言葉を失うほどの美しさ:ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)のカルティエ展

CARTIER

ロンドン在住のフリーランスライター、近藤麻美さんによるロンドンを中心に英国にまつわるカルチャー全般を現地から発信する連載「近藤麻美のカルチュラル・ウォーク in London」がスタート! 第1回はヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)のカルティエ展を紹介します。



 

建物の外観(「Cartier」のサイン)

堂々たる「Cartier」のサイン。V&Aで別部門をキュレートする友人曰く、世紀のプロジェクトなのだそうだ。

現在、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)で開催中の特別展『Cartier(カルティエ)』へ足を運んだ。350点を超える作品が展示されるこのエキシビションは、19世紀パリの工房から、ラグジュアリーと影響力の象徴として世界に知られるようになったカルティエの軌跡を辿る。

 

The Manchester Tiara(マンチェスター・ティアラ)

The Manchester Tiara(マンチェスター・ティアラ)。1903年、マンチェスター侯爵夫人未亡人によって注文された。デザインは、18世紀フランスの建築様式と鉄細工から着想を得たもので、1,513個ものダイヤモンドが収められている。

カルティエは、1847年にルイ・フランソワ・カルティエによって創業された。息子のアルフレッドを経て、20世紀初頭には、彼の3人の孫、ルイ、ピエール、そしてジャック・カルティエにより、パリの小さな家族経営の店から世界的に有名な店へと成長した。

アルフレッド・カルティエと3人の息子(左からピエール、ルイ、ジャック)

アルフレッド・カルティエと3人の息子(左からピエール、ルイ、ジャック)

まずは、メゾンのグローバルなヴィジョンが垣間見えるギャラリー「インスピレーションの世界」。カルティエが世界中の文化からインスピレーションを得て、独自の美意識を形作ってきた過程を垣間見ることができる。

 

豊かなエナメル装飾の時計から、かつて上流階級の化粧台を飾っていた華麗なヴァニティケースまで、精巧な作品が柔らかな光の下で輝きを放つ。インスピレーションの元は、イラン、中国、インド、エジプト、ロシアなども。

豊かなエナメル装飾の時計から、かつて上流階級の化粧台を飾っていた華麗なヴァニティケースまで、精巧な作品が柔らかな光の下で輝きを放つ。インスピレーションの元は、イラン、中国、インド、エジプト、ロシアなども。

 

「日本」からのインスピレーションを元に作られた作品。

「日本」からのインスピレーションを元に作られた作品。

続いて、カルティエの最も高貴な作品、世界中の女王、王女、貴族を飾ったティアラをきらびやかに展示する部屋へ。足を踏み入れた途端、まるで個人の宝物庫を訪れたよう。「息を呑むほどの美しさ」とはまさにこのこと。繊細なプラチナのフレーム、完璧な配列のダイヤモンド、そして古典的な渦巻き模様から自然主義的な花模様まで、幅広いモチーフが織りなす職人技は驚異的だ。そのバラエティに富むデザインは、これらのジュエリーが単なる装飾ではないことを物語っている。

 

マーガレット王女がかつて身につけていたバラの形のブローチ。

マーガレット王女がかつて身につけていたバラの形のブローチ。

 

パティアラ・ネックレス

圧巻は1928年にパティアラのマハラジャの依頼で制作されたパティアラ・ネックレス。2,930個のダイヤモンドと2個のルビーが5列に連なり、中央には当初234.65カラットのデビアス社製イエローダイヤモンドがあしらわれている。このネックレスはインド独立後に姿を消し、数十年後にロンドンで再発見されたという。

 

Indian tiara(インディアン・ティアラ)

Indian tiara(インディアン・ティアラ)。グラナード卿夫人べアトリス・フォーブスの依頼によって1923年に製作されたが、1937年にカルティエ・ロンドンへ返却。 その後、ヴィクトリア女王の孫娘であるマリー・ルイーズ王女がこのティアラを購入し、元々あしらわれていた洋ナシ型のアクアマリンとサファイアを、大粒のダイヤモンドに変更した。 彼女はこのティアラを、1937年のジョージ6世戴冠式および1953年のエリザベス2世戴冠式で着用した。

さらに進むと、その職人技を映し出す映像が流れる。1924年に初めて発表されたカルティエのシグネチャーであるパンテール・モチーフの製作過程だ。その彫刻的なディテールと躍動感は、カルティエを象徴するシンボルのひとつとなった。

 

パンテール・モチーフは、エレガンス、力強さ、そして時代を超越したスタイルの象徴として、ハイジュエリーの世界で長く愛されている。

パンテール・モチーフは、エレガンス、力強さ、そして時代を超越したスタイルの象徴として、ハイジュエリーの世界で長く愛されている。

 

Allnatt diamond brooch(オールナット・ダイヤモンド・ブローチ)

Allnatt diamond brooch(オールナット・ダイヤモンド・ブローチ)。イエロー。ダイヤモンドは、現在101.29カラット。元々は102.07カラットのインテンス・イエローで、1990年代に研磨され、色味がビビッドに改善されたもの。 このダイヤモンドは、イギリスの実業家アルフレッド・アーネスト・オールナット少佐の名にちなんで名付けられ、1953年にカルティエへ持ち込まれ、ブローチとして装着された。

 

マリア・フェリックスのスネーク・ネックレス

メキシコ人、フィルム・スター、マリア・フェリックスのスネーク・ネックレス(1968年)。2,473個のダイヤモンドと、メキシコ国旗カラーのエナメル製の鱗模様。カルティエの美的創造性と顧客の個性的なスタイルを融合させる才能が、このネックレスに凝縮されている。

