能登の素材×ウェールズ蒸留のクラフトジン「のとジン」が世界三大酒類コンテストのひとつで金賞受賞!その裏側に迫る

のとジン

はじめに

能登半島は日本海に面した美しい自然と豊かな食文化が魅力的な地域です。そんな能登の素材を活かし、ウェールズで蒸留されたクラフトジン「のとジン」が、2023年3月27日に発表された「インターナショナル ワイン&スピリッツ コンペティション(IWSC)」でスピリッツ部門金賞を受賞しました。

このコンテストは、世界三大酒類コンテストのひとつであり、毎年約90カ国から9000点以上の酒類が出品されます。その中で金賞を獲得した「のとジン」は、どんな特徴があるのでしょうか。また、この商品を手掛けるNTG代表・松田行正さんは、どんな思いでジン作りに挑んだのでしょうか。

本記事では、「のとジン」の魅力や製造過程、松田さんのストーリーなどを紹介します。

「のとジン」とは

「のとジン」は、能登半島で採れる柚子や榧(かや)の実、月桂樹や黒文字(くろもじ)などの植物を使って、甘くさわやかな香りとスッキリした味わいのクラフトジンです。また、能登島で間伐材を使って製塩される藻塩を加えることで、ほんのりとした塩味がアクセントになっています。

のとジン

このジンは、ウェールズの蒸留所「In The Welsh Wind」でOEM(相手先ブランド製造)されています。ウェールズは三方を海に囲まれた地域で、海をモチーフにしたジンが多くあります。そのため、塩を使った蒸留にも対応できる技術と経験があります。能登とウェールズは、里山里海を大切にする点や景色の似ている点などで共通点が多く、コラボレーションの相性が良かったと言えます。

「のとジン」が生まれた経緯

「のとジン」を作るきっかけになったのは、松田さんが2017年にクラフトジンという存在を知り、魅力に惹き込まれたことです。松田さんは20歳の頃からお酒に興味を持ち、特にウィスキー派でしたが、20代の頃にアロマセラピーに関心を持ちました。その時に学んだ植物の知識や香りの感覚が、クラフトジンに活かせるのではないかと思いました。

のとジン

そこから、2018年と2019年に「ジンフェスティバル東京」を訪れて、多くの国内外のブランドを知りました。その中でも、自分の好みや評価が一致していたものがありました。それは、「In The Welsh Wind」です。松田さんはこの蒸留所に興味を持ち、自分もいつかクラフトジンを手がけてみたいと強く思いました。

しかし、当時の松田さんは一般的な50歳を目前にしたサラリーマンでした。現実がそう簡単には許してくれない環境にありました。様々な葛藤はありましたが、一方で長年の持病を抱えており、人生それほど長くはないと思っていました。50歳という節目が最後のチャンスに思えました。後悔して生きるより、失敗しても挑戦したことの満足感の方が自分の人生にふさわしいと思いました。

そこで、2020年に「自分の人生をかけてジンのブランドを作ろう」と決意しました。

「のとジン」の素材選び

ジンのブランドを作ろうと決意し、アイディアを探す中で、偶然の出会いが訪れました。2020年当時、社会がコロナ禍だったこともあり、室内を除菌・滅菌するルームスプレーとしてノトヒバ(能登檜葉)の香りが注目されていることを知りました。

元々ヒノキの香りはジンに採用したいと考えていたことから興味を持ち、実際に商品を取り寄せ確認してみたところ、強い個性的な香りに可能性を感じました。

そこから石川県の奥能登地域の市町の役場に連絡をして、手がかりを相談してみました。すると、珠洲市の移住担当の方が、松田さんの構想に興味を持ち、珠洲市にあるSDGsラボと金沢大学里山里海SDGsマイスタープログラムを松田さんに紹介してくれました。

中でも金沢大学の担当教官が構想を大変気に入ってくれ、マイスタープログラムへの参加を提案してくれました。当時はコロナ禍ということもあり、リモートで参加できることを告げられ、中途で8月から参加することになりました。プログラムに参加し、能登の里山里海について学ぶうちに、能登には興味深い植物があり、社会課題もあることを知りました。

