/スター誕生』~愛のうた」は映画主題歌に与えられる賞を総なめにしましたよね。そういうお祭り的な数カ月がひと段落した時の気分はどんなものでした?

 

確かこのアルバムは2月中に作り終えていたから、最後のイベントだったアカデミー賞授賞式があった頃には、ほかの仕事をしていて、アリシア・キーズのアルバムを作っていたんだと思う。あとは、アルバムからのニュー・シングルにフィーチャーされているイエバのレコーディングにも関わっていたし、授賞式の翌日もいつも通りにスタジオで作業をしていたよ。もちろんパーティー三昧になる可能性を見越して、2時間くらいスタート時間を遅らせることを忘れなかったけど(笑)、基本的には通常営業って感じだったね。

 

 

──そんな「シャロウ~」の成功の裏で、『レイト・ナイト・フィーリングス』は完成までに紆余曲折があって、当初作っていた音源をボツにしたそうですね。

 

そうなんだよ。でも結果的には良かったと思うんだ。そもそもぼくがソロ名義のアルバムに着手する時は、毎回まず最初に、DJの視点で構想を膨らませる。つまり、“どうやったらみんなを踊らせることができるだろうか?”とか“どうしたら楽しいアルバムになるだろうか?”といったことを考えるんだ。そして曲作りに関しても、何しろぼくが人生で初めてプレイした楽器はドラムだから、常にビートを優先して取り組む。ビートをいじって、何か気に入ったものができたら、それを土台にして曲を組み立てるんだよ。「アップタウン・ファンク」も「バン・バン・バン」も「ウー・ウィー」も、みんなそういう成り立ちだった。ところが今回のぼくは、結婚生活の破綻という試練に直面して、エモーションが音楽に入り込むことは避けられなかった。ぼくにはそれを止めることができなかった。だから従来とは異なる趣向のアルバムになったんだ。“よし、だったら、今の自分が抱えているエモーションから目を背けないで、正面から向き合って、音楽に注ぎ込もうじゃないか”と考えたのさ。なぜって、本当にパワフルなエモーションだったから、それが導くままに進めば、すばらしい音楽に辿り着くんじゃないかと思った。それって少々皮肉な話ではあるんだけどね(笑)。そんなわけでソングライティングはいつもよりエモーショナルなプロセスになった。でも、その後はまた作業を楽しめたよ。一旦曲ができて、“なるほどね。じゃあこれに相応しいベースラインはどんな感じだろう?”と見極めていくのは楽しかった。なんだかんだ言って、究極的にはこのアルバムも、聴きながらみんなに踊ってもらいたいし、楽しんでもらいたいからね。

 

──すると、こんなに長いキャリアを持つあなたにとっても、まったく新しい体験をしたわけですから、戸惑いもあったんでしょうね。

 

うん。普段のぼくはエモーショナルな音楽を作るアーティストたちとコラボしていて、例えばエイミー・ワインハウスやレディー・ガガやクイーンズ・オブ・ザ・ストーンエイジといった人たちが、ありったけのエモーションを注ぎ込んで音楽を作るのを支える側にいた。そしてマーク・ロンソンのアルバムを作る時には、逆に、“パーティーにぴったりの音楽を作るぞ!”っていうような軽い気持ちで臨んでいたからね。

 

──新しいと言えば、スタジオをLAに新設したんですよね。

 

ああ。ブルーノ・マーズのセカンド『アンオーソドックス・ジュークボックス』に参加してからというもの、当時はロンドンで暮らしていたんだけど、ものすごく頻繁にLAに来ていたんだよ。知っての通り、ロンドンとニューヨークにぼくのルーツがあるわけなんだけど、最近のコラボ相手はみんなLA在住でね。ブルーノにジェフ・バスカー、ガガ、クイーンズ・オブ・ザ・ストーンエイジ……。だったらぼくもLAに引っ越したほうがいいんじゃないかと思ったんだ。ひと月に1~2回、長時間かけて旅するなんてクレイジーだからね。今ではこっちの生活にすっかり慣れたよ。

 

 

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──そしてアルバムの方向性を定めるにあたって、“クラブ・ハートブレイク”なるイベントが重要な役割を担ったそうですが、どんな経緯で始まったんですか?

