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秋のハムステッド・ヒースを散歩
ロンドン在住のフリーランスライター、近藤麻美さんが、英国カルチャーを現地から紹介する連載「近藤麻美のカルチュラル・ウォーク in London」の第11回を公開! 今回は、ロンドン北部に広がる公園「ハムステッド・ヒース」を紹介します。
日曜の朝は、ゆっくり起きて、久しぶりにハムステッド・ヒースをお散歩しました。

ハムステッド・ヒースの案内図
ハムステッド・ヒース(Hampstead Heath)は、ロンドンで最も標高が高い場所で、ハムステッドから東はハイゲート、北はゴールダーズ・グリーン近くまで広がっています(ヒース・エクステンション)。
多くのロンドン市民にとって、ヒースは、新鮮な空気、野生生物、そして美しい景色に囲まれ、都会の喧騒から逃れられる大切な場所です。興味深いことに、ハムステッドは、歴史上しばしば、市民の避難先になってきたと言う話があります。15世紀の修道士ジョン・フリートによれば、1349年の黒死病から逃れるためウェストミンスター寺院の院長シモン・ド・バーチェストンはハムステッドへ避難したものの、その年のうちにペストで亡くなりました。
1524年には占い師たちがロンドン大洪水を予言し、多くの人々が高地のハムステッドに逃げ込みましたが、予言は外れました。さらに1603年と1665年のペスト流行時にも住民がこの地に避難しましたが、多くの犠牲者が出ました。歴史を通じて、ハムステッドは災禍から逃れようとする人々の避難先であり続けたのです。
避難ではありませんが、最近ではコロナ禍の際、イギリスでは一日一度のエクササイズが許されていたので、私たち家族はハムステッド・ヒースをよく歩いていました。ヒースは、ソーシャルディスタンスを保ちながら、運動や気分転換の出来る貴重な場所でした。
ハムステッド・ヒースはとにかく大きいので、今日は北の方を散策しました。

ゴールダーズ・ヒル・パークの鹿
ゴールダーズ・ヒル・パーク内には、プレイグラウンドやバンドスタンドの他、小さい動物園があります。
ゴールダーズ・ヒル・パークを出ると、パーゴラがあります。

パーゴラの外観

パーゴラはハムステッド・ヒースの隠れた魅力のひとつです。ウェスト・ヒースを見下ろすこの場所は、裕福で芸術、建築、造園のパトロンであったウィリアム・H・レバー(後のレバーヒューム卿)と、著名な造園家トーマス・モーソンの理想郷でした。1904年、レバーヒューム卿は当時フィレと呼ばれていたインヴァーフォース・ハウス(ノース・エンド・ウェイに面した立派な邸宅)を購入しました。その後、隣接する土地を取得し、壮麗なエドワード朝様式のパーゴラを造る機会を得ました。このパーゴラは、庭園のパーティーや夕べの喧騒の舞台となり、丘の庭園への印象的な演出となるでしょう。



250メートル続く回廊
この回廊では、写真やフィルムの撮影が良く行われています。私も一度、子供服カタログ撮影のお手伝いをさせてもらったことがあります。

パーゴラを出て、Jack Straws Castleへ

Jack Straws Castleは、1381年の農民反乱(Peasants’ Revolt)を率いた反乱軍の指導者ジャック・ストローにちなんで名付けられました。彼は捕らえられ処刑されるまでこの場所に隠れ住んでいたと言われています。18世紀ころからこの建物はパブとして栄えていました。チャールズ・ディケンズはこのパブを訪れたことが知られており、「ディナーに真っ赤に焼けた牛肉と、良質のワインを一杯楽しめる場所」と表現しているそうです。実は私もこのパブには何度か来たことがあったのですが、2002年に閉店し、その後、複数の高級フラットとジムに改装されました。

ふたつの大戦で国のために命を捧げたハムステッド市民を追悼するために建てられた記念碑
ヒースの中に入っていきます。

前日の土曜日にかなりの雨が降ったので、足元は濡れています


ヒースの中には、この公園を愛した人たちの記念として、ベンチが設置されています。

ベンチには、「ケンウッドを愛したジャン・ベスト(1894-1984)を偲んで」と彫られている
それでは、ジャンさんも愛した、ケンウッド・ハウスの方へ行ってみましょう。

