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ファッション界の異端児、ジャンポール・ゴルチエの半生を描くステージ・スペクタクル『ファッションフリークショー』待望の再上演!
2023年の東京公演が大きな反響を呼び、このたび再上演が決定したジャンポール・ゴルチエの激動の半生を描いたエンタテインメント『ファッションフリークショー』。2025年9月12日(金)から28日(日)まで渋谷の東急シアターオーブで上演されるこのショーは、ロンドンのRGMプロダクションズが制作しています。クルーは全員英国人、キャストの約半数も英国人で、英仏のクリエイティビティが結晶し、唯一無二の自叙伝エンタテインメントへと昇華しました。その魅力と見どころをロンドン在住のフリーランスライター、近藤麻美さんが紹介してくれました。
フランス・モード界の「enfant terrible(恐るべき子供)」として知られるジャンポール・ゴルチエが幼少期からトップデザイナーとして躍進していく激動の半生と創造の軌跡を、音楽・ダンス・ファッションを融合させ、舞台芸術として描いたミュージカルが東京に再上陸する。
そんな彼の創造力と反骨精神が余すことなく注ぎ込まれたのが、『ファッションフリークショー』である。2018年の初演以来、世界各地で喝采を浴びてきたこの作品は、一般的な洗練されたミュージカルとはまったく異なる、“常識を覆す”ステージ体験だ。作・演出・衣装のすべてをジャンポール・ゴルチエ本人が手がけ、その唯一無二の美意識とユーモア、そして人生の軌跡が舞台上で炸裂する。

伝記的なストーリーを牽引するのは、言うまでもなく衣装そのものだ。遊び心あふれる創造性、緻密で卓越したテーラリング、そしてストリートとオートクチュールを大胆に融合させたスタイル──それこそがジャンポール・ゴルチエの真骨頂である。彼はキャリアを通じて、ファッションや美の定義、さらにはジェンダーの固定観念に果敢に挑み続けてきた。なかでも1984年に発表した象徴的な円錐型ブラは、彼の美学を体現する代表作のひとつ。このデザインは後にブランドの定番スタイルとなり、1990年、マドンナがワールドツアー「Blond Ambition Tour」で着用したことで、一気に世界的アイコンへと昇華した。
また、ジョセフィン・ベイカーへのオマージュとして、鮮やかなイエローの羽根飾りのチュチュを身にまとったパフォーマーたちが軽やかで息の合ったダンスを披露する場面も、視覚的な華やかさと歴史的リスペクトが共鳴する見どころのひとつだ。しかし、このショーの白眉といえば、やはりキャットウォークのシーンだろう。煌びやかな衣装に加え、バックステージとランウェイが同時に映し出され、モデルたちが次々と衣装をチェンジしながらランウェイを颯爽と歩く様子がリアルタイムで展開される。その臨場感と高揚感は、まさに“ファッションが生まれる瞬間”を目撃しているかのような興奮を観客に与えてくれる。

Photo: Mark Senoir
これらの衣装にさらなる躍動感を与えているのが、ダンサーたちのしなやかでパワフルなパフォーマンスだ。多様な身体性と個性を持つ彼らは、ゴルチエのヴィジョンを全身で体現し、ステージにリアルな生命力を注ぎ込む。バーレスクやストリートダンス、モダンバレエ、ヴォーギングなど、ジャンルを越えたダンススタイルが融合し、衣装と肉体が完全に溶け合った圧巻の“動くアート”を生み出していく。性別、年齢、人種といったあらゆる境界を超えて集まったキャストの存在そのものが、「誰もが自由に、自分らしく輝いていい」というゴルチエの一貫したメッセージの体現だ。衣装が物語を語り、身体がそれを叫ぶ──その有機的な融合こそが、『ファッションフリークショー』を唯一無二の舞台へと昇華させている決定的な魅力である。

