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“家族”と”家”を探す旅─『パディントン 消えた黄金郷の秘密』監督が語る普遍的テーマと撮影の裏側
2025年5月9日(金)に全国公開される『パディントン 消えた黄金郷の秘密』は、全世界シリーズ累計900億円を超える大ヒットシリーズの最新作。本国イギリスではオープニング成績964万ポンド(約19億円)を記録し、批評家からも高い評価を得ています。今回初めて長編映画を手がけたドゥーガル・ウィルソン監督に、愛すべきクマの新たな冒険と、アントニオ・バンデラスやオリヴィア・コールマンら豪華キャスト陣との撮影秘話を聞きました。
長編映画デビュー作としての『パディントン』
──この映画を監督する前から『パディントン』シリーズは好きでしたか?
前の2作品も大好きです。すばらしい作品だと思いました。子供の頃から本も読んでいたし、アニメシリーズも好きでした。マイケル・ホーダーンが声優を務めていましたね。魅力的な作品で私にとっては懐かしく、パディントンの世界に自分が舞い戻ったように感じました。
──監督はこれまで多くのミュージックビデオや短編作品を手がけてきて、今回が長編映画のデビュー作となりますが、どのようにこの作品に関わることになったのか、またオファーを受けたときの気持ちを教えてください。
ミュージック・ビデオやCMを手がけている間も、いつか長編映画を作りたいとずっと思っていました。いくつかアイデアも温めていましたが、今回この機会が舞い込んできて、とても光栄であると同時に、3作目という重責に圧倒される思いもありました。前2作が観客に非常に愛されていることも知っていたので、自分がそのクオリティに近づけるのか、少し僭越で傲慢ではないかとも感じていたからです。でも、もし断ったら絶対後悔するだろうとも思い、かなり悩みましたが、すでに脚本家やプロデューサーと話し合いを始めていたので、気付けば関わることが決まっていました。結果的に、前2作の流れをできるだけ良い形で受け継ぐために全力で取り組みました。
──つまり、よくあるような正式な会議や食事の席でのオファーというより、自然な流れで製作に関わることになったということでしょうか。
そうですね、他にも候補者がいたかもしれませんが、詳細は分かりません。最初の段階では脚本やストーリーについて多く議論しました。最初にもらった脚本と最終的な脚本はかなり違っていて、ストーリー作りが一番のチャレンジでしたね。それが『パディントン』シリーズ最大の挑戦だと思います。前2作はとても自然に見えますが、それは膨大な努力と脚本の練り直しの賜物です。今回も同じようなプロセスを経て完成しました。
前作の魅力を継承しながらの新たな挑戦
──パディントンというキャラクターや物語について人々と話す中で感じたことを、監督としてどのように作品に反映させ、またご自身の解釈をどのように盛り込んだのでしょうか?
前2作の監督であるポール(・キング)が築いたスタイルやキャスティング、ヴィジュアルは完璧だと思っていたので、自分の色を強く出しすぎないようにしました。前作に関わった撮影監督のエリック・ウィルソン、アニメーション監督のパブロ・グリロ、プロデューサーのロージー・アリソンらと一緒に仕事ができたのはとても価値のある経験でした。ただ、私自身の好みやちょっとした遊び心はどうしても作品に表れてしまいます。でも、それも前2作のスタイルと通じていると自分では思っていますが、観客のみなさんの反応が楽しみですね。はストーリーと演出がしっかり結びついている映画作りが好きなので、この映画の製作は自分に合っていたと感じています。
パディントンの魅力と物語の舞台
──パディントンはその優しさ、屈しない強さ、前向きな性格で観る人に喜びを与えてくれますが、そのキャラクターは作品にどのような影響をもたらしているのでしょうか。
パディントンが体現している、優しさ、寛大さ、礼儀正しさといった性格は、撮影のセットにも非常によく表れていると思います。騒々しさのない、思いやりがあるセットで、とても居心地がいいんです。多くの人に愛された偉大なシリーズ作品の続編を作っているのだと、スタッフ全員がきちんと認識していました。そのことをよく理解していたのです。そして、とても気を配っているのがわかりました。
──あなたが参加した時点で、物語の舞台が主にペルーになることは決まっていたのですか?