イングリッシュ・ヘリテージ:「ケンウッドは、ロンドンで最も美しいカントリーハウスのひとつです。この邸宅は、1760年代に初代マンスフィールド伯爵のためにファサードと内装を改修したロバート・アダムによる傑作です。敷地は1790年代にハンフリー・レプトンによって再設計され、街を見渡す壮大な眺望が生まれました。1929年、ケンウッドは、国際的に重要な絵画コレクション(アイヴェー遺贈)とともに国に寄贈され、以来、多くの人々に親しまれています。

ケンウッド・ハウスが地図に示されています
掲示板は季節ごとにお知らせが変わります。

季節のハイライト:シティ・オブ・ロンドン・コーポレーションとイングリッシュ・ヘリテッジが管理するハムステッド・ヒースとケンウッドは、都市における生物多様性の“ホットスポット”として、他に類を見ない魅力を提供しています。ロンドンの生物多様性の回復を支援するため、ヒースを新たな緑の回廊の拠点として活用し、周辺地域の緑地へと繋げることで、より多くの自然体験と、その自然環境を保全していきます。
なにやら、奇妙なオブジェや展示物のようなものがあります。


これらは、子供向けのイベントのための仕掛け道具のようです。
ハムステッド・ヒースではさまざまな屋外イベントが定期的に開催されます。

現在、ケンウッド・ハウスとその庭園はイングリッシュ・ヘリテッジにより管理されている
ケンウッド・ハウスに関しては、歴代の所有者に深い歴史があるのですが、調べてみたところ、1925年、ギネス一族のひとり、ギネスビール社会長の初代アイヴィー伯爵エドワード・セシル・ギネスが、ケンウッド・ハウスと残されていた土地約30ヘクタールを購入したとのこと。私はちょうど、Netflix『ハウス・オブ・ギネス』のシリーズ1を観終えたところ。シリーズ2以降にケンウッド・ハウスが登場するかもしれませんね。
ドラマシリーズでは、ルイ・パートリッジが三男エドワードを演じている
また、ケンウッド・ハウスといえば、映画『ノッティング・ヒル』の撮影場所として有名ですね。
ケンウッド・ハウス内では、クリスマス用のギフト・ショップがオープンしていました。


たくさん歩いたので、カフェで休憩します。

ケーキに気持ちが傾きつつもまだ朝11時ということもあり、今回は見送りました

犬用のトリートも。ハムステッド・ヒースはドッグ・ウォーカーが本当に多いのです

私はブラックしか飲まないので、コーヒーにはウルさいのですが、ここのコーヒーは不味かったです

カフェの入り口はこの建物の奥。トイレも併設している

ケンウッド・ハウスの前のスペース
ウチの息子たちの学校は、ジュニア・ブランチの時、ここで毎年学年末ピクニックを開催していたので、そのときの思い出がよみがえってきます。

遠くにロンドンのランドマークが見えます

ビッグ・ベン、ロンドン・アイ、セント・ポール大聖堂、シャードなど
お天気が良かったら、もっとクリアに見えるのですが、今日は曇り空。

「ケンウッド・ビューポイント 2016:このパネルでは、今日私たちが目にする景色とケンウッド・ハウスの歴史とのつながりを紹介しています。ハイライトは、1754年から1793年までケンウッドの所有者であり、30年以上にわたり最高裁判所長官を務めたマンスフィールド卿にゆかりのある建物や、1920年代にケンウッドを国家のために守ろうとした運動に関連した建物などです。ケンウッドの素晴らしい美術コレクション、建物、敷地は誰でも無料でご覧いただけます。ぜひ今日訪れて、この家の歴史にどう関わることができるかをご覧ください」
イングリッシュ・ヘリテッジ、ケンウッド
レジデントだけでなく観光客からも愛されるハムステッド・ヒース。夏には散歩やピクニックを楽しむ人々で賑わい、コンサートやさまざまなイベントも開催されます。一方で、濡れた落ち葉が広がり、灰色の空が低く垂れ込める秋のヒースにも、しっとりとした趣があって実に魅力的です。
一番近い地下鉄の駅はハムステッドですが、ヒースはとにかく大きいので、どこから入ってもさまざまな楽しみ方が出来ると思います。
■近藤麻美
99年に渡英。英国のニュース、海外ドラマ、イギリス生活、食、教育、音楽、映画、演劇、歴史、ファッション、アートなど、英国にまつわる文化の多岐に渡る記事を執筆している。
linktr.ee/mamikondohartley
ご連絡は、mamikondohartley@gmail.comまで。
X:https://x.com/mami_hartley
Instagram:https://www.instagram.com/mamimoonismine
note:https://note.com/mamikondo_london
Link
https://www.cityoflondon.gov.uk/things-to-do/green-spaces/hampstead-heath
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