バイユーのタペストリーがほぼ1000年ぶりに英国へ帰還|2026年9月から大英博物館で10か月展示

Bayeux Tapestry © Bayeux Museum

1066年ノルマン征服を描いた全長70メートルの名品「バイユーのタペストリー」が、2026年9月から2027年7月まで大英博物館で展示されます。1070年代にイングランドで制作されたこの刺繍作品が英国に戻るのはほぼ1000年ぶりで、ウィリアム征服王生誕1000年を記念する歴史的展覧会として、世界中から注目を集めています。




2026年9月開幕、10カ月間の展示が決定

Bayeux Tapestry © Bayeux Museum (3)

©Bayeux Museum

バイユーのタペストリーは、ノルマンディー公ウィリアム(後のウィリアム征服王)による1066年のイングランド征服とヘイスティングズの戦いを描いた11世紀の刺繍作品です。2025年7月8日(火)に英国のキア・スターマー首相とフランスのエマニュエル・マクロン大統領が歴史的貸出合意を発表し、2026年9月から2027年7月まで大英博物館での展示が正式に決定しました。1070年代にイングランドで制作されたと広く考えられているこの作品が、完成から約950年を経て、ほぼ1000年ぶりに英国の地で公開されます。

展示期間は、現在タペストリーを所蔵するバイユー・タペストリー美術館の改修工事期間と重なります。同館は2025年9月1日(月)から2年間休館予定で、この機会を活用した英仏間の文化交流が実現しました。2027年はウィリアム征服王生誕1000年にあたり、両国にとって歴史的意義の高い記念展示となります。



全長70メートルに626人の人物を描く壮大な刺繍画

Bayeux Tapestry © Bayeux Museum (4)

©Bayeux Museum

バイユーのタペストリーは、名称に「タペストリー」とあるものの、実際には麻布に羊毛糸で刺繍を施した作品です。全長約70メートル、幅約0.5メートルの布地に、58の場面、626人の人物、202頭の馬が精緻に描かれています。中世ノルマンディーとイングランドの軍事建築、武具、ヴァイキング式の航海術、日常生活の貴重な情報を伝える歴史資料として、2007年にユネスコ世界記録遺産に認定されました。

作品はロマネスク様式の傑作として珍重され、小さな図像が組み合わさって壮大な物語を紡いでいます。装飾的な枠には動物やイソップ物語、ファエドルスの寓話が描かれ、単なる歴史記録を超えた芸術的価値を持ちます。この作品は後世の歴史画に多大な影響を与え、現代ではブリッタ・マラカット=ラッバらのアーティストが同様の形式でサーミ人の歴史を描くなど、今なお創作の源泉となっています。



10年越しの交渉と保存状態への懸念

Bayeux Tapestry © Bayeux Museum (2)

©Bayeux Museum

今回の貸出実現までには約10年の歳月を要しました。マクロン大統領は2018年にブレグジット後の英仏関係継続の象徴として貸出計画を発表し、当初は2022年の展示を予定していました。しかし2021年の調査で、タペストリーが移送に耐えられないほど脆弱である可能性が報告され、計画は一時中断しました。

作品の脆弱性について、フランスの専門家は「1000年近い年代、過去数世紀の移動、第二次世界大戦後から現在まで絶えず照明を浴びてきたこと、布製支持体に縫い付けてローラー式レールに吊るす展示方法によって全体に強いテンションがかかっている」と指摘しています。2022年にヴィクトリア&アルバート博物館が実施した調査で展示可能性が浮上しましたが、その後続報は途絶えていました。こうした紆余曲折を経て、2025年7月に正式合意に至りました。

一方、デイヴィッド・ホックニーは移送計画を「狂気」と批判し、「その価値は計り知れず、万が一何かが起これば、どんな金銭的補償や代替物であろうと取り返しがつかない」と懸念を表明しています。しかし、大英博物館は「タペストリーに匹敵する最適な保存状態で収蔵するために必要な専門知識を有している」と主張し、バイユー・タペストリー美術館のリニューアル後にも使用される専用展示台を準備する予定です。



英国4地域の至宝がノルマンディーへ

Gold belt-buckle © The Trustees of the British Museum

Gold belt-buckle ©The Trustees of the British Museum

貸出合意の交換条件として、大英博物館からはサットン・フーの財宝とルイス島のチェス駒がフランス・ノルマンディー地方の文化機関に貸し出されます。サットン・フーは1939年にサフォーク州で発見された7世紀初頭のアングロ・サクソン王族の船葬墓で、全長27メートルの船の痕跡と豪華な副葬品が出土しました。装飾的な鉄製兜、ビザンティン銀器、金装飾品、宴会用食器セットなど、当時の優れた工芸技術と広範な国際交流を示す遺物が含まれています。

Lewis chess set © The Trustees of the British Museum

Lewis chess set ©The Trustees of the British Museum

ルイス島のチェス駒は12世紀にセイウチの牙から彫刻された世界的に有名な作品群で、1831年にスコットランド・アウター・ヘブリディーズ諸島のルイス島で発見されました。ノルウェーからアイルランドへ向かう商人が所有していたと考えられ、中世の英国諸島とスカンディナヴィアの強固な文化的・政治的つながりを物語っています。王と女王、司教、騎士、歩兵、ポーンを模した駒は精巧な彫刻が施され、ヨーロッパでのチェスの普及を示す貴重な証拠です。



一世代に一度の歴史的展覧会への期待

Bayeux Tapestry Museum - exhibition gallery ©Bayeux Museum

©Bayeux Museum

大英博物館理事会議長のジョージ・オズボーン氏は「一世代に一度、他のすべてを凌駕する展覧会が登場する。過去にはツタンカーメンや兵馬俑があった。バイユーのタペストリーは私たちの世代の大型展示となるだろう」と述べています。1070年代に英国で制作されながら約950年間一度も英国に戻らなかった本作品を、多くの来館者、特に子どもたちが実際に目にする機会が訪れます。

大英博物館館長のニコラス・カリナンは「タペストリーの展示は、私たちが積極的に取り組みたいと考えている国際的パートナーシップの典型例です。私たちが所有する最高の作品を可能な限り共有することで、これまでロンドンで鑑賞することのできなかった世界の至宝を大英博物館を訪れる人々に披露できるのです」と声明を発表しました。

英国のリサ・ナンディ文化大臣は「バイユーのタペストリーは英国で制作された最も偉大な作品のひとつです。ここでそれを歓迎できることを嬉しく思います。この貸出は、何世紀にもわたって築かれ、今も続いている友人であるフランスとの共有の歴史を象徴しています」とコメントしています。マクロン大統領もソーシャルメディアに「イギリスは我が国の戦略的パートナーであり、同盟国であると同時に友でもある。私たちの絆は歴史によって築かれ、長きにわたる信頼によって強化されてきた」と投稿し、英仏関係の良好さを強調しました。

大英博物館は2008年に国際会議を開催し、2013年以来バイユー博物館の学術委員会メンバーとして専門知識を提供してきた長年の関係があります。タペストリーは展示終了後の2027年7月、バイユー・タペストリー美術館の再開に合わせてフランスに返還される予定です。なお、2026年初めにはドイツの考古学者の遺産から本作品の断片が発見され、フランスに移送される予定となっており、タペストリーをめぐる関心は国際的に高まり続けています。

 

Link

https://www.britishmuseum.org/

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