 

ぼくは、デュア・リパが歌ったシルク・シティの「エレクトリシティ」で、ジ・エックス・エックスのロミーとコラボをしたんだ。ロミーとはのちに『レイト・ナイト・フィーリングス』でも共作したんだけど、そんな経緯があって、彼女と、ジ・エックス・エックスのマネージャーでぼくの親しい友人であるカイアス・ポーソンがスタジオに出入りしていて、ある日カイアスがこんなクレイジーな提案をしたんだよ。“夏の間、ギリシャやイタリアの島でも回って、小さなバーで夜な夜なパーティーを開いて、お前のお気に入りのサッド・バンガーをプレイするっていうのはどう?”とね(笑)。それはちょっとやり過ぎじゃないかと思ったんだけど、彼はさらに“スタジオのラウンジにスピーカーを持ち込んで、友達を招いて、今日にでもパーティーを始めたらいい”と言って引き下がらない。それでぼくらはそのアイデアを実行に移して、アルバムを作っている間、色んな形でずっと続けたんだよ。最初はぼくとロミーとDJを務めて、その後ディプロやケイトラナダとか、色んな人が来てDJをしてくれた。そんなわけで“クラブ・ハートブレイク”は、このアルバムと同時に進行して、互いに影響し合ったんだよ。

 

──元々“サッド・バンガー”と総称されるタイプの音楽は好きだったんですか?

 

そうだな……多分、実際にこのアルバムを作り始めるまで、そんなに意識していなかったと思うんだけど、昔から惹かれていたんだろうね。うっすらとメランコリックな部分があって、でも踊ることができて、場合によっては単に明るい曲よりも大きな高揚感を与えてくれるような曲に。例えばダフト・パンクの「ワン・モア・タイム」みたいな曲も、ほんの少しメランコリックだよね。マイナー・コードには何かスペシャルな作用があるんだよ。

 

──アルバムはまさにサッド・バンガー集になりましたが、エモーショナルな拠り所を持つ作品ということで、完成した時には一定のカタルシスを得られたんでしょうか?

 

うん、そう思うよ。自分の内側からエモーションが迸り出るような感覚を味わえて、本当に良かった。なんというか、濃厚なエモーションの泉が自分の中にあって、何かが違うんだよ。鍵盤に触れると、まるで指先からエネルギーが放出されているような感覚があってね。実際のところはどうなのか分からないけど(笑)、とにかく一番重要なのは、こういう風に精神的に強いインパクトを与える体験をしたなら、せめてそれをエネルギー源にして、グッド・ミュージックを作り出して、意味を持たせるってことさ。

 

 

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──じゃあ作詞の作業にも、従来より積極的に関わったんですか?

 

そうだね。これまでとは違って、今回の歌詞にはぼく自身がかなり深く関わっているし、それ以前に、アルバム全体のエモーショナルな立ち位置をしっかりと定めたんだ。そして、普段からパーソナルな歌詞を綴っている、キング・プリンセスやエンジェル・オルセンといったすばらしいアーティストたちとコラボしたことも、いい結果につながったよ。みんな、このアルバムの核にどんなエモーションがあるのか知り尽くした上で曲作りに取り組んでくれたから、ぼくがそれほど関わっていない曲にも、ものすごく思い入れがある。より強いコネクションを感じるんだ。

 

──これは個人的な印象なんですが、このアルバムは、眠れない一夜の物語を描いているようでもあって、曲を重ねると共に夜が深まり、終盤はダウンテンポになって、ラストの「スピニング」は夜が明けようとしているかのような印象を与えます。そういう意図はあったんでしょうか?

