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『We Live in Time この時を生きて』|ジョン・クローリー監督が明かすロンドンへの思い
2025年6月6日(金)より公開された映画『We Live in Time この時を生きて』は、ジョン・クローリー監督がフローレンス・ピューとアンドリュー・ガーフィールドを主演に迎え、現代ロンドンを舞台に人生と愛の本質を描いた注目作です。監督自身が語るキャスティング秘話や演出意図、物語の核、そしてロンドンへの思いまで、映画の魅力と舞台裏を伝えるインタビュー記事をお届けします。
──フローレンス・ピューとアンドリュー・ガーフィールドという人気俳優ふたりをキャスティングした経緯を教えてください。
ふたりのキャスティングは、いろんな意味で、驚くほど早く簡単に決まりました。ぼくはまず、脚本をアンドリューに送ったんです。アンドリューとぼくは、何年も前に『BOY A』で一緒に仕事をしたことがあります。彼とは何度か話し合いをして、彼は脚本を気に入ってくれたので、とても早く返事をくれました。
次に彼の相手役をどうしようかという話になった時に、フローレンスに当たったのですが、無理だという返事でした。でもそれから数週間後にもう一度トライしたら、彼女が予定していたマーベルの作品『サンダーボルツ*』が先送りになっていて、ちょうどぼくたちの撮影の時期にスケジュールが空いたんです。それからはとんとん拍子でした。普段は、そんなにうまく事が進むことはないんですけどね。
──フローレンス・ピューは、この役にどのような魅力をもたらしましたか?
彼女が演じたアルムートは、ある意味で恐れ知らずで、とても率直な人です。そして、彼女はある時期に、仕事や人生を揺るがされる。また、ドライなユーモアのセンスの持ち主でもあります。フローレンスは、俳優としてとてもエキサイティングな局面を迎えていると思います。俳優として大活躍していますし、この才能豊かな女性は、ぼくたちの目の前でみごとに羽ばたいています。そんな彼女の姿を見ていると、心がワクワクしますね。彼女は、これまでとは違った役を演じることができたことを喜んでいました。確かに、これまで彼女が演じたどの役とも異なったキャラクターだと思います。
──アンドリュー・ガーフィールドがこの役にふさわしいと思った理由は?
アンドリューは、傷つくことを恐れず心を開くことができる人だと思います。自分の感情を見せることを恐れず、役に女性的な側面さえもたらしてくれるので、それが共感を呼ぶんだと思います。それと同時に、機転のきくコメディアン的な要素もあります。とてもおもしろい人なんです。ぼくは、そのふたつの要素が、このキャラクターにとって非常に重要で必要だと感じました。またぼくは、脚本のニック・ペインが模索していた魂に関わる要素、つまり、死や地上での人生の意味というテーマにアンドリューが関心を示すと思ったんです。そして、実際にそのとおりになりましたね。
──主演ふたりの相性はどうでしたか?
こういうことは、実際にやってみるまで分からないものです。だから、ふたりの相性がいいかどうかは、リハーサルまで分からなかったというのが答えですね。彼らは、アカデミー賞で一緒にプレゼンターをしたことがありますが、その時もピッタリと息が合っていました。その時に誰もがこのふたりがいいペアになると思ったようですね。
ただ、撮影が始まる前の週に、テーブルを囲んで読み合わせをした時に、場面のリハーサルをするふたりを見て、ぼくは期待感が高まるのを感じました。それはまるで、1組のサラブレッドが、走り出したくてうずうずしている様子を見ているようでした。ふたりは、まだ自分の役の感覚を掴もうとしている感じで、完全に本気を出している感じではなかったのですが、時折、実際にセットに立った瞬間を楽しみにできるような場面が垣間見えました。そして実際に、セットでのふたりは最高の演技を見せてくれましたよ。
──本作は時系列がシャッフルして物語が展開していきます。この構成を採用したのはなぜですか?
ニックの脚本を初めて読んだときから、時間構成に遊び心が感じられました。それが、私にとってこの作品の魅力のひとつでもありました。一見とてもシンプルな物語に見えるのですが、非常に独特に並べ替えられた形で展開していきます。その構造が、私たちが「時間」について語りたい意味を生み出すのに役立っています。
映画の中では、3つの異なる時間軸が同時に進行しています。ひとつ目は、およそ4年に渡るもので、ふたりが初めて出会う直前から物語の最後までを描いています。ふたつ目は、彼らの人生におけるひとつの出来事を約1年に渡って追ったもの。そして3つ目は、たった1日の出来事です。これらの時間軸が映画の中で絶えず交錯しながら進んでいきます。それによって、ある瞬間は非常に速く過ぎ去るのに対し、重大な出来事が起こるときには時間がゆっくりと進むように感じるという、人生の内側にいる時の感覚を表現しようとしています。この時間構成のおもしろさと、それを映画的に編集する挑戦に魅力を感じたのです。
──それぞれのキャラクターは、現実の社会を反映しているのでしょうか?