そして、決して忘れてはならないのが、音楽の存在だ。サウンドトラックの監修を手がけたのは、ディスコ界のレジェンド、ナイル・ロジャース。彼の手腕によって選び抜かれた楽曲の数々は、「Le Freak」や「Good Times」といった自身の代表曲にとどまらず、マドンナ、カーティス・メイフィールド、ユーリズミックス、さらにはセックス・ピストルズ(!)まで、多彩なジャンルと時代をまたぐ名曲が惜しげもなく投入されている。これらの選曲は決して単なるBGMではない。シーンや衣装と緻密に呼応しながら、ゴルチエの人生の浮き沈みや創作のエネルギーを鮮やかに映し出す、“もうひとつの語り手”として機能しているのだ。音楽、身体、ファッション──その三位一体の融合によって、ステージ上には時代の空気と個人の物語が立ち上がり、観客を圧倒的な感覚体験へと誘っていく。

物語の中には、ゴルチエのキャリアに影響を与えた数々の人物が登場する。その中には、彼を嘲笑した者たち──アナ・ウィンターやカール・ラガーフェルド──も含まれ、彼らへの風刺的なパロディは、ゴルチエならではの鋭いユーモアと愛のある毒舌に満ちている。この演出は、ファッション業界に根強く残る権威主義や排他性を巧みにあぶり出し、観客に痛快な笑いとともに問いを投げかける。一方で、舞台のトーンが大きく変わるのが、「アンダー・マイ・スキン」のメランコリックなカヴァーが流れるシーンだ。1990年にエイズの合併症で亡くなった恋人、フランシス・メヌージュへの深い哀悼が込められたこの場面は、ショーの中でも最も静かで、感情の深くに触れる瞬間となっている。華やかでエネルギーに満ちた自伝的演出の中にそっと差し込まれるこのシーンは、ゴルチエのパーソナルな痛みと喪失、そして愛の記憶を浮かび上がらせ、観る者の心に深く響く。煌びやかな衣装と光の影に隠れていた“ひとりの人間”としてのゴルチエの姿が、ここでは静かに、しかし力強く立ち現れるのである。

『ファッションフリークショー』は、単なるファッション愛好者のためのショーではない。そこにあるのは、自己表現の自由、ジェンダーの多様性、そして“異端”であることへの誇りといった、社会的かつ普遍的なテーマ。衣装や演出の華やかさの奥には、ジャンポール・ゴルチエが長年問い続けてきた「美とは何か」、「自分らしく生きるとはどういうことか」という鋭いメッセージが込められている。このショーは、ゴルチエの名を冠した“動くマニフェスト”。固定観念やルールに縛られず、自分自身を肯定するすべての人へ捧げられた祝祭である。ラグジュアリーとサブカルチャー、パリのクチュールとナイトクラブのスピリットが共鳴するその唯一無二の世界を、ぜひあなた自身の目で体感してほしい。
文/近藤麻美

Photo: Petre Lindbergh
ジャンポール・ゴルチエ『ファッションフリークショー』

- 作・演出・衣装
- ジャン=ポール・ゴルチエ
- 共同演出
- トニー・マーシャル
- 出演
- Aliashka/Audjyan/Jonathan Luke Baker/Laura Braid/Max Cookward/Leon Di Domenico/Dylan Finlande/Louis George Glendza/Mizai Kobi/Demi Mondaine/Kali Mouza/Pablo Pauldo/Thea Carla Schøtt/Nio Serrapiglio/Callum Sterling/Charlotte Sumian-Hubener/Cooper Terry/Léa Vlamos/Verity Wright
- 会場
- 東急シアターオーブ(渋谷)
- 公演日程
- 2025年9月12日(金)~ 9月28日(日)
- 開場時間
- ホワイエ開場:開演60分前/客席開場:開演45分前
- 上演時間
- 約2時間(第1幕45分・休憩20分・第2幕55分)英語上演・日本語字幕付き
- チケット料金
- VIP席:30,000円(特典付)、S席:15,000円、A席:10,000円 ※未就学児入場不可
- チケット予約
- https://fashionfreakshow.jp/schedule.html
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