 

多分それは、DJとしての体験が自然にもたらした流れだと思う。それに、ぼくはDJでもあるだけに、どのアルバムもある程度、夜っぽいフィーリングに包まれていると思うんだ。でも興味深い意見だよ。というのも、君が言ったようなことをぼくは意図していなかったけど、「スピニング」をレコーディングしていた時、終わりのほうに聴こえるストリングスを、まさに朝日が昇ろうとしているみたいな感じにしたいと説明していたんだ。さすがにメランコリックで悲しい曲が多いアルバムだから、長いトンネルの先に光が見えているような幕引きにしたかったのさ。それに、この曲を作っていた頃にはひとりの女性と恋愛関係にあって、ぼく自身、実際にポジティヴな気持ちを抱いていた。悲しいことにそれもうまくいかなかったんだけどね。とにかく、そんなわけでエンディングには希望を匂わせているんだよ。

 

──そしてそのあとで鼓動が聴こえて、ジャケットのミラーボールと見事にリンクするんですが、あれはどうやって見つけたんですか?

 

実は、特別に作ってもらったんだよ。“クラブ・ハートブレイク”を始めた時に、コンセプトを象徴するヴィジュアルとして思い付いたのさ。ヒビが入ったハート型のミラーボールって、すごく分かりやすいよね。で、最初はイベントのフライヤーに添えたりしていたんだけど、ジャケットを撮影するために本物を用意したんだ。あまりにも大き過ぎてスタジオに置いておくこともできないから、今はどこかの倉庫に保管してあるんだけど、ツアーの時は一緒に旅するつもりだよ。

 

 

 

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──プロダクションに関しては、あなたのアルバムの中で、最も今のポップ・ミュージックに接近する作品になりましたね。すごくモダンで、メインストリームで鳴っている音に近くて。

 

ぼくもそう思っているよ。シルク・シティでディプロとコラボして、彼に影響された部分も大きいし、今回は若手のプロデューサーたちに大勢参加してもらったからね。中でも、才能豊かなフランス人の兄弟ピカール・ブラザーズは、音をモダンにする上で大きく貢献してくれた。ほかにもJハスとの仕事で知られるJae5や、ジ・エックス・エックスのジェイミーといった人たちだね。ぼくが思うに、年を取れば取るほどに、ぼくは古典的なソングライティングに惹かれる傾向にあるんだけど、同時にプロダクションについて学ぶところも多くて、曲が古風になると、最先端のプロダクションを施してバランスをとる必要があると悟ったんだ。じゃないと、1978年に作った曲みたいに聴こえかねないからね(笑)。ぼくは、今でもクラブやフェスティヴァルでDJをするのが大好きだし、そういう場所で自分の曲をかけた時に、今っぽく響かせたい。だから今回は間違いなく、今の時代に即した音になるよう最大限に努力したよ。

 

──その一方で、相変わらず生楽器をふんだんに使っていて、そこはあなたの作品に欠かせない要素ですよね。

 

うんうん。ぼくは、ストリングスや美しいギターのサウンドに耳を撫でられる感覚が大好きなんだ。ぼくにとって本当に大切なものなんだよ。

 

──そしてどの曲も、モダンなポップ・ミュージックとして成立していながら、どこかに耳に引っかかる奇妙な要素を含んでいますよね。例えば表題曲のアウトロの亡霊みたいな声然り、すごくシネマティックな趣を与えているように感じるんですが、意図的な演出なんでしょうか?