寒流と暖流が沖で交わる能登半島には昔から植物の多様性があり、少ないながらも様々な果実が取れます。そして何より、日本の原風景とも言える昭和の景色を残しながら、人々は日々の生活を大切にして暮らしています。過疎高齢化が進行する中で、日本の財産であるこの能登の里山里海の営みを後世にも残していくことができたらと強く思いました。

結果、香りを楽しむジンで、能登をアピールできないかと現在のもととなるアイディアが固まりました。元々自分の中にあった思いと、学びを通じて得た課題解決とがボトルの中で一つになった気がしました。命題が決まってからは、具体的な模索を始めました。

「のとジン」の製造過程

のとジン

その後、9月に、元々予定していたウェールズの蒸留所を回る旅に出発しました。以前からメールで相談していた蒸留所2か所と、別の蒸留所1か所を見学しました。その際、「In The Welsh Wind」蒸留所を訪問し、「OEMで能登のジンを作りたい」という話を、能登の地図や観光パンフレット、サンプルの香りなどを持参して熱く語りました。すると、「おもしろそうだ」という反応をもらいました。

特に「塩を使った蒸留をしたい」ということについては、「塩を使って沸点をコントロールするのはおもしろい、すでにいくつかのブランドで塩を使った実績もあるので、問題ない」と受け入れてもらえました。この点が何よりも大きかったです。蒸留器は銅製のものが多いため、どうしても塩を使ってしまうと大切な蒸留器を傷めてしまいます。相談した国内のほとんどの蒸留所では塩を使うことは難しいと返答をもらい、プロジェクト化に困難を極めていました。

詳しい理由を尋ねてみると、三方を海に囲まれたウェールズでは海は身近な存在で、海をモチーフにしたブランドも多いということでした。遠浅の砂浜や荒々しい海岸線。確かにウェールズの景色は能登の景色に似たところがたくさんありました。里山里海を大切にしているウェールズだからこそ、能登との共通性を見いだすのはとても簡単で、ヨーロッパでは珍しく海藻もよく食べることも関係していました。

帰国後、マイスタープログラムの中で、試作品を作ることを決意しました。「In The Welsh Wind」蒸留所のOEMサービスに申し込みました。能登の植物(ボタニカル)を選択するにあたり、マイスタープログラムの講師やOBの方々に情報をもらい、地元の方々に話を伺いながら、材料の選定をしていきました。

使われない柚子の実や榧の実、間伐材で採取される月桂樹や黒文字、全く利用されなくなったスダジイの実、廃材のノトヒバ、間伐材で製塩される藻塩、これらの材料でクラフトジンを作ることを決めました。アップサイクル型の持続可能性の高いコンセプトがSDGsに力を入れている奥能登地域にマッチしました。

その後、自分の中で選択した材料を梱包し、ウェールズの蒸留所にサンプルを送りました。すると、スダジイの実とノトヒバは選定から外れることになりました。スダジイの実は、須須神社の境内にたくさん落ちる実で、以前は煎って子供のおやつにされたりもしました。最近は子供が少なくなったことやおやつを作る手間もあり、まったく利用されないまま放置されますが、放置しておくとイノシシが食べに寄ってくるので、掃除をして廃棄処理をしなければならなくなっています。

何か製品の材料として使うことができればと期待していましたが、残念ながら使用されませんでした。また、当初から期待していたノトヒバは、香りが強すぎて他のボタニカルとの調整が難しいということで選定から漏れてしまいました。いずれもとても残念な選択でしたが、結果的には材料を輸出して蒸留を行うので木材に該当してしまうノトヒバやスダジイの実は輸出の際に加熱消毒をしなければならないことがわかっていたのでこの工程が省けることになり、輸出の手間が大幅に削減されたことが幸いでした。

のとジン

こうして、現在の「のとジン」のレシピが完成しました。柚子は主に奥能登地域で実をつけながら採取されない実を集めて、皮の部分だけ乾燥させて利用します。榧は奥能登地域に少量みられるチャボガヤという種類の榧に、高知県で栽培されている榧の実を合わせて、乾燥させて利用します。森林保護の間伐材としてすでにエッセンシャルオイルなどでの実績のある黒文字に、同じ間伐材でも香りが爽やかな月桂樹を採用しました。