はい、すでに決まっていました。三部作として円環的な構成にしたいという思いがあり、1作目でペルーからロンドンへ来て新しい家族を見つけ、2作目ではその家族を失いそうになり、コミュニティの助けで再び家族を取り戻します。3作目ではペルーに戻り、これまで語られなかったパディントンのルーツに迫る物語にしたいという考えがありました。
ペルーを舞台にした撮影の挑戦
──ペルーを舞台にした冒険を描くうえで一番のチャレンジは?
ペルーに行くという決断は私が関わる前に決まっていましたが、パディントンがペルーに戻るのは必然だったと思います。ロンドンは前2作で非常に重要な舞台であり、まるでキャラクターのひとりのような存在でした。そこから離れるのは少し不安がありましたが、実際にペルーに行ってロケ地を見て回り、山、渓谷、砂漠、熱帯雨林、海岸線、豊かな文化や建築に触れ、冒険の舞台として素晴らしい場所だと感じました。ただ、ロンドンとは異なる環境なので、パディントンらしい物語をどう馴染ませるかが大きな課題でした。
映画製作の苦労と喜び
──この映画を作る上で最も大変だった部分と、最も楽しかった瞬間を教えてください。
撮影にはたくさんの技術的な課題がありました。例えば、ボートの上でのアクションシーンでは、実際の川の上では撮影するのでなく後から合成するのですが、ジンバルで撮影しながらボートを動かすのがとても大変だったんです。甲板から人が落ちるように見せる必要がありました。技術的に難しかったですが、とても楽しい撮影でした。飛行機のシーンでも同じです。インカの遺跡をセットで作った後で、本物のペルーの背景を重ねて合成するのですが、異なるふたつの要素を調整しながら、物語の雰囲気や生き生きとした楽しさを保つのは大変でした。大きな挑戦でしたが、楽しくもありましたね。私はこういった挑戦が大好きです。すべての技術をつなぎ合わせ、どのように表現するかを考えて、頭の中で編集してシーンを構成しながら見ている人に最も楽しんでもらえる形を目指しています。一番の課題は、前2作で愛されてきた『パディントン』の雰囲気や世界観を保ち続けることでした。でも、映画作りは本当に楽しいもの。アントニオ(・バンデラス)、オリヴィア(・コールマン)、そしてすべてのすばらしい役者たち、パブロとフレームストア社のVFXチームと一緒に仕事ができてよかったです。
「家」をテーマにした普遍的な物語
──ペルーでの冒険が表のテーマですが、内面的なテーマとしては”巣立ち”や”親が子を見送る”ことも描かれています。パディントンがルーシーおばさんの元を離れ、再び絆を確かめ合うという流れもあります。こうした普遍的な経験が作品の共感を呼ぶ理由だと感じました。
まさにその通りです。”家とは何か?””家を離れたときどうなるのか?””家は場所なのか、それとも愛や家族、友人がいるところなのか?”など、この映画の大きなテーマは、誰にでも当てはまる普遍的な物語です。これは小さなクマだけでなく、親と子、国や街を移る人すべてに当てはまります。場所への愛着もありますが、そこにいる人々とのつながりも同じくらい大切です。”家”は友情や愛がある場所ならどこでもなり得る、というメッセージも込めています。
パディントンのユーモアとサイレント映画からの影響
──パディントンの物語にはユーモアや温かさも大きな魅力ですが、そのトーンをどのように継続しようとしましたか? コメディ的な要素についても教えてください。
パディントンをどんな状況に置いても、彼は常に人や状況の良い面を見ようとします。それが彼の世界観であり、時に誤解から混乱を招くこともありますが、すべて善意から来ています。例えばパスポート写真を撮ろうとして機械の指示が分からず混乱したり、ボートを運転して技術的なトラブルでクラッシュしたりします。トラブルを起こすのは彼の悪意ではなく、純粋で無邪気な性格ゆえです。このキャラクター性は前2作から受け継いでいます。