 

そういう試みは、恐らく、ヒップホップのトラックを作っていた時代に身に付けたものだと思うんだ。ほら、サンプリング・ネタにするために古いサントラなんかを集めて、70年代の誰も知らないイタリア映画のサントラから、バリー・ホワイトっぽいストリングスの音をピックアップしたり。それに、ケヴィン・パーカー(テーム・インパラ)から学んだことを活かしている部分もある。彼は、サイケデリック・ミュージックの要素をディスコやダンス・ミュージックの世界に持ち込む手腕に長けているよね。ぼくもあの感覚がすごく好きなんだよ。あと、子供時代にウータン・クランが大好きだったことの影響もありそうだね。ウータンのトラックには、何かしら感覚を逆撫でするような奇妙な要素が含まれていた。それがないと、きっと完璧過ぎて面白みに欠けるんじゃないかな。

 

──アルバム・タイトルになった“レイト・ナイト・フィーリングス”というフレーズは、表題曲でヴォーカリストを務めるリッキ・リーが思い付いたそうですね。

 

うん。リッキがスタジオにやって来た時、表題曲は確か50%くらいできていたんだけど、彼女に手伝ってもらいながらBメロとサビを書いている中で生まれたフレーズなんだよ。どこかドレイクっぽいというか(笑)、今時のエモい響きがあって、すっかり気に入ってしまった。アルバムのフィーリングをすごくうまい具合に総括しているように感じたんだ。それは、独りでベッドで寝ていて、眠りに落ちる20分前くらいのフィーリング。孤独感に苛まれていたり、心の痛みがうずいていたり、或いは欲望に駆られていたり、或いは、すでに半ば夢の世界に入り込んで朦朧としていたりする。リッキがこのフレーズを口にした瞬間に、“ああ、これはアルバム・タイトルになりそうだな”とピンと来たよ。

 

 

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──そのリッキを始め、今回あなたが選んだヴォーカリストとMCは全員女性です。なぜ女性に限定したんですか?

 

女性だけにしようと最初から決めていたわけじゃないんだ。このアルバムを作っている期間中に僕がコラボしていたアーティストが、たまたま女性ばかりでね。男性アーティストがスタジオに出入りしていた記憶がないんだよ(笑)。あと、ソングライターとしてイルシー・ジューバーが多くの曲に貢献してくれたこととも、関係しているんだろうね。イルシーは初期の段階から深く関わっていて、女性である彼女が綴った言葉は、やっぱり女性が歌うべきなんじゃないかと思ったんだ。そして、中には曲を作りながら“こんな感じの人がいいな”と見当を付けることもあるし、ヴォーカリスト選びはケース・バイ・ケースなんだよ。「ナッシング・ブレイクス・ライク・ア・ハート」のマイリー・サイラスの場合は、4年くらい前からコラボを切望していて、彼女に合いそうなアイデアを思い付いた時に、送って打診してみた。そうしたら気に入ってくれて、スタジオでそのアイデアをもとに一緒に曲を仕上げたんだ。「トゥルー・ブル―」のエンジェル・オルセンも然りで、ぼくは長年のファンだった。それで追い掛け回して、マネージャーをつかまえて説き伏せて、白紙の状態から彼女とあの曲を作り上げたんだよ。

 

──あなたはこれまでしばしば、「自分の本業はDJであって、ソロ作品を作ることはサイド・プロジェクトでしかない」と発言してきましたよね。このアルバムを作り上げた今、気持ちが変わったのでは?

 

そうだね。そう思う。もはやサイド・プロジェクトであるようには感じない。このアルバムは、ぼくが今までに作ってきた作品の中で、最も重要な作品だという手応えを抱いているよ。これまでとは感覚が違う。何しろここにはエモーショナルな意味で、ぼくという人間が本当に大きく反映されているからね。過去2年半の僕の人生が、そっくりこのアルバムに凝縮されているように感じるんだ。

 

インタヴュー/新谷洋子

 

■Disc info

 

 

マーク・ロンソン
『レイト・ナイト・フィーリングス』
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
Now on Sale
国内盤ボーナストラック3曲収録 / 歌詞・対訳・解説付

 

■Link

https://www.sonymusic.co.jp/artist/MarkRonson/

 

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