たとえば、社会の中で積極的に活動し、キャリアを大切にしている人というのはたくさんいますよね。彼らは未来に向けて計画を立て、さまざまなことを成し遂げようとします。そんな人にとって、突然“時間が限られる”と、それまでの人生では見えなかった感情が引き出されることになるでしょう。そして、それが必ずしも、これまで築いてきたパートナーとの関係性の中での自分らしさと一致するとは限らないのです。
この物語の一部では、「限られた時間の中で、どうやって生きるか」という現実の中で、ふたりがどのようにその混乱を乗り越えていくのかが描かれています。そして、とても重要な問いが投げかけられます。「残された時間をどう使うのか?」「治療に専念するのか、それとも世界に出て過ごすのか?」という選択です。どちらが正しい、という答えはありません。ただ、その状況において、それぞれの人がどのように感情的に向き合うのかが大切なんです。
この映画は、そうした問いに対して説教的になったり、ひとつの正解を提示したりするようなものではありません。むしろ、多くの人が直面するであろうこの問題を、観る人それぞれが自分自身の視点で考えられるように描いています。
──以前のインタビューで、いわゆる「ロンドン映画」と呼びたくなかったとおっしゃっていましたが、実際に郊外で働く普通の人々を描くことで、本当のロンドンを見せたいと考えたそうですね。監督にとって「本当のロンドン」とはどのようなものですか?
「本当のロンドン」というものはひとつではないと思います。私はここに30年住んでいて大好きですが、ロンドンは様々な都市や異なるアイデンティティの集合体です。美しい場所ではないかもしれないけれど、独自の詩情を持つ場所を描くのもおもしろいと思いました。
今回見つけた南ロンドンのハーンヒルというエリアは、映画の冒頭の舞台です。完全にジェントリフィケーション(高級化)が進んでいるわけでもなく、リチャード・カーティスの初期作品のような「お金持ち」な雰囲気もありません。登場人物たちは、都市で自分の道を切り開こうとする若いプロフェッショナルたちです。主人公が住むフラットも、初めて自分で手に入れた部屋という感じで、まだ荷物も片付いていない。そうしたリアリティを大事にしました。
レストランも実在の店をモデルにして、美術的に手を加えましたが、初めてのレストランとして信じられる規模にしました。若い人たちが集まる場所で、登場人物たちの服装や見た目にもそれが表れています。主演のふたりは映画スターでファッション界でも活躍していますが、今回は「通りを歩いていても気づかれない普通の人」としてリアルに演じることを意識していました。
社会派リアリズムを目指したわけではなく、信じられる、共感できるものにしたかったのです。イギリス映画にありがちな要素や、今では少し使い古されたような表現にはしたくありませんでした。リチャード・カーティスの初期作品は当時は新鮮でしたが、その後多くの模倣作が生まれたので、今回はそうならないように心がけました。
また、出産シーンをロンドンのとても地味なガソリンスタンドで撮影したのも重要でした。決して新しくも清潔でもない、むしろ汚れていて、ソーセージロールや安ワインが売られているような場所です。本来なら病院で産みたいところですが、人生の大きな瞬間がそんな「一番ありえない場所」で起こることもある。ロンドンで暮らす人々が感じる現実の厳しさや共感できる世界を描きたかったのです。
──典型的なロンドン映画では、舞台がテムズ川の南側になることは少なく、登場人物も南岸に行くことはほとんどありません。しかし本作はブリクストンとペッカムの間のエリアが舞台で、非常にリアルで地に足がついた雰囲気が伝わってきます。ブロックウェル・パークを歩くシーンも印象的でしたが、この場所が物語や演出にどのような影響を与えましたか?
このエリアは映画であまり描かれてこなかったので、観客が「この場所はあの映画で見たことがある」と思わない新鮮さがありました。ロンドンの遠景も、他の映画とは違った雰囲気になります。ブロックウェル・パークを歩いているときに、素敵な小道や古い橋、電車が見えて「これは美しい」と思いましたが、決して気取った感じや過度に憧れられるような場所ではありません。コーヒーを買って公園を散歩する普通のカップルのように感じさせたかったのです。
その下に流れるロマンスも感じられるように。映画的な瞬間を作るのではなく、ふたりのキャラクターのリアルな瞬間を描きたかったのです。新鮮さという点では、観客が「これはお金や階級の話だ」と感じずに、どこか分からないけど共感できる場所として描くことが重要でした。
──ロンドンでの撮影中に印象的なエピソードや、困難だったこと、逆にラッキーだったことがあれば教えてください。
特別なエピソードを思い出すのは苦手ですが、撮影はとてもタイトで感情的なテーマを扱うことも多く、毎日がチャレンジでした。それでも、どこに行っても人々が親切で、交通を止めたりしても協力的でした。大規模な撮影隊ではなかったので、機動力があり、人々も興味を持って応援してくれました。とても楽しい現場でしたが、特別におもしろい話は思い出せません。
──ロンドンという舞台が「限られた時間」という映画のテーマとどう結びついていると思いますか?