──バスター・キートンやチャップリンのようなサイレント映画からの影響も感じられました。
前作でもチャップリンへのオマージュがありましたが、バスター・キートンの映画の多くの場面も、山や岩、崖、ボートなど、パディントンの冒険にぴったりだと感じました。直接的なオマージュもひとつありますが、サイレント映画のヴィジュアル的な工夫や無邪気な世界観は大きなインスピレーションになっています。パディントンもチャップリンやキートンのように、無垢な視点で世界と関わり、善意で行動した結果、思わぬ危険な状況に陥ることがあります。
豪華キャストとの共演
──初の長編で、イギリスを代表する俳優陣と仕事をした感想や、印象的なエピソードがあれば教えてください。
伝説的な俳優たちと仕事ができるとは以前は想像もしていませんでした。ある俳優は現場に多くの楽しさとエネルギーをもたらしてくれて、全員に話しかけて場を盛り上げてくれましたが、自分でスタントをやりたがるほどエネルギッシュなので、時には危険なことを止める必要もありましたけどね(笑)。オリヴィアは役に完璧にハマり、ギターの練習もすぐ始めて役作りに励んでいました。ジュリー・ウォルターズとは撮影中ずっと有名人について語り合って楽しかったです。ヒュー・ボネヴィルは作品のスタイルをよく理解し、アドバイスもくれました。新たに出演陣に加わったエミリー・モーティマーはエネルギーとアイデアにあふれていました。ジュディ役のマッティ(マデリン・ハリス)とジョナサン役のサム(サミュエル・ジョスリン)はシリーズとともに成長し、再びこのシリーズに戻ってきてくれてうれしかったです。ジム・ブロードベントも短いシーンですが伝説的な存在で、私は彼の出演作の大ファンなので一緒に仕事ができたことは感激でした。
──本作ではエミリー・モーティマーがサリー・ホーキンスの後任を務めました。エミリー演じるブラウン夫人はいかがでしたか?
エミリーはブラウン夫人の特徴を非常によくつかんでいました。温かみ、創造性、優しさがあり、ブラウン一家を動かす心臓のような存在なのです。エミリーはセットに足を踏み入れると、家族や家そのものにすぐになじんでいました。もっと前からそこにいたように思えたほどです。
──老グマホームの院長役であるオリヴィア・コールマンと仕事をしていかがでしたか?
オリヴィアは修道服を着るとすぐに院長になりきって、私が役柄について説明すべきことはほとんどありませんでした。あっという間に理解してくれたのです。頼もしいキャストとして加わり、特にパディントンとの会話のシーンがみごとでした。パディントンにとっても、院長は話していて楽しい存在です。イギリス映画やテレビを代表する俳優と、イギリス映画を象徴するキャラクターの交流が実現したのです。彼女はどのシーンにも意欲的で、崇高なものから滑稽なものまで、そして華やかなアクションシーンにも参加してくれました。そのすべてがすばらしいものでした。一緒に仕事ができてうれしく思います。彼女は『パディントン』シリーズの世界観やユーモアにぴったりと合っていました。彼女の活気やぬくもり、機転の利く様子は物語と完全にマッチしていましたし、この映画に参加してくれたことは本当に幸運ことです。
アントニオ・バンデラスとカルラ・トウスの魅力
──アントニオ・バンデラスもキャストに加わりました。彼の演じるハンターについて教えてください。
アントニオが出演してくれて感激しています。彼の役はハンター・カボートという名前で、アマゾンの熱帯雨林の水路を行き来しながら商売をしている、魅力的で威勢のいいリバーボートの船長です。でも実は複雑なキャラクターで、人前に出る場面やブラウン一家に対する普段の態度は、立派にお客をもてなす主人であり美食家で、人を楽しませる存在です。しかしお客が帰ってしまうと、彼の孤独な部分が現れます。自分の過去にとらわれているのです。
──アントニオの撮影現場での様子はいかがでしたか?