もちろん、カルティエは、エレガントなミステリークロックから象徴的なタンクウォッチまで、伝説的なタイムピースも秀逸。ここでは、カルティエの、比類なき時計製造の歴史を辿る。

 

時の流れを神々しく優雅な体験にしてくれるハイジュエリー・ウォッチ。

時の流れを神々しく優雅な体験にしてくれるハイジュエリー・ウォッチ。

後半は、カルティエが映画史にその名を刻むこととなる、セレブリティやハリウッド・スターとの関係を展示。

 

ブレスレット

グロリア・スワンソンは、1932年、ペアのブレスレットを購入。当時の多くの俳優と同様、スワンソンは映画の中でも自分の私物のジュエリーを頻繁に着用していた。このブレスレットは映画『Perfect Understanding(完全なる理解)』(1933年)や、彼女の代表作である『Sunset Boulevard(サンセット大通り)』(1950年)でも重要なアクセサリーとして登場している。

 

クリップ式ブローチ

グレース・ケリーは、1955年にモナコ公レーニエ3世との婚約を発表。翌年の4月、彼女は最後の映画となる『上流社会(High Society)』(1956年)に出演し、カルティエの婚約指輪を実際に映画の中でも着用。10.48カラットの婚約指輪は映画史における象徴的な存在となった。クリップ式ブローチは、モナコ国旗と同じ赤と白の配色でデザインされており、特別な金具を使えばティアラとしても着用可能という。

 

1902年制作のガーランドをあしらったスクロール・ティアラと、ガラス窓越しに幽玄に浮かぶ1906年制作のチョーカーネックレス。

1902年制作のガーランドをあしらったスクロール・ティアラと、ガラス窓越しに幽玄に浮かぶ1906年制作のチョーカーネックレス。1902年にエセックス伯爵夫人のために制作されたこのティアラは、女王の戴冠式で首相夫人チャーチル夫人が着用した。

エキシビションの最後を飾るのは、「ティアラ・ルーム」。カルティエの魅惑的なティアラには、かつてそれらを身につけた人々の名前と称号を記したディスクリプションが添えられている。豪華絢爛でまさに宮廷内を訪れたよう。過去100年間で最も優美な君主と社交界の達人たちが身につけた豪華なティアラは、このエキシビションのカーテンコールとして、訪れた者の記憶に深く刻まれ、華やかな余韻を残す。

 

18個のティアラが展示される。

18個のティアラが展示される。

 

展示会出口には専属のギフトショップ

展示会出口には専属のギフトショップもある。オリジナルのトートバッグは2種類。エキシビション・カタログは崇高な趣。ポストカードやキーリングも。

 

この類まれなコレクションが一堂に会する様は、まさに圧巻といえる。王室御用達のジュエリーからレッドカーペットを彩るアイコンまで、カルティエは単なるジュエラー以上の存在だった。それはステータス、芸術性、そして先進的なデザインの象徴となり、自らトレンドを生み出していた。このエキシビションは、歴史上最も影響力のあるデザインハウスのひとつへのオマージュなのである。

CARTIER

会場
V&A South Kensington(Cromwell Road London, SW7 2RL)
会期
4月12日(土)~11月16日(日)00:00~00:00
料金
平日£27、週末£29
予約
https://www.vam.ac.uk/exhibitions/cartier

ヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)へのアクセス

ヴィクトリア&アルバート博物館は、地下鉄ピカデリー線、サークル線、ディストリクト線の3路線が乗り入れしているサウスケンジントン駅から徒歩5分で位置にあります。

地下鉄でのアクセス

 

項目 詳細
最寄り駅 サウスケンジントン駅(South Kensington)
利用路線 ピカデリー線、サークル線、ディストリクト線
所要時間 駅から徒歩約5分
地下通路 駅から博物館まで地下道で直結
料金 £2-3(ゾーン1内)

車椅子利用者向け情報:サウスケンジントン駅は車椅子アクセス不可。最寄りのアクセス可能駅はナイツブリッジ駅(0.6マイル)またはロンドンヴィクトリア駅(1.3マイル)

バスでのアクセス

 

入り口 バス路線 バス停名
クロムウェル・ロード入り口 C1、14、74、414 Victoria & Albert Museum (Stand R)・(Stop M)
エキシビション・ロード入り口 N9他 South Kensington Museums (Stop L)

入り口について

 

入り口名 場所 特徴
クロムウェル・ロード入り口 メインエントランス 車椅子アクセス可能、自動ドア完備
エキシビション・ロード入り口 サブエントランス 車椅子アクセス可能、階段とスロープ両方設置
トンネル入り口(地下入り口) 地下鉄駅直結 階段のみ(車椅子アクセス不可)

開館時間・入場料

 

項目 詳細
開館時間 毎日 10:00~17:45
金曜日 10:00~22:00
入場料 基本展示:無料(寄付制)
企画展:有料
定休日 12月24日、25日、26日
注意事項 閉館30分前からギャラリー清掃開始
金曜日は一部ギャラリーが17:45で閉館

■近藤麻美
99年に渡英。英国のニュース、海外ドラマ、イギリス生活、食、教育、音楽、映画、演劇、歴史、ファッション、アートなど、英国にまつわる文化の多岐に渡る記事を執筆している。
linktr.ee/mamikondohartley
ご連絡は、mamikondohartley@gmail.comまで。
X:https://x.com/mami_hartley
Instagram:https://www.instagram.com/mamimoonismine
note:https://note.com/mamikondo_london

 

Link

https://www.vam.ac.uk/

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