フォールズはなぜここまでポップに、ダンサンブルになってしまったのか。ニュー・アルバム『ライフ・イズ・ユアーズ』で突きつけた生命への賛歌

フォールズ

2019年の3月と10月にアルバム『エヴリシング・ノット・セイヴド・ウィル・ビィ・ロスト』のパート1と2からなる2部作をリリースした、オックスフォード出身のフォールズ。それから3年。かつてないほどのキャッチーでダンサンブルなサウンドと共に彼らがシーンの最前線に戻ってきた。

思い返してみれば、2008年にリリースしたデビュー作『アンチドーツ(解毒剤)』からダンサンブルという一面を変わりなく持ち続けてきたが、彼らが敬愛するトニー・アレン(ナイジェリア出身のドラマー。2020年4月没)がフェラ・クティと共に編み出したアフロ・ビートや、当時のトレンドでもあったディスコ・パンク・サウンドを取り込んだデビュー時は手数の多い、ちょっと複雑なアンサンブルを展開するバンド、というイメージを抱いた。

その後もファンクやエレクトロ・サウンドなど、様々なジャンルの要素をどん欲に取り入れ、同時にバンドとしてのスケール感も高めてきたフォールズにとって、さらなる挑戦となったのが前作にあたる2部作だった。ディストピアを舞台に世界が終わってしまったパート1と、焦土の中から立ち上がり反撃ののろしを上げるパート2。互いが対となるコンセプチュアルな作品だっただけに、その後の彼らが進む方向性についても気にかかったが、その2部作を携えたワールド・ツアーがスタートしたタイミングでCOVID-19のパンデミックが起こり、延期を余儀なくされてしまう。

FOALS

Photo- Sam Neill

例外なく、自宅にいることを強制させられたロックダウンの中、彼らは何を思って過ごしていたのだろうか。ロックオペラのような壮大な世界観を持つ2部作だっただけに、ステージで見せて、観客と共に作品を完結させたいという考えがあったに違いない。そのツアーに向けて高まっていた感情と折り合いをつけなければならなかっただろうが、まったく先行きの見えない悲観的な状況下で、さらにバンドの精神的支柱でもあったトニー・アレンが2020年4月に亡くなってしまう。COVID-19によって死というものが忍び寄り、否応なく直視せざるを得なくなった中、彼らが選んだのは閉ざされた世界が再び開かれる日を迎えるための音楽を作ることだった。その決断について、ギタリストのジミー・スミスはオフィシャル・インタヴューでこう語っている。

    ニュー・アルバムの最初のインスピレーションは、自分たちの周りで起こっていることから逃れたいという気持ちから来たんだと思う。2020年の冬、パンデミックの猛威でロンドンがとても殺伐とする中、毎日一緒に音楽を作ることで、ぼくらは大きな安らぎを得ていたんだ。そこでぼくらの中から生まれてくる音楽にはとても高揚感があって、ぼくら自身のセラピーになり始めていたから、もしぼくらが良い気分になれるのなら、それを続けていこうと決めたんだ。

そして、2021年の初め頃から制作が本格的になり、バースにあるピーター・ガブリエルが所有するリアル・ワールド・スタジオにメンバーたちが集結する。前作は対となる2部作だったが、ある意味、このニュー・アルバムも相反するふたつの要素が向き合っていると言っていい。

それは“死”と“生”だ。

猛威を振るうCOVID-19によって身動きが取れなくなってしまった世界はさながらディストピアのようであり、フォールズの想像した世界が形を変えてリアルになってしまった。その人類に襲いかかった危機に立ち向かうための生への謳歌こそ、今必要なのだと彼らは考えたのではないだろうか。問答無用のパーティ・アンセムを作り、共に踊り楽しむことでパンデミックの収束を祝う。失われた夏を取り戻すことが、生きている者たちの義務なのだとばかりに、このニュー・アルバムには享楽的なエネルギーが渦巻いている。