アントニオは現場に楽しみと活力を与えてくれました。彼は一緒にいて楽しい存在で、誰にでも優しく、みんなに話しかけていました。ユーモアと活気があり、アイデアにあふれていて、何にでも意欲的でした。そしてパディントンとのやりとりもみごとでした。パディントンは温厚なイギリス人で話し方も穏やかですが、名俳優のアントニオは堂々としながらも愉快な人です。彼はパディントンの性格とは実に正反対で、私は彼らが一緒にいるシーンがとても好きなのです。異なる色が合わさって、相互作用が起きているようなシーンになりました。
──ジーナを演じたカルラ・トウスとの共演について教えてください。
カルラはすばらしい若手俳優です。彼女の役柄はカボット家のよい部分を表現していて、一家は先祖からの期待の重圧を乗り越えようとします。家族、そして愛が最も大切だということを示す存在です。彼女は最終的にパディントンとブラウン一家を助けてくれます。
パディントンの声を演じるベン・ウィショーとシリーズの魅力
──ベン・ウィショーについて、パディントン役として、どんなディレクションや話し合いをしましたか? また、前2作と差別化した点はありますか?
ベンがパディントンを演じていると、時々本人とキャラクターの区別がつかなくなるほどです。彼はキャラクターに深く精通していて、声の収録時には表情や体の動きも撮影してアニメーションの参考にしています(モーションキャプチャではなく、フレームごとに手作業でアニメーション化)。ベンはキャラクターへの思い入れが強く、アニメーションの仕上げにも魔法のようなニュアンスを加えてくれました。とても協力的で、アニメーションのプロセスもよく理解しているので、仕事がしやすかったです。
──1作目の『パディントン』の映画化から10年になりました。『パディントン』はファンにとってどのような存在だと思いますか?
『パディントン』は、誰もが称賛し、理想に描くような性格をまさに体現しています。誠実さ、優しさ、寛大さ、フェアプレーといった具合に。これらはずっと変わらない性質です。イギリス人的な性質だとも言われますが、私は人にとって普遍的なものだと思います。人はこういった性質を大切に思い、尊重し、パディントンがそれらを体現していると考えるのです。だからこそ彼の人気はいつの時代も変わらず、みんな続編を楽しみにしているのだと思います。
──『パディントン 消えた黄金郷の秘密』を見て、全世代の観客に何を感じてもらいたいですか。
やはり、この映画を楽しんで、おもしろいと感じてほしいですね。パディントンのキャラクターの持つ性質は今も健在で、今後も人々を元気にしていくと伝えたいです。そして人生において大切な、優しさ、寛大さ、思いやり、礼儀正しさといったものが、世界をよい方向へと導いていくのだと感じてもらえたらうれしいです。
『パディントン 消えた黄金郷の秘密』オリジナルトートバッグを2名様にプレゼント!

British Culture in Japanでは映画公開を記念して、『パディントン 消えた黄金郷の秘密』オリジナルトートバッグを2名様にプレゼント!
応募方法は以下の通りとなります。
1. British Culture in Japanと映画『パディントン 消えた黄金郷の秘密』のXアカウントをフォロー⇒ https://twitter.com/britculturejp, https://x.com/eigapaddington
2. 以下の文言をコピペしてご自身のXアカウントでツイート。
5月9日(金)より公開される映画『パディントン 消えた黄金郷の秘密』の「オリジナルトートバッグ」プレゼントに応募しました https://bcij.jp/ctg/film/28335.html #paddington_bcij
以上で応募完了です。締め切りは5月9日(金)23時59分。当選者の方にはDMでお知らせいたします。
『パディントン 消えた黄金郷の秘密』公開情報

- 監督
- ドゥーガル・ウィルソン
- 脚本
- ポール・キング、マーク・バートン、サイモン・ファーナビー
- 出演
- ベン・ウィショー(声の出演)、ヒュー・ボネヴィル、エミリー・モーティマー、ジュリー・ウォルターズ、ジム・ブロードベン、ト、オリヴィア・コールマン、アントニオ・バンデラス、イメルダ・スタウントン(声の出演)ほか
- 作品情報
- 2024年 / イギリス、フランス、日本、アメリカ映画 / 英語 / 原題 : Paddington in Peru
- 公開日
- 2025年5月9日(金)より、全国ロードショー
- 配給
- キノフィルムズ
© 2024 STUDIOCANAL FILMS LTD. – KINOSHITA GROUP CO., LTD. All Rights Reserved.
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