当初予定していた塩については、珠洲の塩ではなく、能登島の藻塩を活用しました。リモートワークの際に利用していたゲストハウスのオーナーから、間伐材を活用して海水から製塩する能登島の塩を紹介され、「のとジン」のコンセプトにぴったりフィットするため、味覚への貢献度も期待して海藻ホンダワラを活用した藻塩を採択しました。

英国で合わせるボタニカルは、ジュニパーベリー、カルダモンシード、コリアンダーシード、メドゥスィートの4種類。日本への輸出に影響のないハーブ系の材料を使用し、香りと味を整えました。

レシピ作成の当初は、香りのバランスなども考えながら材料を検討していきましたが、能登で採れる材料で、かつ、採用されたものをみてみると、どれも特徴的な爽やかさを香らせる材料ばかりになったそうです。そのため、非常に爽やかなアロマが出来上がりました。

「のとジン」の誕生

そうして出来上がったのが、「のとジン」です。

能登の里山里海材料を、ウェールズで蒸留。ベースとなる原酒は、一般的に香りがよく乗るとされる英国製のニュートリ・グレーン・スピリッツを採用。ボタニカルを通常の倍量使用した特別なレシピ。製法も伝統的で最も厳しいロンドン・ドライ製法にこだわった本格的なクラフト・ジンが誕生しました。

世界的に大人気であるゆずの香りが、独特の甘さと爽やかさを与え、乾燥させた榧の実から発せられるキャラメルのような甘みと爽やかさ、そして多くの女性を魅了して止まない黒文字の清涼感に、ウッディなタンニンを感じる月桂樹の爽やかさ。そして、その香りをさらに引き立ててくれる藻塩というバランスが、これまでにないレベルの爽快感と美味しさを作り出しています。美しい能登の里山や里海にふく風をそっと感じるような香り豊かな逸品です。

のとジン

商品が完成し、少しずつ届けていくと、様々な声が届くようになりました。

  • のとジン、さっそくすでに半分くらい飲んでしまいまして、ほんとに美味しくて、森の香りがして、心地よい飲み心地です。都内にいるのに森林浴をしている気分になり、なんだかどこでもドアみたいなお酒ですね。(東京都・能教士・女性)
  • 炭酸水で割っていただきました。能登の恵みがたっぷりの香りの良い美味しいお酒でした。あまりジンは飲んだ事がなかったのですが、こんなに爽やかな味なのかと驚きました。本当に美味しかったです!(大阪府・女性)

さらに、それだけではありませんでした。こだわって制作を進めたパッケージのデザインも評価されるに至ったのです。米国DesignRush社主催の2023年3月度月間Best Print Designを受賞。マーケティングやブランド認知の目的を超えて、限られたデザイン要素で視覚的な調和を生み出し、本物の芸術作品に仕立てたラベルや印刷物のデザインを評価する部門で、のとジンのパッケージデザインが月間ベストに選ばれました。

のとジン

その後、2023年3月にはインターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンテスト(IWSC)で金賞を受賞。評価には、“フローラルとハーブの香りから、コリアンダー、シトラス(ゆず)ピール(皮)、キャラメルのような土の香りが広がります。味わいは美しくバランスが良く、生き生きとしていて、素晴らしい深みのあるフレーバーと余韻のスパイスが感じられます。素晴らしい逸品です”と全体的な香りのバランスの良さを評価されました。

「もともとデザインが先行して注目されてきましたので、今回初めて味の方も評価いただくことができ本当にうれしいです。今まで香りを試していただいたり、飲んでいただいた方からは、おいしい、というお声をいただいておりましたが、こうして客観的な評価機関からも正式に認知していただけたことで、これまで勇気を持って試していただいた皆さんにも恩返しができたような思いです」と、松田さんは喜びを隠しませんでした。

のとジン

最後に、松田さんは今ひとつの目標を掲げています。それは蒸留所の設立。今後もNTGは能登の素材を活用し、地域の課題にも目を向けながら商品開発を行っていく予定です。

Link

http://www.notogin.com/

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