特にロンドンだからということはないと思います。時間について考えると、むしろニューヨークや東京などの大都市を思い浮かべるかもしれません。時間の流れや感じ方は誰にとっても普遍的な問題です。人生の中で時間が伸びたり縮んだりする感覚は誰もが経験することですし、哲学者や医者、物理学者も長年考えてきたテーマです。
誰もが限られた時間しか持っていませんが、それがどれくらいかは分からずに生きています。もし「あと1年しかない」と告げられたら、特に人生が充実している人にとっては大きな出来事です。主人公のアルムートのように、計画的で何かを成し遂げたい人にとっては、すべてがより切実で強烈になります。その結果、秘密を抱えることになり、人生を区切ってしまう。これはロンドン特有の問題ではなく、普遍的な問いだと思います。
──主演のフローレンスとアンドリューは英国人俳優ですが、母国での撮影が演技にどのような影響を与えたと思いますか?
ふたりとも自分自身に戻るような感覚だったと思います。何かを作り込むのではなく、自分たちの声や動きに忠実で、自然体で演じることができました。演技を作り込むのではなく、むしろ余計なものを削ぎ落とし、ふたりの間に生まれる信頼や存在感を高めることに集中しました。その結果、静かなシーンでもふたりの間に特別な化学反応が生まれました。ふたりともイギリスの郊外で育った経験があり、イギリスらしいジョークや日常にも親しみを感じていたようです。
──エンドロールで流れるロミーとサンファによる「I’m on your team」という曲についてお聞きします。とても感動的なシーンをさらに深めてくれました。この曲を選んだ経緯を教えてください。
エンドクレジットの曲を探していて、最後のシーンの感情を観客が消化できるようにしたかったんです。テスト上映で音楽がなかったとき、観客がすぐに現実に戻れず、余韻を感じていました。特にがんの経験がある方には強く響くので、優しく感情を包み込む曲を探していました。たくさんの未発表曲を聴きましたが、ロミーとサンファが作ったデモが届き、最初から素晴らしい出来でした。
男女の声が重なるデュエットにしたかったのですが、この曲はまさにそれで、感傷的になりすぎず、でも感情がこもっていました。「I’m on your team」という歌詞も、映画の内容を直接説明するものではなく、ふたりが互いに支え合う姿を象徴していて完璧でした。ロミーとサンファにお願いして、少しだけスタジオで仕上げてもらいましたが、最初に聴いたヴァージョンとほとんど変わりません。
『We Live in Time この時を生きて』が問いかけるもの
『We Live in Time この時を生きて』は、出会い・別れ・家族・病・限られた時間という誰もが直面するテーマを、現代ロンドンのリアルな息遣いとともに描き出します。主演ふたりの自然体の演技、都市の現実的な風景、時間の流れの中で輝く一瞬一瞬──映画を観た人は、人生の価値や大切な人との時間について改めて考えさせられるでしょう。
『We Live in Time この時を生きて』特製アクリルキーホルダーを5名様にプレゼント!

British Culture in Japanでは映画公開を記念して、『We Live in Time この時を生きて』特製アクリルキーホルダーを5名様にプレゼントします。
応募方法は以下の通りとなります。
1. British Culture in Japanと映画『We Live in Time この時を生きて』のXアカウントをフォロー⇒ https://twitter.com/britculturejp, https://x.com/wlit_movie
2. 以下の文言をコピペしてご自身のXアカウントでツイート。
好評公開中の映画『We Live in Time この時を生きて』の「特製アクリルキーホルダー」プレゼントに応募しました https://bcij.jp/ctg/film/*****.html #wlit_bcij
以上で応募完了です。締め切りは6月15日(日)23時59分。当選者の方にはDMでお知らせいたします。
映画『We Live in Time この時を生きて』作品情報

- 監督
- ジョン・クローリー
- 出演
- フローレンス・ピュー、アンドリュー・ガーフィールドほか
- 作品情報
- 2024年 / フランス・イギリス映画 / 英語 / 原題 : We Live in Time
- 公開日
- 6月6日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
- 配給
- キノフィルムズ
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