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今年最注目のUKガールズ・バンド、ゴート・ガールの東京公演最速レポート!
「The Man」は早くもアンセム化! 不協和音スレスレの爆音と、どこまでもクールな佇まいに痺れたゴート・ガールの東京公演をレポート!
ファット・ホワイト・ファミリーやシェイムを筆頭に盛り上がりを見せるサウス・ロンドン・シーンだが、その熱狂を誰よりも早く、ダイレクトに日本へ届けてくれたのはゴート・ガールだった。4月のデビュー・アルバム『ゴート・ガール』のリリースと同時に決まった今回のジャパン・ツアーは、“女性がいまロックをやること”の理由というか、覚悟というべきか、そのすべてが詰まっていたと言っても過言ではないだろう。
サッカー日本代表の決勝トーナメント進出をかけた試合を夜に控え、異常なテンションに包まれた6月28日の渋谷。東京公演でオープニング・アクトを務めたのは、スタークローラー(ゴート・ガールとはラフ・トレードのレーベルメイトでもある)の来日公演もサポートしたTAWINGS。メンバーのKanae(Per, Vo, G)が脱退して3ピースになってからは初めてライヴを見たが、SXSW出演を含むアメリカ・ツアーを経て、音のキレ味が一段と増していたように思う。曲によってはオーバーオール姿の男性サポート・メンバー(ポンドのニック・オールブルック似)が登場し、無表情でマラカスを振ったり、ギターのフレーズを添えたりする光景もなかなかシュールで新鮮。新たにフロントに立ったCony Plankton(Vo&G)は、「SXSWでもライヴを見たゴート・ガールの前座をやらせてもらえて光栄です」と、彼女たちとの再会に喜びをにじませていた。
転換を終え、真っ暗なフロアにSEとして「Salty Sounds」が流れ出す。ぞろぞろとステージにゴート・ガールの4人が現れ、ヴォーカル&ギターのロティー・“クロッティ・クリーム”が開口一番に「コンニチハ」と告げると、そのまま「Burn The Stake」の演奏へ。そう、序盤はアルバムのオープニングをライヴでも再現するようなセットリストであり、続く「Creep」は打ち込みのヴァイオリンを取り入れた哀愁のメロディがダーティ・スリーを連想させたし、「Viper Fish」ではロージー・“ボーンズ”が叩き出すドラムの絶妙なタイム感に痺れた。ボーイッシュな短髪が似合うロージーだが、光沢のあるボクシングパンツに白Tシャツというラフ過ぎるファッションと、演奏中だろうがお構いなしに缶ビールをグビグビと飲み干す男前っぷり(ビールを優先するあまり、シンバルを素手で叩く姿もキュート)に、終演後のSNSでは彼女のファンになったという声が多数。間違いなくバンドのムードメーカーだ。
「『アリガトウ』と間違えちゃった(笑)」と「コンニチハ」を二連発していたロティーだが、親が心配するほどの猫背でギターをかき鳴らす姿は堂々たるものだし、想像以上にステージをアグレッシヴに動き回る。ブレグジット以降の若者を代弁……というつもりはさらさらないと思うが、感情を剥き出しにしないニヒルなヴォーカルも彼女の真骨頂。ジェットコースターのように急加速→減速を繰り返すアンサンブルといい、深海へと引きずり込まれそうなほどサイケなグルーヴ感といい、バンドの演奏がどう転がっても軸がブレないその表現力は、本人もリスペクトを寄せるトリッシュ・キーナン(ブロードキャスト)やレティシア・サディエール(ステレオラブ)といった、UK出自の歌姫たちの系譜を継ぐ部分もあるのだろう。
ネイマ・“ジェリー”の奏でるベースラインがザ・コーラルの「Dreaming Of You」にソックリ(ロティーは偶然だと否定していたが……)な「Cracker Drool」、スロウで重心の低いブルース「Slowly Reclines」や「Throw Me A Bone」といったナンバーを経て、この日もっともオーディエンスを沸かせたのは、やはりジャングリーなギターとユニゾン・コーラスで突進する「The Man」だった。「女性の持つパワーについて書いた歌よ」というロティーからの紹介があったが、フロア前方ではモッシュが巻き起こるほど「#MeToo」以降を象徴するアンセムと化しており、「ビートルマニア」を男女逆転させてパロディ化したMVさながらの光景が目の前に広がっていた。その後は再びスロウな「I Don’ t Care」のパート1と2が立て続けに披露され、“I don’t care”と繰り返すフレーズが形骸化することなく別の意味を持って訴えかけてくる構成が見事。この2曲で歌われている気持ちについて、以前筆者が行ったインタビューでロティーはこんな風に語っていたのを思い出す。
「優柔不断のフィーリングね(笑)。『私そんなの気にしない』とか、『どっちでもいい』とか言うけど、本当はめちゃくちゃ気にしてたり、考えてたりすることってあるでしょ? 人間だったら、やっぱりどこかで気にしちゃうと思うの。それを曲にしたってわけ」(ロティー)。
ライヴ後半では「Scum」をはじめとするアルバム未収録のシングル曲を畳みかけ、ゴート・ガールを初期から追っていたファンにとってはご褒美のような時間が続く。とろけるようなコーラスワークと電子音で宇宙の彼方に飛ばされてしまいそうな「Scream」や、“マザー、マザー/ファザー、ファザー”と韻を踏みながらスモーキーでけだるいサイケ(もう彼女たちのために「けだるサイケ」というジャンルを作るべきだ)へと展開する「Mighty Despair」も絶品だったが、大地を踏みしめるようなドラムのビートを合図に、ダークで不穏なポストパンク・サウンドへと雪崩れ込む「Crow Cries」の重低音と一体感はハンパじゃなかった。アルバム『ゴート・ガール』はインタールードを挟んだ全19曲で、4枚のEPをコンパイルしたようにやや煩雑な印象もあったのだが、こうしてシングル曲とシームレスに繋げてみたり、ライヴの雰囲気に応じて自由に曲順を入れ替えてもキッチリと成立&魅せられることを踏まえると、「アルバム」よりも「プレイリスト」が偏重される現在のストリーミング時代にぴったりのレコードだったんだなーと改めて思う。
「あと2曲やるね」とロティーが告げると、ポール・ウィリアムズの楽曲をカヴァー&再構築した「Tomorrow」(オリジナルは1976年のイギリス映画『ダウンタウン物語』の挿入歌)をクールに歌い上げ、ラストはラフ・トレードからのデビュー・シングルにもなった「Country Sleaze」を披露。コートニー・ラヴをも引き合いに出されたゴート・ガール流のオルタナティヴ・ロック/グランジ・ソングともいえる同曲だが、不協和音スレスレの爆音をぶち撒けて颯爽とステージを後にする彼女たちの貫禄たるや!
アンコールなしで1時間弱のパフォーマンスではあったが、数年後にはゴート・ガールの背中を追ってギターを手に取るような少年少女がたくさん出てくるはず。この初来日公演には、そう断言してしまいたくなるほどのパワーと興奮と可能性があったのだ。先述のスタークローラーはもちろん、場内BGMでずっと流れていたスネイル・メイルもそうだが、ロックンロールの未来は女性ミュージシャンに託されているのかもしれない。
Text by Kohei UENO
Photo by Yosuke Torii
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https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9376
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