Photo : Alex Knowles

パート1と2は自らイメージする世界観をダイレクトに投影するためにセルフ・プロデュースを選んだ彼らだったが、ニュー・アルバムではジョン・ヒル、ダン・キャリー、A.K.ポール、マイルス・ジェイムス4名のプロデューサーを起用。1曲に対して、複数のプロデューサーが関わることで、より強固なグルーヴを引き出すことに成功している。

    バンドが複数のプロデューサーを起用するのはちょっと珍しいことだったと思う。でも、これまでの何枚ものアルバムでは、ひとりのプロデューサーを起用してきたから、変化を感じたかったんだ。このような体制になったのはかなり偶然ではあったんだけど、ある曲はあるプロデューサーのサウンドと相性が良かったし、エキサイティングなヴィジョンを持った人たちと一緒に仕事をしたいと思っていたから、そうするしかない!という感じだったね。

    ジョン・ヒルは、エグゼクティヴ・プロデューサーとして全体を監督し、アルバムの一貫性を保つのに非常に重要な役割を果たしてくれた。さまざまな音楽的な個性を持つ人たちと一緒に仕事ができたことは、とても素晴らしいことだったよ。彼らが集まってこのアルバムに取り組んでいるのを見るのは、感動的だったね。

ダン・キャリーはウェット・レッグをはじめ、現在のUKロック・シーンを活気づけているバンドを多く手がける売れっ子。ジョン・ヒルはグラミー受賞の経験もあり、ポップスからR&B、ヒップホップまで多彩な顔ぶれの作品を担当している。A.K.ポールはサム・スミスやムラマサたちの楽曲を共作するソングライターでもあるプロデューサーで、マイルス・ジェイムスはリトル・シムズやトム・オデルらを手がけている。ジミーが語るように異なるキャリアや背景を持つ顔ぶれが参加したことで、フォールズに必然的な変化をもたらした。

なお、先行トラックとして2月にリリースされた「2am」は、ウクライナのキーウでミュージック・ビデオが撮影された。監督はタヌ・ムイノ。ウクライナのオデッサ出身で、ハリー・スタイルズも彼女を起用している。MVの映像はキーウのスタジオで撮影されたため、戦争前の美しい街は出てこないが、もうひとつのディストピアを引き起こしたロシアによる侵略戦争に対して、バンドは毅然とした態度を示している。

    あのMVを撮影するためにウクライナに行ったのはヤニスだけだったけど、彼はそこで素晴らしい経験をしたと思う。撮影では、すごく気持ちが高揚して、楽しい時間を過ごした、と彼から聞いたよ。

    ぼくらはずっとウクライナの友人を愛してきたし、彼らが今直面していることは言葉にできないほど恐ろしいことだ。いまヤニスはタヌと連絡を取っていて、ぼくたちは戦争中やその後の再建のために、できる限りの支援をしようと思っているよ。

COVID-19のロックダウン下で生まれたニュー・アルバムは今、戦争というディストピアと対峙しているようにも感じられる。そして、“Life Is Yours”というタイトルは、そのまま我々へのメッセージとしても受け止めることができそうだ。

文/油納将志

フォールズ
『ライフ・イズ・ユアーズ』

フォールズJ写

レーベル:
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
発売日:
Now on Sale

TRACK LIST

1.
ライフ・イズ・ユアーズ
2.
ウェイク・ミー・アップ
3.
2am
4.
2001
5.
(サマー・スカイ)
6.
フラッター
7.
ルッキング・ハイ
8.
アンダー・ザ・レーダー
9.
クレスト・オブ・ザ・ウェイヴ
10.
ザ・サウンド
11.
ワイルド・グリーン
12.
2001 ヴァイブス *
13.
LH MJ ラフ・デモ *
14.
ウェイク・ミー・アップ(ローレンス・ハート・リミックス) *

*日本盤ボーナス・トラック

Link

https://www.sonymusic.co.jp/artist/foals/

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